夫と2人で旅行していた頃、スーツケースには何冊も本を入れていったものだ。飛行機や電車で「読むものがなくなった」と言うことの多い夫のために、彼が好きそうなエッセイまで見繕って持っていった。
いつの間にやら犬と赤ちゃん(ヒト)が家族に加わり、今やスーツケースは犬のおやつ・おもちゃ・毛布(犬は寒がり)、子どもの絵本・塗り絵セット・ぬいぐるみでいっぱいになり、移動中も目的地に到着した後も、本を読む時間はなくなった。旅行中の読書時間って、1日5〜10分くらいかなあ。
今月、2時間ほど電車に乗って秋の海を訪れた。もちろん、携えて行きたいなあと思う本は星の数ほどあるものの、スペースと時間が逼迫していることを考えたらとてもとても!
結局持っていった紙の本は(薄い)1冊だけだったのだけど、頭の中で検討してみた本がこちら。
未読
Our Homesick Songs / Emma Hooper
Brigitという短編を読んで、水の描写にとんでもなく長けているなと思った作家さん。荒ぶる海とか、雨に濡れて湿った家屋のにおいとかをありありと感じられて陶然となった。
こちらは結局紙では持っていかなかったもののKindleには入っていたのでちょっと読みました。装丁もいいよねー。会話を括弧でくくらない静かな雰囲気と、どこかおとぎ話や神話を想起させる語り口も好き。大人だけの旅だったら、ずっとこれを読んでいたと思う。
突然魚がいなくなってしまった元漁村で生きる子どもたち、FinnとCoraの物語。
『いずれすべては海の中に』(サラ・ピンスカー著、市田泉訳)
タイトルも、イッカクなどの海獣の装丁もすてきな短編集。
まだ表題作しか読んでいないのだけれど、文明がほとんど死に絶えた世界で、岸辺に打ち上げられたロックスター(ギャビー)と、彼女を見つけて助けたゴミ漁りのベイの物語。間に挟まれるインタビューがどういう意図をもっているのか考えるのも楽しい。
「イッカク」という作品もある。
The Sea Lady: A Late Romance / マーガレット・ドラブル
これはドラブルの最新作にして最後の小説かな(2006年に出版、ドラブルは2009年に小説はもう書かないと宣言している)?
ル=グウィンの書評(↓)に惹かれて。
Mermaid on dry land | Books | The Guardian
既読
『灯台へ / サルガッソーの広い海』ヴァージニア・ウルフ(鴻巣友季子訳)、ジーン・リース(小沢瑞穂訳)
どちらも海、そして波のように渦巻く人々の感情や葛藤や歴史を描いている。
An Ocean of Minutes / Thea Lim
これはタイトルに海が入っているだけで中身はあまり海とは関係なかったのだけれどタイムスリップもので、ひとり想定していなかった世界に行ってしまった主人公が目撃する工場のしんとした感じや、どことなく不穏な雰囲気が秋の夜長にぴったり。
『呑み込まれた男」エドワード・ケアリー(古屋美登里訳)
ピノッキオの物語を、魚に呑み込まれたジュゼッペの視点で語る。舞台はずっと魚の腹の中。暗くじめじめとしたその環境で、「生きる」は「つくる」なのだと言わんばかりに創作を続けるジュゼッペが次第に過去を語り、喜びや後悔を振り返る様に魅了される。
「息子」の名前を呼べない、辛く当たってしまうというところ、理想の関係を築けない自分と相手に対するもどかしさや腹立ちは、そういえばピラール・キンタナの『雌犬』とも共通点があるなと思った。
結局持っていった本:『魔女の宅急便』角野栄子
ちょうど江戸川区(葛西の方)に角野栄子児童文学館ができるということを知り、子どもの頃は読まなかった『魔女の宅急便』をふと読んでみたくなって、この作品を持っていくことに。
小さいときはどうして読まなかったのかなあ……。
13歳で生まれ育った町を離れるキキの一挙手一投足にドキドキ、思春期の難しさや面白さを暗示するようなモチーフにうっとりと、読みながら幸せな気持ちになりました。会話文の「……」に含まれるため息や思いやりや寂しさが、とても良い。
ちなみに今回訪れたのは外房で、波や風の激しさや音の大きさに圧倒されがちな内海育ちのわたしにとっては、『魔女の宅急便』の中の海辺の街の穏やかさを感じることで、目の前の海の荒々しさとのバランスがとれて、なんだかよかった。
帰宅する前に、シリーズを全巻注文しておきました! これから読むのが楽しみ。