トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

ガーディアンの1000冊

月組の『グレート・ギャツビー』を観劇する前に読んだ&観た作品

月組『ギャツビー』も、後数日。千秋楽を観るのも楽しみにしています。 観劇前に読んだ&観た作品、いろいろ。 The Great Gatsbyと『グレート・ギャツビー(ギャッツビー)』(野崎孝、大貫三郎、村上春樹、小川高義・訳) The Chosen and the Beautiful / N…

白人として生きる黒人女性の話『Passing』(ネラ・ラーセン)

ここ数週間、やたらと出版社さんのSNSでネラ・ラーセンのPassingを見かけるので、???と思っていたら、Netflixで映画化されていたのだった。 www.netflix.com いい機会だから読んでみようと購入した原作も短めだし、映画も1時間半ちょっとと短めなので、さ…

『フィーメール・マン』とか『女の国の門』とか

『フィーメール・マン / Female Man』ジョアナ・ラス(友枝康子訳) 数年前、『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んだときに「あ、あれ再読しよう」と思い、先日ついに発売されたよしながふみの漫画『大奥』の最終巻を読んで「あ、今度こそあれ読もう」と思っ…

『快傑ゾロ』 ジョンストン・マッカレー

[The Mark of Zorro] 単純明快なストーリーに浸りたくて、久しぶりに再読。 二年前ほどにイサベル・アジェンデによる怪傑ゾロ・二次創作『ゾロ 伝説の始まり』を読んだ時から、読み返したいと思っていたのだった。 読んだのは創元推理文庫の井上一夫訳バージ…

『狭き門』 アンドレ・ジッド

[La porte étroite] 力を尽して狭き門より入れ。 『ルカ伝福音書』第一三章二四節 子供の頃は祖母や母の影響で、フランス文学を読むことがすごく多かった。 特に『狭き門』は二人のお気に入りだったと記憶している。 光文社古典新訳文庫で出ているのを発見し…

『オルノーコ / 美しい浮気女』 アフラ・ベイン(アフラ・ベーン)土井治訳

[Oroonoko] ガーディアンの1000冊("State of the Nation"部門)に選ばれている『オルノーコ』を読んだ。『美しい浮気女』と同時収録されている岩波文庫で。 1988年出版でもう絶版になっているのだけれど、数年前に神保町から連れて帰ったのだった。積ん読の…

『第三の男』グレアム・グリーン

[The Third Man] 例えば飛行機や新幹線の移動、カフェでの時間つぶし、あるいは予定のない土曜日。 ぱっと数時間で読了できて、ストーリーも面白く、かつ文学的な小説が読みたいと思う日がある。変に感情移入してしまい泣いたり笑ったりしたくない、ただただ…

『カラーパープル』 アリス・ウォーカー

[The Color Purple] 1985年にスピルバーグによって映画化された『カラーパープル』は2005年ブロードウェイミュージカルにもなった。そしてなんと、このミュージカル版を映画化するというニュースが昨年末に発表された。 プロデューサーは1985年の映画を手が…

『ダロウェイ夫人』 ヴァージニア・ウルフ

[Mrs Dalloway] どんな本も、出会うタイミングというものがあるのだなと最近とみに感じる。 昨年『100分で名著』で、『赤毛のアン』を紹介していた茂木健一郎さんの話を聞いていたときも、そう実感したのだった。茂木さんは、11歳の時に図書館で『赤毛のアン…

『ヴェネツィアに死す』トーマス・マン: 美しいものを見ることには価値がある

[Der Tod in Venedig] 「美しいものを見つめることは、魂に作用する」と言ったのはミケランジェロ。 「美しいものを見ることには価値がある」と言ったのは上田久美子先生(宝塚歌劇団)。 『ヴェネツィアに死す』(もしくは『ヴェニスに死す』)というタイト…

『闇の左手』 アーシュラ・K・ル・グィン

[The Left Hand of Darkness] アーシュラ・K・ル・グィンの作品といえば、なんといっても「映像化にことごとく失敗している」ことが思い浮かぶ。 「失敗」の定義は色々あるので、あくまで私の個人的意見だが ・興行的に振るわない ・作者自身に酷評されてい…

『見えない都市』イタロ・カルヴィーノ

[Le Città Invisibili] 旅に出るといつも考えることがある。 隣にいる人(夫、友人、家族)の目に映る風景は、私が見ているものと同じなのだろうか? 初めてこの街を訪れた時の私の目に映った「街」と、三回目に訪れた「街」は何が違っているだろう。どうす…

『美しさと哀しみと』 川端康成

このブログは「海外文学&洋書レビュー」と銘打って始めたので、日本文学のことは書くつもりはなかったのだけれど、本作は「ガーディアンの1000冊」にも選ばれた1冊なので特別に。 1000 novels everyone must read: the definitive list | Books | The Guard…

『失われた時を求めて スワン家のほうへ』 マルセル・プルースト

[À la recherche du temps perdu] というわけで、今夏も読み返した『失われた時を求めて スワン家のほうへ』の感想を。ちょうどいいタイミングで、9月15日にBSで映画『スワンの恋』も放送されたのです。この話も後ほど。 スワンの恋 [DVD] 出版社/メーカー: …

『失われた時を求めて ソドムとゴモラ』 マルセル・プルースト: LGBTQ文学の先駆け

[À la recherche du temps perdu] 私のサマー・リーディングといえば、ここ何年かは必ず『失われた時を求めて』だ。でもこれが、遅々として進まない。読んだことのない巻を手に取ると、必ず「スワン家のほうへ」まで戻って最初から読んでしまうから。それだ…

『サマルカンド年代記』アミン・マアルーフ

[Samarcande] 今年はウズベキスタンに行きたいなと考えている。美しい遺跡や霊廟を見てみたいし、夫婦揃ってラム好きなので楽しめそう。ちなみに、名物のラグマンは以前食べたことがあるがかなり美味しかった記憶がある。というわけで、この本を読んでみた。…

ボリス・パステルナークの『ドクトル・ジバゴ / Doctor Zhivago』が宝塚にぴったりな理由

[Доктор Живаго] I also think that Russia is destined to become the first realm of socialism since the existence of the world. When that happens, it will stun us for a long time, and, coming to our senses, we will no longer get back the mem…

『誰がために鐘は鳴る』 アーネスト・ヘミングウェイ

[For Whom the Bell Tolls] 新聞記者、特派員として活躍した若きヘミングウェイはパリで小説を書き始める。1930年代には人民戦線(Frente Popular)を助けるべくスペイン内戦にも参加し、その経験をもとに長編小説を書き上げた。その内の1つが『誰がために鐘…

『地下室の手記』 ドストエフスキー

[Записки из подполья] そういえば『地下室の手記』を読んだことがないなあと思って手に取ってみた。 『カラマーゾフの兄弟』などの大作を生み出すきっかけとなり、ジッド曰く「ドストエフスキーの全作品を解く鍵」とされる重要な作品。 これがなんとも言え…

『ボヴァリー夫人』フローベール: 文学史上最大のダメ女?

[Madame Bovary] わたし、どうして結婚なんかしてしまったんだろう? そんな声が全てのページから聞こえてくるような小説である。新潮文庫の表紙の絵も然り。夫人の背中からは、後悔が匂いたつよう。 ボヴァリー夫人 (新潮文庫) 作者: ギュスターヴフローベ…

『侍女の物語』 マーガレット・アトウッド(斎藤英治・訳): 結婚して初めて分かったこと

[The Handmaid's Tale] マーガレット・アトウッドの『侍女の物語』を初めて読んだのはまだ10代の頃だった。 その後大学の授業でも読んだし、社会人になってからも読み返した。 繰り返し読んだので思い入れのある作品ではあるが、どこか自分からは遠い架空の…

グレアム・グリーンの『情事の終り』と、江國香織 

[The End of the Affair] 『情事の終り』というタイトルから、いろいろと考えてしまった。原題は"The End of the Affair"。邦題もとても素敵。 情事の終り (新潮文庫) 作者: グレアムグリーン,Graham Greene,上岡伸雄 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2014/…

『崩れゆく絆』チヌア・アチェベ

[Things Fall Apart] ナイジェリアという国は非常に多くの小説家を生み出している。チヌア・アチェベ、ウォーレ・ショインカ(アフリカ人初のノーベル文学賞受賞者)、ベン・オクリなど。若い作家の台頭も目覚ましい。チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ、…

34年後の『一九八四年』

[1984] ニュースは政府の見解を垂れ流し、一般市民の監視は警察の主要な活動となり、理性的な操作や差し押さえといったものは今やジョークに過ぎない。そんな例は枚挙にいとまがない。「ああ、政府が<ビッグ・ブラザー>に変わっちまった。オーウェルの予測…

『シェリ』 コレット(工藤庸子・訳)

[Chéri] 最近、胸焼けするまで恋愛小説を読みたいなあという気分。『ガーディアンの1000冊』リストのうち、"Love"からいくつか選んで読む予定を立てている。 www.theguardian.com ということで、まずは長らく積ん読にしていたコレットの『シェリ』を。 シェ…

ヴォルテールの『カンディード』とSATC

大学を卒業してもうすぐ10年である。社会で働き始めてもうすぐ10年、でもある。 「もっと真面目に勉強しておけばよかったなあ」と思うことはないのだが、「今だったら、あの授業をもっと楽しんで受けられたなあ」と感じることは本当によくある。 秋の夜長は…

『三銃士』 アレクサンドル・デュマ(竹村猛・訳)

[Les Trois Mousquetaires] こんにちは、トーキョーブックガールです。 色々な方の感想をすでにインターネット上で拝見していますが、私はまだ『All for One』を観ていません! 今月末観劇予定なので楽しみ♡ ということで……今月は予習も兼ねて、デュマの『三…

『ベラミ』 モーパッサン: 史上最強の色男

[Bel Ami] 100スーの銀貨を出した釣りを勘定台の女から受け取ると、ジョルジュ・デュロワはレストランの外へ出た。 押出の立派なこの男は、生まれつきと退役下士官のくせでぐっとそり身になったかと思うと、慣れた軍人式の手つきで口髭をひねり、それからま…

『高慢と偏見』はインスピレーションの泉

[Pride and Prejudice] 21世紀に生きる私たちをもとりこにするジェーン・オースティン作品。もちろん最も有名なのは『高慢と偏見』だろう。何度となく映画化&ドラマ化され、その度に人気を博している。 高慢と偏見〈上〉 (岩波文庫) 作者: ジェーンオーステ…

『悲しみよこんにちは』 フランソワーズ・サガン(朝吹登水子・訳)

[Bonjour Tristesse] 一番好きな本なんて決められないけれど、一番読み返している本は間違いなく『悲しみよこんにちは』である。 毎年毎年、夏が来るたびに読み返す。 このバカンスの物語は、どうしたって夏の空気の中で読みたいですからね。 夏の旅行にも大…