トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

『ずっとお城で暮らしてる』シャーリイ・ジャクスン(市田泉・訳)

[We Have Always Lived in a Castle]

 恐怖小説の女帝的存在のシャーリイ・ジャクスンによる『ずっとお城で暮らしてる』が、映画化(アメリカでは2019年5月公開予定)ということで、原作を再読した。 

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

 

 こちらがトレイラー。

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 監督やキャストは次の通り。

 なんといってもチャールズ役がセバスチャン・スタン(『ゴシップガール』のカーター・ベイゼン)というのがいい。一見好青年風なのに、主人公のメリキャットに対しては徹底的にイヤな奴というチャールズを演じさせたら天下一品なのでは。早く観たい。

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 『くじ』など、ぞくっとしてしまうような悪意のある小説を書かせたら右に出るものはいないシャーリイ・ジャクスンの作品の日本語訳は、ここ数年新装版の出版が相次いでいて、多くの読者に再発見・再評価されている感がある。

 『ずっとお城で暮らしてる』だって、一言で言えば「悪意の塊」のような小説だ。

 「あたし」ことメリキャットは十八歳。姉さんのコンスタンスと、体が不自由なジュリアンおじさんと、お城のような大豪邸で暮らしている。三人以外の家族は、食事に砒素が入っていたことが原因で全員死んでしまっていた。 

 村へ買い物へ行くのは週二回。村の人々は「ずっとあたしたちを憎んでいた」。

 これ見よがしに悪口を言われたり、かげでクスクス笑われたり、子供たちの遊び歌に名前を使われてからかわれたり。村へ出るたび、メリキャットはとんでもない憎悪を一身に受ける。平然としてそれを受け流すのだが、彼女の心の中だって村人たちに負けず劣らず真っ黒で、「村じゅうの人が死んじゃえばいいのに」と考えている。

 そんなある日、従兄弟だと名乗るチャールズという男性がお城を訪ねてくる。彼は、お城に引きこもっている美しいコンスタンスに、外へ出るよう促し……。

 

 村人はもちろん、メリキャットという少女の抱える憎しみの大きさには思わずのけぞってしまうほどだ。読んでいるだけでチャールズを見つめる冷たい視線を感じられるようだし、十八歳にしてはあまりに幼いその行動は狂気を秘めている。

 それでも、彼女のことを気持ち悪い、怖い、嫌いだと言い切れないのは、メリキャットの行動の裏に「寂しい、辛い」と叫ぶ魂が見え隠れするからだ。家族にネグレクトされてきた記憶。誰からも愛されなかった少女。

 チャールズを排除しようとするところなど、姉の結婚にすっかり意気消沈し、姉にかわる存在を必死に探す妹を描いた大島弓子の『バナナブレッドのプディング』を思い出した。

バナナブレッドのプディング (白泉社文庫)

バナナブレッドのプディング (白泉社文庫)

 

 

 『お城』はトリックアートのような面もあって、なんだか引っかかる描写がいくつも登場する。もしかして、こういうこと? ああいうこと? と、想像がどこまでもふくらむのもこの本を読む醍醐味。

 ちなみに、創元推理文庫の表紙も綺麗かつダークで、『お城』の世界観を巧みに表していてお気に入り。