[The Secret Life of Walter Mitty and Other Stories]
完全にジャケ買い。サーバー自身によるイラストがかわいい。表題作が『LIFE!』として数年前に映画化されていた短編集だが、この映画は観ていない。
サーバーは1894年にオハイオ州で生まれ、国務省の暗号部員をつとめたのち、『ニューヨーカー』誌などで編集者&寄稿家(短編小説とイラスト)として活躍した人物だ。
まさに『ニューヨーカー』という感じが、その文章からもイラストからも漂っていて、例えば電車に乗っている間や歯医者さんで順番待ちをしている間にさっと読めて、くすりと笑えるような短編ばかりだった。
まず、本人による序文からして笑える。サーバーの生い立ちに関してどうのこうのと、割とどうでもいい話を大真面目に、知り合いの振りなんぞして滔々と語っている。
収録されているのは25編の短編小説。
虹をつかむ男、世界最大の英雄、空の歩道、カフスボタンのなぞ、ブルール氏異聞、マクベス殺人事件、大衝突、142列車の女、ツグミの巣ごもり、妻を処分する男、クイズあそび、ビドウェル氏の私生活、愛犬物語、機械に弱い男、決闘、人間のはいる箱、寝台さわぎ、ダム決壊の日、オバケの出た夜、虫のしらせ、訣別、ウィルマおばさんの感情、ホテル・メトロポール午前二時、一種の天才、本箱の上の女性
特に面白かったのは以下のとおり。
「虹をつかむ男」The Secret Life of Walter Mitty
ウォルター・ミティは空想癖のある男。妻と車で出かけているだけなのに、頭の中では海軍飛行艇を操縦してみたり、大手術を任された医師になってみたり……。冴えない中年男の止まらない妄想がなんともいえない。
「空の歩道」The Curb in the Sky
こういった、長年連れ添った夫婦間のいざこざというかちょっとしたやり合いを描いた作品が多いのはやはり掲載媒体ゆえかな。
夫の言うことにとにかく口を挟み訂正しまくる夫人の話。なんとなく男と女のカップルってこういうものだよなという感じがある。
「ブルール氏異聞」The Remarkable Case of Mr. Bruhl
ギャングにそっくりだと言われ、実際に敵対するギャング団から命を狙われそうになったとある富裕層の男性が、極度の不安からいつの間にやらギャングのような扮装をして、ギャングのような喋り方をし始める……。ありそうでなさそうな、笑える話。
「マクベス殺人事件」The Macbeth Murder Mystery
読書好きにはたまらない逸品。イングランドの湖畔地方で、同じホテルに泊まっていたアメリカ人女性と知り合いになる。すると彼女が突然こんな話を始める。「ペンギンブックスと一緒に並んでたから、推理小説だと思って誤ってシェイクスピアを買ってしまった」と。アガサ・クリスティーを読みたくてうずうずしていた女性は、なんと『マクベス』を推理小説として読み始めるのだ!
マクベスが王様を殺したなんて全然考えられないわ。それからマクベスのおかみさんがグルになってるとも思えないわね……[略]……あやしいのにかぎって絶対シロなのよ
なんて言って。彼女も彼女なら、のりのりになって付き合う語り手も語り手だ。でも面白いな〜。こういう話。
「妻を処分する男」Mr. Preble Gets Rid of His Wife
秘書と駆け落ちしたいがために、いつも口うるさい妻を処分してしまおうと決意した男。地下室に葬ろうと計画するのだが、妻の尻に敷かれた状態の彼は計画の一から十まで、あろうことか妻に仕切られっぱなしになり……。
サーバーお得意の夫婦もの、ここに極まれりといった感がある。
「愛犬物語」Josephine Has Her Day
スコッチテリアが飼いたかったのに、なぜかメスのブルテリアを飼ってしまった夫婦の話。この子犬がぐったりしているので「出だしは良かったけど最後は落ちぶれた」ナポレオンの妻からジョセフィンなんて名付けちゃって。あまり理想とかけ離れているので、他の人に譲って自分たちはスコッチテリアを飼おうと決意するのだが……。
夫婦どちらも、それぞれジョセフィンに愛着を感じてしまっていることに気づくあたりが楽しめる作品。
サーバーの短編集はかなり色々出版されていて、光文社古典新訳文庫にもあるのを見つけた。こちらも読みたい。
- 作者: ジェイムズサーバー,James Thurber,芹澤恵
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2012/08/08
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 5回
- この商品を含むブログ (12件) を見る
犬好きとしては、ハヤカワ文庫の犬特集も気になる。
サーバーのイヌ・いぬ・犬 (ハヤカワ文庫 NF (115))
- 作者: ジェイムズ・サーバー,鳴海四郎
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1985/08/31
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る