トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

SF

秋の海で読みたかった本

夫と2人で旅行していた頃、スーツケースには何冊も本を入れていったものだ。飛行機や電車で「読むものがなくなった」と言うことの多い夫のために、彼が好きそうなエッセイまで見繕って持っていった。 いつの間にやら犬と赤ちゃん(ヒト)が家族に加わり、今…

Tender is the Flesh / Agustina Bazterrica: ヒトがヒトを食べるようになった世界を描くディストピア小説

[Cadáver exquisito] アルゼンチンの牛肉は格別においしい、とよく聞く。パンパを走り回り、牧草を食べて育つ牛の肉は締まっていて脂身が少なく、いわゆる肉らしい肉なのだと。牛肉消費量も年間285万トンで日本の2倍*1、1人あたりの消費量はなんと日本の6倍…

『フィーメール・マン』とか『女の国の門』とか

『フィーメール・マン / Female Man』ジョアナ・ラス(友枝康子訳) 数年前、『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んだときに「あ、あれ再読しよう」と思い、先日ついに発売されたよしながふみの漫画『大奥』の最終巻を読んで「あ、今度こそあれ読もう」と思っ…

3月に読んだ韓国文学 #koreanmarch

去年に引き続き、インスタでは世界文学読みさんたちが「#koreanmarch」を開催していたので、これ幸いと韓国文学三昧な日々を過ごした。色々な方が読んだ本や積読している本を眺めているだけで、幸せな気分に……。 わたしはといえば、新しいものは購入せずに積…

『Klara and the Sun / クララとお日さま』/ カズオ・イシグロ(土屋政雄・訳)

コロナ禍で両親以外の人の口元(マスクをしていない顔)をほとんど見る機会がないということが幼い子どもの脳に与える影響について、さまざまな国で研究が行われている*1。保育園児の母としては、大きな不安と焦りを感じる毎日だ。マスクをつけていなければ…

Little Eyes / サマンタ・シュウェブリン(Megan McDowell訳): あなたは「見る」人? 「見られる」人?

英語訳のタイトルがとてもいい。"I spy with my little eyes..."のLittle Eyes。 そしておそらく、"big brother"をも意識しているのだろうと思われる。『一九八四年』でジョージ・オーウェルが描いた監視社会を、シュウェブリンも描こうとしているから。しか…

The Testaments / マーガレット・アトウッド: 東洋のギレアデで『侍女の物語』の続編を読む

(誓願) 2019年の目玉(個人的に)、ようやく読むことができた。 読書がままならない日々が続いたので、砂漠で水を得てごくごくと飲み干すように、活字をむさぼった。 ああ幸せ。 *No Spoilers/ネタバレはありません 30年を経て発表された続編 ギレアデの女…

『ディファレンス・エンジン』ウィリアム・ギブスン & ブルース・スターリング

[The Difference Engine] 黒丸尚さん。漢字にルビをふるという独特のやり方や個性的な文体で、SF翻訳の歴史に名を残した翻訳家である。 去年スチームパンクやサイバーパンクをわりと読んだのだけれど(YA含む)、どれもこれもめちゃくちゃ面白かったので、こ…

『カルメン・ドッグ』 キャロル・エムシュウィラー: SF+フェミニズム+オペラ+犬!

[Carmen Dog] ネビュラ賞を二度受賞し、フェミニズムSFの書き手として知られたキャロル・エムシュウィラーが亡くなった(2019年2月2日)。 こちらは、表紙に描かれた犬(カルメンよろしく、真っ赤な薔薇を口にくわえた白いワンさん)に惹かれて購入した一冊…

Severance / リン・マー: アポカリプス的オフィス・ノベル

(断絶) [Updated: 2021-01-30] 日本語訳が2021年、発売に。 断絶 (エクス・リブリス) 作者:リン・マー 発売日: 2021/03/25 メディア: 単行本 中国系アメリカ人作家リン・マーのデビュー作Severanceを読んだ。 2018年に出版されるやいなやThe Kirkus Prize*…

Hazards of Time Travel / ジョイス・キャロル・オーツ: オーツによる初めてのディストピア小説?

2019年のReading Challengeで「タイムトラベルものを読みたい」と書いたのだけれど、ちょうどぴったりの小説が出版されていた。 ジョイス・キャロル・オーツの新作だ。2018年にはこのHazards of Time Travel(長編)とBeautiful Days(短編集)を出版するな…

Bangkok Wakes to Rain / Pitchaya Sudbanthad: 早くも個人的ベスト・オブ・2019の予感

タイトルと装丁に惹かれて購入(2019年のto be readリストに入れていた作品)。 バンコク、大好きです。遊びに行くのも好きだし、仕事でも何度か行ったけれど同僚もクライアントも素敵な方ばかりだし、ごはんも美味しいし(川魚って苦手なんだけれどタイ料理…

The Coincidence Makers(偶然仕掛け人) / ヨアブ・ブルーム

[מצרפי המקרים] 出張先の本屋さんで見つけて、「おっ!」となった作品。 このタイトルと、著者のユダヤ系の名前を見て思い出したのです。もう10年近く前にイスラエル系の友人(村上春樹好き、初めて読んだ村上作品はNorwegian Wood)からこの本が面白いと聞…

『闇の左手』 アーシュラ・K・ル・グィン

[The Left Hand of Darkness] アーシュラ・K・ル・グィンの作品といえば、なんといっても「映像化にことごとく失敗している」ことが思い浮かぶ。 「失敗」の定義は色々あるので、あくまで私の個人的意見だが ・興行的に振るわない ・作者自身に酷評されてい…

Angel Catbird / マーガレット・アトウッド

(エンジェル・キャットバード) 『侍女の物語』の続編となるThe Testamentsだが、ついにAmazon上でも装丁を見ることができるようになった。侍女のシンボルカラー・赤ではなく、紺に明るい緑を効かせたデザイン。 The Testaments (The Handmaid’s Tale) 作者…

『フランケンシュタイン』と『メアリーの総て』とFrankenstein in Baghdad(『バグダードのフランケンシュタイン』)

(バグダードのフランケンシュタイン) 大人になってから初めて『フランケンシュタイン』を読み返した。 子供の頃は、この話について、まあなんと理解できていなかったことか! 今だって理解できているのかと言われれば疑問が残るが、幼い時分はどこまでも追…

MaddAddam(マッドアダム・シリーズ)/ マーガレット・アトウッド

(マッドアダム) 近未来を描いたディストピア、アトウッドの「マッドアダム・シリーズ」完結編。 MaddAddam 作者: Margaret Atwood 出版社/メーカー: Virago Press Ltd 発売日: 2014/08/07 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る Paramount …

The Year of The Flood『洪水の年』(マッドアダム・シリーズ) / マーガレット・アトウッド

(洪水の年) *2018年9月22日、岩波書店から日本語訳が発売されるそうです。 洪水の年(上) 作者: マーガレット・アトウッド,佐藤アヤ子 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2018/09/22 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 洪水の年(下) 作者: マー…

Red Clocks / Leni Zumas: フェミニストSF小説の勢いが止まらない

発売日: 2018年1月16日(レニ・ズーマス) アメリカ・オレゴン州を舞台としたフェミニスト・ディストピア小説である。本小説におけるアメリカでは、"Personhood Amendment"が施行されている。これはいわゆる「中絶禁止法」で、受精卵にも生きる権利があると…

『オリクスとクレイク』(マッドアダム・シリーズ) マーガレット・アトウッド

[Oryx and Crake] 『侍女の物語』でなんだか調子づいて(読書熱が)、アトウッドの作品を次々読み返している。 『オリクスとクレイク』は、日本語版が出ていることを知ってこちらを読んだ。 MaddAddam(マッドアダム)シリーズ3部作の第1作目。 オリクスとク…

『侍女の物語』 マーガレット・アトウッド(斎藤英治・訳): 結婚して初めて分かったこと

[The Handmaid's Tale] マーガレット・アトウッドの『侍女の物語』を初めて読んだのはまだ10代の頃だった。 その後大学の授業でも読んだし、社会人になってからも読み返した。 繰り返し読んだので思い入れのある作品ではあるが、どこか自分からは遠い架空の…

34年後の『一九八四年』

[1984] ニュースは政府の見解を垂れ流し、一般市民の監視は警察の主要な活動となり、理性的な操作や差し押さえといったものは今やジョークに過ぎない。そんな例は枚挙にいとまがない。「ああ、政府が<ビッグ・ブラザー>に変わっちまった。オーウェルの予測…

『不滅の棘』と、永遠の命を描いた海外文学

[Vec Makropulos] すごく今更だが、今年の宝塚初めは『不滅の棘』だった。愛ちゃん(愛月ひかるさん)ポスターが素敵すぎて。綺麗! 綺麗! 指の先までとにかく綺麗!(そして白いファーが似合う) 春野寿美礼さんが主演をされた初演は見ていないし、事前に…