トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

映画化

宝塚・花組『うたかたの恋』観劇前に読んだ本

正直なところ、『うたかたの恋』は上演が発表されて大喜びしちゃうような作品ではない。心中というテーマが古めかしいだけでなく、歌も昭和の香りがして仰々しいと思っている。 それに、マリーというヒロインは娘役にとってかなり危険な役ではないだろうか。…

最近読んだ「犬」小説

どうやら、犬を飼うDNAというものがあるらしい。犬とヒトとの共存の秘密は、遺伝子に刻まれているらしい(英国とスウェーデンの研究による)。 人生の大半を犬と暮らしている人間としては、わかるわかるーと頷いてしまう。家族の古いアルバムを開けば、父方…

白人として生きる黒人女性の話『Passing』(ネラ・ラーセン)

ここ数週間、やたらと出版社さんのSNSでネラ・ラーセンのPassingを見かけるので、???と思っていたら、Netflixで映画化されていたのだった。 www.netflix.com いい機会だから読んでみようと購入した原作も短めだし、映画も1時間半ちょっとと短めなので、さ…

オスカー・ワイルドの『An Ideal Husband / 理想の結婚 / 理想の夫』と、宝塚歌劇団星組の『ザ・ジェントル・ライアー』

少し前に発表された宝塚歌劇団・星組の東上公演は、オスカー・ワイルドの戯曲『An Ideal Husband(角川文庫では『理想の結婚』)』をもとにした『ザ・ジェントル・ライアー』。もうそろそろ配役が出る頃ですね。 kageki.hankyu.co.jp 角川文庫版は絶版になっ…

『肉体の悪魔』ラディゲ(中条省平・訳): いつ読んでも印象がまったく変わらない不思議な小説

[Le diable au corps] 僕は愛などなくてもいられるように早く強くなりたかった。そうすれば、自分の欲望をひとつも犠牲にする必要がなくなる。 Je souhaitais d'être assez fort pour me passer d'amour et, ainsi, n'avoir à sacrifier aucun de mes désirs…

『ロミオとジュリエット』シェイクスピア(小田島雄志・訳、松岡和子・訳、宝塚歌劇団星組): 疾走する命

[Romeo and Juliet] このブログには本のことだけ書こうと思っているのですが、東京宝塚劇場での上演が始まったばかりの星組『ロミオとジュリエット』を観劇(&感激……)したところなので、今日は星担による星組礼賛日記になってしまいそう。 さて、宝塚歌劇…

『冬物語』 シェイクスピア(The Winter's Tale、小田島雄志・訳、松岡和子・訳)

トーマス・C・フォスターによる『大学教授のように小説を読む方法』(矢倉尚子訳)には、「疑わしきはシェイクスピアと思え……」という章がある。 芝居が好き、登場人物が好き、美しい言葉が好き、追い詰められてもウィットを忘れない台詞が好き。……おそらく…

『ロシュフォールの恋人たち』は『十二夜』(シェイクスピア)から着想を得ているのか

[Twelfth Night] コロナ禍では演劇、ミュージカル、オペラ、バレエが軒並み中止され、どうなってしまうんだろうと思っていたけれど、気を揉んでいるうちに色々と再開の運びとなり、ライブ配信も一般化し、新たな観劇の方法が確立されつつある。とはいえ、い…

『虹をつかむ男』 ジェイムズ・サーバー

[The Secret Life of Walter Mitty and Other Stories] 完全にジャケ買い。サーバー自身によるイラストがかわいい。表題作が『LIFE!』として数年前に映画化されていた短編集だが、この映画は観ていない。 虹をつかむ男 (ハヤカワepi文庫) 作者: ジェイムズ・…

『第三の男』グレアム・グリーン

[The Third Man] 例えば飛行機や新幹線の移動、カフェでの時間つぶし、あるいは予定のない土曜日。 ぱっと数時間で読了できて、ストーリーも面白く、かつ文学的な小説が読みたいと思う日がある。変に感情移入してしまい泣いたり笑ったりしたくない、ただただ…

『カラーパープル』 アリス・ウォーカー

[The Color Purple] 1985年にスピルバーグによって映画化された『カラーパープル』は2005年ブロードウェイミュージカルにもなった。そしてなんと、このミュージカル版を映画化するというニュースが昨年末に発表された。 プロデューサーは1985年の映画を手が…

『ヴェネツィアに死す』トーマス・マン: 美しいものを見ることには価値がある

[Der Tod in Venedig] 「美しいものを見つめることは、魂に作用する」と言ったのはミケランジェロ。 「美しいものを見ることには価値がある」と言ったのは上田久美子先生(宝塚歌劇団)。 『ヴェネツィアに死す』(もしくは『ヴェニスに死す』)というタイト…

On The Come Up / アンジー・トーマス: 『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』作者による待望の第2作目

(オン・ザ・カムアップ) 去年はYAをたくさん読んだけれど、ダントツで面白かったのがアメリカにおける黒人差別とともにゲットーで生まれ育った少女の精神的成長を描いた『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』だった。 ともすれば重くなりがちなトピックスを、90年代…

My Sister, the Serial Killer / オインカン・ブレイスウェイト(Oyinkan Braithwaite)

(マイ・シスター、シリアルキラー) ジャケ&タイトル買いしてしまった一冊。 My Sister, the Serial Killer 作者: Oyinkan Braithwaite 出版社/メーカー: Atlantic Books 発売日: 2019/10/03 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る 作者のO…

The Coincidence Makers(偶然仕掛け人) / ヨアブ・ブルーム

[מצרפי המקרים] 出張先の本屋さんで見つけて、「おっ!」となった作品。 このタイトルと、著者のユダヤ系の名前を見て思い出したのです。もう10年近く前にイスラエル系の友人(村上春樹好き、初めて読んだ村上作品はNorwegian Wood)からこの本が面白いと聞…

『オペラ座の怪人』 ガストン・ルルー(平岡敦・訳)

[Le Fantôme de l'Opéra] わたしはミュージカルが大好き。生まれて初めて観たミュージカルは確かThe Wizard of Oz(オズの魔法使い)で、生まれて初めて「これ、好きだな!」と思ったミュージカルはAnything Goesだったと記憶している。だからなのか、大人に…

『82年生まれ、キム・ジヨン』 チョ・ナムジュ

[82년생 김지영] 『VERY』 1月号を読んでいて、「色々と話題になりそうだな」と思った記事があった。 「きちんと家のことをやるなら働いてもいいよ」と将来息子がパートナーに言わないために今からできること、VERY1月号の記事が話題に - Togetter 案の定Twi…

『ずっとお城で暮らしてる』シャーリイ・ジャクスン(市田泉・訳)

[We Have Always Lived in a Castle] 恐怖小説の女帝的存在のシャーリイ・ジャクスンによる『ずっとお城で暮らしてる』が、映画化(アメリカでは2019年5月公開予定)ということで、原作を再読した。 ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫) 作者: シャーリィ…

『フランケンシュタイン』と『メアリーの総て』とFrankenstein in Baghdad(『バグダードのフランケンシュタイン』)

(バグダードのフランケンシュタイン) 大人になってから初めて『フランケンシュタイン』を読み返した。 子供の頃は、この話について、まあなんと理解できていなかったことか! 今だって理解できているのかと言われれば疑問が残るが、幼い時分はどこまでも追…

マルジャン・サトラピが大好き

ブッカー賞で初めてグラフィックノベル(ニック・ドルナソのSabrina)がノミネートされたりと、2018年はますますバンド・デシネ*1やグラフィックノベル*2に注目が集まる年だった気がする。 さて、私にとってバンド・デシネへの扉を開けてくれた、思い出の作…

『傾城の恋 / 封鎖』 張愛玲

[傾城之恋] ・張愛玲の『色、戒』*1が好き。 ・映画化された『ラスト、コーション』や香港映画『花様年華』にはまった。 ・『高慢と偏見』や『細雪』など、お見合い・結婚についてのドタバタ劇が好き。 ・『風と共に去りぬ』のスカーレットとレッド・バトラ…

『美しさと哀しみと』 川端康成

このブログは「海外文学&洋書レビュー」と銘打って始めたので、日本文学のことは書くつもりはなかったのだけれど、本作は「ガーディアンの1000冊」にも選ばれた1冊なので特別に。 1000 novels everyone must read: the definitive list | Books | The Guard…

『失われた時を求めて スワン家のほうへ』 マルセル・プルースト

[À la recherche du temps perdu] というわけで、今夏も読み返した『失われた時を求めて スワン家のほうへ』の感想を。ちょうどいいタイミングで、9月15日にBSで映画『スワンの恋』も放送されたのです。この話も後ほど。 スワンの恋 [DVD] 出版社/メーカー: …

『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ』 アンジー・トーマス

[The Hate U Give] メンバーの投票で決定した2018年5-6月のOur Shared Shelf(エマ・ワトソン主催のブッククラブ)お題本は2冊あるのだけれど、1冊目は『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』というYA小説! そろそろ読み始めようかなと思った頃、偶然書店で日本語訳を…

『ベル・ジャー / The Bell Jar』 シルヴィア・プラス: 映画化が決定

[The Bell Jar] It was a queer, sultry summer, the summer they electrocuted the Rosenbergs, and I didn’t know what I was doing in New York. 10代の頃の自分の読書ログを眺めていたら、The Bell Jarについて「ここ数年読んだ本の中で一番好き」とだけ…

ボリス・パステルナークの『ドクトル・ジバゴ / Doctor Zhivago』が宝塚にぴったりな理由

[Доктор Живаго] I also think that Russia is destined to become the first realm of socialism since the existence of the world. When that happens, it will stun us for a long time, and, coming to our senses, we will no longer get back the mem…

『蜘蛛女のキス』 マヌエル・プイグ

[El Beso de la Mujer Arana] 人が見た映画や、読んだ小説の話を聞くのが大好きである。 人の記憶の中の映画や小説はとんでもなく面白く感じられる。その後話題に上がった映画を見たり小説を読んだりしても、話を聞いている時ほど面白く感じない。その人の主…

『侍女の物語』 マーガレット・アトウッド(斎藤英治・訳): 結婚して初めて分かったこと

[The Handmaid's Tale] マーガレット・アトウッドの『侍女の物語』を初めて読んだのはまだ10代の頃だった。 その後大学の授業でも読んだし、社会人になってからも読み返した。 繰り返し読んだので思い入れのある作品ではあるが、どこか自分からは遠い架空の…

『三銃士』 アレクサンドル・デュマ(竹村猛・訳)

[Les Trois Mousquetaires] こんにちは、トーキョーブックガールです。 色々な方の感想をすでにインターネット上で拝見していますが、私はまだ『All for One』を観ていません! 今月末観劇予定なので楽しみ♡ ということで……今月は予習も兼ねて、デュマの『三…

Rosaura a las diez / Marco Denevi: 10時のロサウラ

先日もちらっと書いた Rosaura a Las Diez*1。「10時のロサウラ」。1955年に出版された、Marco Denevi(マルコ・デネヴィ)のデビュー作。 舞台やドラマ、映画化もされた大ヒット作である。 かなり昔の作品だが、日本のAmazonでもペーパーバックを良心的な価…