洋書レビュー
キャシー・グリーンバーグはシカゴ在住のアーティスト。というか、大学でモダンアートを学び、自身もモダンアート制作に取り組んでいるのだけれど、悲しいかな作品が高く評価されたことは一度もない。美術教師になりたいと願っているものの面接に落ちまくり…
SF小説によく用いられるモチーフがいわゆるliterary fictionに繰り返し登場するようになると、テクノロジーが社会に浸透したことを感じる。 たとえば、AIが登場するイアン・マキューアンの『恋するアダム』が出版されたのは2019年、そしてカズオ・イシグロの…
正直なところ、『うたかたの恋』は上演が発表されて大喜びしちゃうような作品ではない。心中というテーマが古めかしいだけでなく、歌も昭和の香りがして仰々しいと思っている。 それに、マリーというヒロインは娘役にとってかなり危険な役ではないだろうか。…
2021〜22年に発表されたマーガレット・アトウッドの短編とエッセイを読みました。思えば2012年からナオミ・オルダーマンとOnline Onlyのwattpadで"The Happy Zombie Sunrise Home"という短編を共著していたりと、インターネット媒体を活用することも非常に多…
夫と2人で旅行していた頃、スーツケースには何冊も本を入れていったものだ。飛行機や電車で「読むものがなくなった」と言うことの多い夫のために、彼が好きそうなエッセイまで見繕って持っていった。 いつの間にやら犬と赤ちゃん(ヒト)が家族に加わり、今…
どうやら、犬を飼うDNAというものがあるらしい。犬とヒトとの共存の秘密は、遺伝子に刻まれているらしい(英国とスウェーデンの研究による)。 人生の大半を犬と暮らしている人間としては、わかるわかるーと頷いてしまう。家族の古いアルバムを開けば、父方…
2022年のブッカー賞ショートリストにノミネートされた2冊を読んだ。 Small Things Like These / クレア・キーガン 『マグダレンの祈り』 『青い野を歩く』 Treacle Walker / アラン・ガーナー 『時間は存在しない』 『ふくろう模様の皿』 Oh William! / エリ…
Oh William! 2022年ブッカー賞ロングリスト Oh William! 今日はブッカー賞のショートリストの発表日だ。今年読んだロングリストノミネート作品は、もともと積んでいたエリザベス・ストラウトの Oh William! だけ。「ルーシー・バートン」シリーズ(?)の3作…
デイヴィッド・ロッジは『小説の技巧』(柴田元幸・斎藤兆史訳)で、意識の流れについて、こう書いている。 明らかにこの種の小説は、内面がさらされている登場人物に対する読者の共感を喚起しやすい。その意識がいかに虚栄に満ち、利己的で、下劣であったと…
ここ数週間、やたらと出版社さんのSNSでネラ・ラーセンのPassingを見かけるので、???と思っていたら、Netflixで映画化されていたのだった。 www.netflix.com いい機会だから読んでみようと購入した原作も短めだし、映画も1時間半ちょっとと短めなので、さ…
いつの間にか夏が終わり、9月1日からぐっと冷え込み、秋らしい秋を感じることのできないまま11月がやってきた。 我が家では9〜10月、コロナの影響で保育園休園、夫が不調でMRI(問題なしだった、よかった)、わたしは料理中に「彼女の体とその断片……薬指の標…
少し前に発表された宝塚歌劇団・星組の東上公演は、オスカー・ワイルドの戯曲『An Ideal Husband(角川文庫では『理想の結婚』)』をもとにした『ザ・ジェントル・ライアー』。もうそろそろ配役が出る頃ですね。 kageki.hankyu.co.jp 角川文庫版は絶版になっ…
[Girlsplaining] どっぷりとはまってしまった自伝的グラフィックノベル。著者はドイツの方で、わたしが読んだのは英訳(原書は2018年、翻訳は2021年出版)。 Girlsplaining (English Edition) アーティスト:Klengel, Katja 作者:Klengel, Katja BOOM! - Arch…
2021年ブッカー賞ロングリスト、3冊目。装丁が印象的。 Second Place: Longlisted for the Booker Prize 2021 作者:Cusk, Rachel Faber & Faber Amazon www.tokyobookgirl.com レイチェル・カスクはノンフィクション(育児や離婚といった自身の体験について…
[Cadáver exquisito] アルゼンチンの牛肉は格別においしい、とよく聞く。パンパを走り回り、牧草を食べて育つ牛の肉は締まっていて脂身が少なく、いわゆる肉らしい肉なのだと。牛肉消費量も年間285万トンで日本の2倍*1、1人あたりの消費量はなんと日本の6倍…
『文藝』2021年夏号(もふもふ〜)でカミラ・グルドーヴァの「ねずみの女王」を翻訳された上田麻由子さんが「人間が動物に変身する話」が近頃かなり多くみられると解題に書いていらしたのだが、読みながらこくこくとうなずいてしまった。本当〜〜〜に多い。…
[Frère d'âme] 今年の国際ブッカー賞を受賞したDavid Diop(ダヴィッド・ディオプ*1)の作品。いや〜とんでもない化け物みたいな本でした。読者を掴んで離さない。 翻訳小説としてはかなり珍しいことに、先日発表されたばかりのオバマ元大統領のサマーリーデ…
そういえば数年前、「イシグロの次の小説はSFだろうな」と思ったことがあったな、なんでだっけな……と考えていて、思い出した。イシグロが読んでいる本に、テクノロジーについての作品があったのだった。The Guardianのお気に入り記事の1つに、作家が読んでい…
今年はルーニーの3作目、Beautiful World, Where Are Youが発売される予定。その前にオンラインで読める短編は読んでおきたいなと思っているところ。とりあえず、こちらに備忘録としてまとめてみる。 Beautiful World, Where Are You: from the internationa…
[Los peligros de fumar en la cama] 国際ブッカー賞のショートリストにノミネートされていた、マリアーナ・エンリケスのThe Dangers of Smoking in Bedを読んだ。エンリケスの初短編集。読みながら何度も、「いいなあ……好きだなあ……」としみじみ思う。何度…
[Le diable au corps] 僕は愛などなくてもいられるように早く強くなりたかった。そうすれば、自分の欲望をひとつも犠牲にする必要がなくなる。 Je souhaitais d'être assez fort pour me passer d'amour et, ainsi, n'avoir à sacrifier aucun de mes désirs…
『フィーメール・マン / Female Man』ジョアナ・ラス(友枝康子訳) 数年前、『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んだときに「あ、あれ再読しよう」と思い、先日ついに発売されたよしながふみの漫画『大奥』の最終巻を読んで「あ、今度こそあれ読もう」と思っ…
[Romeo and Juliet] このブログには本のことだけ書こうと思っているのですが、東京宝塚劇場での上演が始まったばかりの星組『ロミオとジュリエット』を観劇(&感激……)したところなので、今日は星担による星組礼賛日記になってしまいそう。 さて、宝塚歌劇…
[Dead Girls] 「わたし、絶対にぜーったいにアルゼンチンの男の人とは結婚しないんだ。ていうか、イスパノアメリカの男の人とは結婚しない*1」 16歳のころ、アルゼンチン出身の友人がそう言った。「どうして?」と問うわたしたちに、彼女はいまだに根強いマ…
(ふつうのひと) 2018年のブッカー賞にもノミネートされた、サリー・ルーニーの長編2作目。2020年には映像化もされた(下にApple TVのリンクを貼りました。ドラマもよかったですね〜!)。描かれるのは2011年から2015年にかけて起こったできごと。高校から…
コロナ禍で両親以外の人の口元(マスクをしていない顔)をほとんど見る機会がないということが幼い子どもの脳に与える影響について、さまざまな国で研究が行われている*1。保育園児の母としては、大きな不安と焦りを感じる毎日だ。マスクをつけていなければ…
最近、恋愛小説が読みたくてたまらない。けれんみのない恋愛小説を心が求めている。どうしてだろう……と考えをめぐらせ、はたと気づく。これって、バブルの狂騒の時代に吉本ばななの小説が大ヒットしたのと同じ原理なのでは? 物質主義的な時代に辟易した人々…
The Happy Readerなんて、素晴らしすぎるタイトル。この記事を読んでくださっているあなたもわたしも、きっとa happy readerですよね。 これ、ペンギン・クラシックス(Penguin Classics)とFantastic Manが共同で出版している「Bookish Magazine」である。…
こちら、珍しくAmazonがすすめてくれて購入した本。「なんか違うんだよね〜」が多かったAmazonのおすすめタイトル、最近妙に精度が上がってきた。長い付き合いを経て、やっとわたしのことを理解してくれるようになった!?(キラキラ)と感激したのも束の間…
トーマス・C・フォスターによる『大学教授のように小説を読む方法』(矢倉尚子訳)には、「疑わしきはシェイクスピアと思え……」という章がある。 芝居が好き、登場人物が好き、美しい言葉が好き、追い詰められてもウィットを忘れない台詞が好き。……おそらく…