トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

国際ブッカー賞

2023年・国際ブッカー賞(ロングリスト)の関連本(?)いろいろ

今年の国際ブッカー賞のロングリストにノミネートされたのは13冊。 Permafrostの著者、Eva BaltasarのBoulderとか、初めてノミネートされたブルガリア語&タミル語からの翻訳作品とか、気になる作品がたくさん。 thebookerprizes.com 『鯨』チョン・ミョング…

最近読んだ「犬」小説

どうやら、犬を飼うDNAというものがあるらしい。犬とヒトとの共存の秘密は、遺伝子に刻まれているらしい(英国とスウェーデンの研究による)。 人生の大半を犬と暮らしている人間としては、わかるわかるーと頷いてしまう。家族の古いアルバムを開けば、父方…

2022年 国際ブッカー賞受賞作は『Tomb of Sand』

*2022-05-29: 作者の出身地について、赤字で修正しています。 2022年5月26日(英国)、国際ブッカー賞受賞作が発表されました。受賞したのはTomb of Sand(Geetanjali Shree著、Daisy Rockwell訳)! インドの言語で執筆され、翻訳された作品が国際ブッカー…

2022年 国際ブッカー賞ショートリスト

www.tokyobookgirl.com 4月7日、国際ブッカー賞(The International Booker Prize)のショートリストが発表された。ロングリストにノミネートされた13冊のうち、ショートリストに残ったのは6冊。 thebookerprizes.com 今年はアジア圏の作品が5作品もロングリ…

2022年 国際ブッカー賞ロングリスト

www.tokyobookgirl.com あっという間に3月。国際ブッカー賞のロングリスト(Women's Prize for Fictionも〜)も発表されました。 thebookerprizes.com ロングリスト入りしたのは13冊。今年はアジア圏の小説が5作品とかなり増えているのが特徴的(去年は残雪…

Distancia de rescate / サマンタ・シュウェブリン

我が子が1歳半くらいになったとき、真夜中にふと目が覚めた。すぐにわかった。とうとうやってきたのだ、「あれ」が。ひたひたと全身を満たすように増幅していく恐怖は、どこか懐かしいものでもあった。やがてくると知っていたから。 いわゆる想像力の暴走だ…

At Night All Blood is Black / ダヴィッド・ディオプ(アンナ・モスコヴァキス訳)

[Frère d'âme] 今年の国際ブッカー賞を受賞したDavid Diop(ダヴィッド・ディオプ*1)の作品。いや〜とんでもない化け物みたいな本でした。読者を掴んで離さない。 翻訳小説としてはかなり珍しいことに、先日発表されたばかりのオバマ元大統領のサマーリーデ…

The Dangers of Smoking in Bed / マリアーナ・エンリケスの原点(Megan McDowell訳)

[Los peligros de fumar en la cama] 国際ブッカー賞のショートリストにノミネートされていた、マリアーナ・エンリケスのThe Dangers of Smoking in Bedを読んだ。エンリケスの初短編集。読みながら何度も、「いいなあ……好きだなあ……」としみじみ思う。何度…

2021年 国際ブッカー賞受賞作はAt Night All Blood is Black

6月2日、国際ブッカー賞の受賞作が発表に。フランス人作家の受賞は初めてとのこと。日本語にも翻訳されるかな? At Night All Blood is Black / David Djop(Anna Moschovakis 訳) フランス語から翻訳 At Night All Blood is Black 作者:Diop, David 発売日…

2021年 国際ブッカー賞ショートリスト

今日は、全然関係ない話から始めましょう。このページを見てくださっているみなさまは、Chromeユーザーですか? Chromeってすごくおもしろい拡張機能があるんです。わたしがたまたま最近発見しただけで、数年前からあるので、ご存知の方も多いかも。その名も…

2021年 国際ブッカー賞ロングリスト

*この記事では「国際ブッカー賞」について書いています。2021年の「ブッカー賞」の記事はこちら(↓)です。 www.tokyobookgirl.com www.tokyobookgirl.com www.tokyobookgirl.com 2021年の国際ブッカー賞ロングリストが発表された。今年も多様な作品がノミネ…

Little Eyes / サマンタ・シュウェブリン(Megan McDowell訳): あなたは「見る」人? 「見られる」人?

英語訳のタイトルがとてもいい。"I spy with my little eyes..."のLittle Eyes。 そしておそらく、"big brother"をも意識しているのだろうと思われる。『一九八四年』でジョージ・オーウェルが描いた監視社会を、シュウェブリンも描こうとしているから。しか…

2020年 国際ブッカー賞受賞作はThe Discomfort of Evening

更新が滞ってしまいました。みなさまはお元気ですか? わたしはとっても元気! 今年は仕事と育児に加えて、勉強も(コロナの影響で仕事に余裕が出るんじゃないかと踏んでいた……勘違いだった)と、頭と体をフル回転させています。なかなかブログ(やInstagram…

Celestial Bodies / Jokha Alharthi(Marilyn Booth訳): 変わりゆくオマーンの女性たち、男性たち

[سيدات القمر] 2019年のブッカー国際賞を受賞した、オマーン人作家Jokha AlharthiによるCelestial Bodies(Marilyn Booth訳)。平塚らいてうの「原始、女性は太陽であった」という言葉をなんとなく思い出してしまう題名ではないですか。 原題はSayyidat al-q…

『密やかな結晶』 小川洋子

[The Memory Police] 今年は日本文学の「当たり年」だと主張する、英語圏の記事やInstagram/Twitter投稿を多く見かけた2020年初頭。あまり話題にならなかった(らしい)2019年とは打って変わって、今年は初めて英語に翻訳される日本人作家の作品も多く、とり…

2020年 国際ブッカー賞ショートリスト

*新型コロナウイルスの影響により、国際ブッカー賞*1の受賞作品発表が、当初予定されていた5月から8月26日まで延期となりました。 ちなみにWomen's Prize for Fictionの受賞作発表も9月に延期が決定。残念ですが、公式Twitterアカウントの言う通り、more tim…

2020年 国際ブッカー賞ロングリスト

2月27日がやってきました。 今年国際ブッカー賞*1のロングリストにノミネートされたのは、この13作品。 審査員には、2018年ブッカー国際賞を受賞したオルガ・トカルチュクの『逃亡派』の翻訳者ジェニファー・クロフト(Jennifer Croft)や、『俺の歯の話』の…

2019年のブッカー国際賞はJokha AlharthiのCelestial Bodies / Best Translated Book AwardのShortlistのこと

*この記事は、「ブッカー国際賞」に関するものです。 2019年の「ブッカー賞」ロングリストは、こちらから。 www.tokyobookgirl.com ブッカー国際賞 イギリスの5月21日に発表となったブッカー国際賞、今年受賞したのはJokha AlharthiによるCelestial Bodiesだ…

2019年 ブッカー国際賞ショートリスト

ブッカー国際賞、ショートリストが発表されました。 今年の特徴はなんといっても、6作品中5作品が女性作家によるもので、翻訳者に限って言えば全員が女性なことではないでしょうか。 The New York Timesも、The Guardianもその事実を大きく取り上げている。…

『ピアノ・レッスン』 アリス・マンロー: 断筆宣言済み作家のデビュー作は50年の時を経てもみずみずしい

[Dance of the Happy Shades] マンローのデビュー作ということで、英語圏で出版されたのは、なんと1968年! その事実にびっくりしてしまう。日本語訳が出版されたのが去年なので、ちょうど50年の時を経て発売されたということになるが、翻訳者の小竹由美子さ…

2019年 ブッカー国際賞ロングリスト

*この記事は、「2019年のブッカー国際賞」に関する記事です。 2020年のブッカー国際賞のショートリストはこちらをどうぞ。 www.tokyobookgirl.com あっという間にこの時期がきてしまった。 2005年に創設され、著者と英語への翻訳者が共同受賞するブッカー国…

『北は山、南は湖、西は道、東は川』 クラスナホルカイ・ラースロー

[ÉSZAKRÓL HEGY, DÉLRŐL TÓ, NYUGATRÓL UTAK, KELETRŐL FOLYÓ] 現代ハンガリーを代表する作家の一人だというラースローの作品を初めて読んだ。初めて読む作家なのに、ちょっと変わり種に手を出してしまったかな〜というのが最初の感想。本作は、著者が京都に…

『フランケンシュタイン』と『メアリーの総て』とFrankenstein in Baghdad(『バグダードのフランケンシュタイン』)

(バグダードのフランケンシュタイン) 大人になってから初めて『フランケンシュタイン』を読み返した。 子供の頃は、この話について、まあなんと理解できていなかったことか! 今だって理解できているのかと言われれば疑問が残るが、幼い時分はどこまでも追…

『口のなかの小鳥たち』 サマンタ・シュウェブリン

[Pájaros en la boca] 最近ラテアメ文学の再読ばかりしていて気がついた。邦訳されているイスパノアメリカ文学は圧倒的に男性作家ばかりだなと。 もちろんラテンアメリカには男性作家しかいないのかというとそんなわけはなく、大学の頃授業で学んだ作品は男…

2018年のブッカー国際賞はオルガ・トカルチュクの『逃亡派』

イギリスの5月22日、日本時間の昨夜発表になったブッカー国際賞。 受賞したのはオルガ・トカルチュクの『逃亡派』。翻訳者はジェニファー・クロフト(Jennifer Croft)。ポーランド人作家として初めての受賞となる。 ノミネート作品の中では唯一邦訳が出版済…

2018年 ブッカー国際賞ショートリスト

(アップデート 2018-05-23) 2018年ブッカー国際賞はオルガ・トカルチュクの『逃亡派』に決定。 www.tokyobookgirl.com 2018年ブッカー国際賞のショートリストが昨日発表されましたね*1。 2005年に創設された国際賞。当初は隔年選出だったものの、2016年か…

『崩れゆく絆』チヌア・アチェベ

[Things Fall Apart] ナイジェリアという国は非常に多くの小説家を生み出している。チヌア・アチェベ、ウォーレ・ショインカ(アフリカ人初のノーベル文学賞受賞者)、ベン・オクリなど。若い作家の台頭も目覚ましい。チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ、…