トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

My Sister, the Serial Killer / オインカン・ブレイスウェイト(Oyinkan Braithwaite)

(マイ・シスター、シリアルキラー)

 ジャケ&タイトル買いしてしまった一冊。

My Sister, the Serial Killer

My Sister, the Serial Killer

 

 作者のOyinkan Braithwaite(オインカーン・ブレイスウェイト)はキングストン大学の創作学科を卒業後、フリーランスのエディター兼ライターとして働いていたということで、これが初めての長編小説。一章一章が短く印象的なタイトルがついていることもあり("Bleach"とか"Instagram"とか)、するすると読めてしまう。

 作者自身が暮らしているナイジェリアのラゴスが舞台である。

 主人公のKoredeはラゴスの病院で働く看護師。

 彼女にはAyoolaという絶世の美貌を誇る妹がいる。似ても似つかないので、「本当に姉妹?」と周りから聞かれる始末。

 何しろKoredeが真っ黒な肌なのにAyoolaはキャラメル色、Koredeの棒のようなガリガリ体型とは違ってAyoolaは背が低いものの女性らしい丸みを帯びていて、目は潤み、唇は美しく膨れている。歩いている人が皆振り返るような美人なのだ。

 ところがタイトルの通り、Ayoolaは「シリアルキラー」である。Koredeが調べたところ、「シリアルキラー」の定義とは「3人以上を殺害している」ということで、Ayoolaは楽々とこのdescriptionに当てはまるのだ。1ページ目から

Korede, I killed him.

と3人目の殺害をやってのけてくれる。付き合う男を片っ端から殺してしまうような女性、それがAyoola。何が彼女を殺人に追いやるのか、KoredeがどうしてAyoolaに反発を覚えながらも、彼女が犯罪を犯した時は必ず窮地から救い出すのか、Ayoolaは最終的に罪に問われ罰せられるのか。

 すべては最後の最後までお楽しみ。

 

 かなり軽い調子でユーモアを交えて書かれていることもあり、特に殺人を犯したAyoolaの態度はまるで『シカゴ』のよう。

 恋人を殺害したのに、その数日後には別の男性とのデートを再開したり、「行方不明」のはずの恋人を心配するInstagram投稿をしたすぐ後に、もらった花の写真をアップしようとしたりと、飄々としているAyoolaの描写を読んでいると、頭の中でロキシー・ハートが"who says that murder's not an art?"と歌い出してしまう。

 美人で、ちやほやされて生きてきただけにAyoolaには常識が欠如している部分があり、Koredeはそれが露呈しないように注意を払い続けなければいけない。読者も一緒にハラハラさせられる。


Chicago - Roxie (the Name on Everyone's Lips)

 

 ところが、ある日Koredeが勤務する病院にやってきたAyoolaを見た医師Tadeが彼女に一目惚れしてしまう。

 Koredeは彼に片思いしていたのでショックを受けるとともに、彼の身を案ずるようになるのだが……。

 混沌としたラゴスの描写や歪んだ権力のあり方が心に残るとともに、現代においても家父長制に抑圧される女性たちの人生に疑問を投げかけている物語だった。なのだけれど、そういう物語なのだ、ということがラスト十数ページにならないと分からないところが、この小説のミソでもある。

 映画化も決定しているそうで、ぜひ見てみたい。