トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

2019年 Women's Prize for Fiction ショートリスト

2019年のWomen's Prize for Fictionショートリストが発表された(イギリス、4月29日)。まだまだと思っていても、あっという間に時が経ってしまうものですね。

Women's Prize for Fictionは何度も名称が変わっていてちょっとややこしいので(オレンジ賞→女性小説賞→ベイリーズ賞→女性小説賞)、本ブログでは英語表記にしています。

ブッカー賞と同じく毎年ジャッジが変わり、しかも様々なバックグラウンドを持つ方がジャッジとなっていることもあり、その公平性や読者としての観点から個人的に注目している賞の一つ。ジャッジも作家も全員女性、作家の国籍は不問で英語で執筆した小説であることがノミネートの条件である。

ちなみにロングリストはこちら。

www.womensprizeforfiction.co.uk

 

ショートリストに残ったのは、下記の6作品。私が読んでいたのはそのうちの3冊でした。

 

 

The Silence of the Girls / パット・バーカー

The Silence of the Girls

The Silence of the Girls

 

2018年のコスタ賞にもノミネートされていた作品(そちらはサリー・ルーニーのNormal Peopleが受賞)。

Circe同様、ギリシャ神話がモチーフとなっている。

トロイア戦争にて、リュルネーソスを陥落させたアキレウスは男性を虐殺し、女性を捕虜とした。女性の一人ブリーセーイスも夫を殺されアキレウスの妻となったが、アガメムノンも彼女を欲しがったため、アキレウスとアガメムノンの間で争いが起こる。

と、このあたりは『イーリアス』に詳しく書かれた物語なのだけれど、これをブリーセーイスの視点から語っているのがこの作品とのこと。しかしブリーセーイスはほとんど喋ることはなく、頭の中で考えていることが文字になっているらしい。

 

Circe / マデリン・ミラー 

Circe: The Sunday Times Bestseller - LONGLISTED FOR THE WOMEN'S PRIZE FOR FICTION 2019

Circe: The Sunday Times Bestseller - LONGLISTED FOR THE WOMEN'S PRIZE FOR FICTION 2019

 

ギリシャ神話に登場する「魔女」キルケーの人生を、彼女の視点から描いた物語。作者マデリン・ミラーの豊富なギリシャ神話知識に裏打ちされた描写に酔いしれる。

今ちょうどゲーム・オブ・スローンズ視聴中なので、サーセイが登場するたびになんとなくこの本を思い出してしまう(CerseiとCirce、英語での発音が似ているから)。

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Ordinary People / ダイアナ・エヴァンズ

Ordinary People

Ordinary People

 

サリー・ルーニーのNormal Peopleはショートリスト入りしなかったものの、ダイアナ・エヴァンズのOrdinary Peopleはリスト入り。なんだかタイトルが似ていて、ロングリストを見た時ちょっと笑ってしまった。 

舞台は2008年のロンドン。メリッサとマイケル、ステファニーとダミアンという二組のカップルが子育て・恋愛・喪失・友情・老いを体験する様子を、アメリカにおけるオバマ大統領の誕生という歴史に残る瞬間を交えつつ描いた物語。

 

My Sister, the Serial Killer / オインカーン・ブレイスウェイト

My Sister, the Serial Killer

My Sister, the Serial Killer

 

 ラゴス在住のナイジェリア人作家による、姉妹を描いた小説。そのタイトル通り、シリアルキラーとして男性を次々と殺す美貌の妹に対して、複雑な感情を抱いている姉が語り手となっている。

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Milkman / アンナ・バーンズ

Milkman (English Edition)

Milkman (English Edition)

 

2018年のブッカー賞を受賞したアイルランド人作家による作品。

本ブログのレビューはこちら。

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An American Marriage / タヤリ・ジョーンズ

An American Marriage

An American Marriage

 

オバマ大統領が2018年の夏に読んだ本リストやオプラのブッククラブの課題図書にも入っていた一冊。Esquire誌による2018年のBest Booksリストにも選ばれていた。

新婚夫婦のセレスティアル&ロイはNew South(新たな南部)を代表するようなアメリカ人カップル。それぞれの仕事も順調で、アトランタで幸せな日々を過ごしていたが、ある日ロイが犯してもいない罪で12年の懲役刑を言い渡される。

セレスティアルはロイが刑務所から出てくるのを待とうとするが…。

アメリカの法制度における黒人差別も描いた作品。

 

読んだ中では、賞の特色的にはCirceが取りそうかなとも思うのだけれど、後の3冊は未読なのでわからない。

ギリシャ神話が好きなので、The Silence of the Girlsはぜひ読んでみたい。そしてショートリストには入らなかったけれど、サリー・ルーニーのNormal Peopleも読みたい。1年ほど積んでいた彼女のデビュー作Conversations with Friendsを読み始めたところで、これがとても良いので。

6月の受賞作品発表も楽しみ!

みなさま、GWもhappy reading!