トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

フランス文学

宝塚・花組『うたかたの恋』観劇前に読んだ本

正直なところ、『うたかたの恋』は上演が発表されて大喜びしちゃうような作品ではない。心中というテーマが古めかしいだけでなく、歌も昭和の香りがして仰々しいと思っている。 それに、マリーというヒロインは娘役にとってかなり危険な役ではないだろうか。…

宝塚歌劇団上演作品の原作いろいろ(2022後半〜)

コロナの影響により、宝塚で大物海外ミュージカルが上演されなくなって久しいけれど、その分小説や漫画をもとにしたオリジナル脚本の作品がかなり増えて、すごく嬉しい。と同時に、原作を読んでから舞台を見たい派としては俄然忙しくなって焦る。 2022年後半…

夏に読んだ翻訳文学(WIT month)

いよいよ8月も最終日。皆様はどんな読書の夏を過ごしましたか? わたしは実に4年ぶりに、読書に没頭できる夏休みを堪能しました。いろんな方と本の話をする機会もあり、readathonにも挑戦したりして、それはそれは楽しい夏でした! さらに8月はwomen in tran…

At Night All Blood is Black / ダヴィッド・ディオプ(アンナ・モスコヴァキス訳)

[Frère d'âme] 今年の国際ブッカー賞を受賞したDavid Diop(ダヴィッド・ディオプ*1)の作品。いや〜とんでもない化け物みたいな本でした。読者を掴んで離さない。 翻訳小説としてはかなり珍しいことに、先日発表されたばかりのオバマ元大統領のサマーリーデ…

2021年 国際ブッカー賞受賞作はAt Night All Blood is Black

6月2日、国際ブッカー賞の受賞作が発表に。フランス人作家の受賞は初めてとのこと。日本語にも翻訳されるかな? At Night All Blood is Black / David Djop(Anna Moschovakis 訳) フランス語から翻訳 At Night All Blood is Black 作者:Diop, David 発売日…

『肉体の悪魔』ラディゲ(中条省平・訳): いつ読んでも印象がまったく変わらない不思議な小説

[Le diable au corps] 僕は愛などなくてもいられるように早く強くなりたかった。そうすれば、自分の欲望をひとつも犠牲にする必要がなくなる。 Je souhaitais d'être assez fort pour me passer d'amour et, ainsi, n'avoir à sacrifier aucun de mes désirs…

『ピガール狂騒曲』から始まるブックリスト

[Frenesie a Pigalle] 新しいものは、いつだって月組からやってくる。 宝塚を観劇していると何度もそう思う。元男役だったちゃぴちゃん(愛希れいか)がトップ娘役になってガンガン踊り、「(トップ娘じゃなくて)トップスター」と呼ばれるようになったり、…

『狭き門』 アンドレ・ジッド

[La porte étroite] 力を尽して狭き門より入れ。 『ルカ伝福音書』第一三章二四節 子供の頃は祖母や母の影響で、フランス文学を読むことがすごく多かった。 特に『狭き門』は二人のお気に入りだったと記憶している。 光文社古典新訳文庫で出ているのを発見し…

『わたしの修業時代』 コレット

[Mes Apprentissages] 二十歳のころには、法外な贈り物も、王侯のごとく平然とうけとってしまうものなのだ。 表紙からして素敵なデザインで見とれてしまう、コレットの回想録。 わたしの修業時代 (ちくま文庫) 作者: シドニー=ガブリエルコレット,Sidonie‐Ga…

『シェリの最後』 コレット

[La Fin de Chéri] 以前『シェリ』を読んだらとても面白かったので、次々にコレットの作品を購入してしまった。『シェリの最後』はタイトル通り、『シェリ』の続編。 結婚してから6年後、30歳を迎えようとするシェリが主人公だ。 シェリの最後 (岩波文庫) 作…

『牝猫』コレット

[La Chatte] 学生の頃『青い麦』を読んでもピンとこなかったのに、『シェリ』に開眼して以来次々に読んでいるコレット。 『牝猫』は五月頃から八月までの一夏の物語で、24歳のアランと19歳のカミーユの儚い新婚生活をアランの視点から描いた作品である。 牝…

『オペラ座の怪人』 ガストン・ルルー(平岡敦・訳)

[Le Fantôme de l'Opéra] わたしはミュージカルが大好き。生まれて初めて観たミュージカルは確かThe Wizard of Oz(オズの魔法使い)で、生まれて初めて「これ、好きだな!」と思ったミュージカルはAnything Goesだったと記憶している。だからなのか、大人に…

Disoriental / Négar Djavadi: マザンダランの陰謀渦巻くハーレムから、パリの不妊治療クリニックまで

[Désorientale] 内容紹介をちらりと読んで、絶対に面白い&好みだぞ!と思って購入した一冊。 作者はパリ在住のイラン系移民(十一歳の時にフランスに移住)で、これがデビュー作とのこと。 Disoriental (English Edition) 作者: Négar Djavadi 出版社/メー…

『失われた時を求めて スワン家のほうへ』 マルセル・プルースト

[À la recherche du temps perdu] というわけで、今夏も読み返した『失われた時を求めて スワン家のほうへ』の感想を。ちょうどいいタイミングで、9月15日にBSで映画『スワンの恋』も放送されたのです。この話も後ほど。 スワンの恋 [DVD] 出版社/メーカー: …

『失われた時を求めて』 やる気の出る併読本

[À la recherche du temps perdu] 「ソドムとゴモラ」を読み終えたばかりの私のつぶやきです。 未だ終わらない『失われた時を求めて』読書体験 やる気の出る併読本 『プルーストと過ごす夏』 『プルーストを読むー『失われた時を求めて』の世界』 『ナボコフ…

『失われた時を求めて ソドムとゴモラ』 マルセル・プルースト: LGBTQ文学の先駆け

[À la recherche du temps perdu] 私のサマー・リーディングといえば、ここ何年かは必ず『失われた時を求めて』だ。でもこれが、遅々として進まない。読んだことのない巻を手に取ると、必ず「スワン家のほうへ」まで戻って最初から読んでしまうから。それだ…

「シルヴィ」 ジェラール・ド・ネルヴァル(火の娘たち)

[Sylvie] 「シルヴィ」を読んだ。プルーストが『失われた時を求めて』を書くきっかけになった小説とどこかで読んで以来、読みたかったのだ。 [Updated: 2020-04-19] 岩波文庫からも発売に。 火の娘たち (岩波文庫) 作者:ネルヴァル 発売日: 2020/03/17 メデ…

『ボヴァリー夫人』フローベール: 文学史上最大のダメ女?

[Madame Bovary] わたし、どうして結婚なんかしてしまったんだろう? そんな声が全てのページから聞こえてくるような小説である。新潮文庫の表紙の絵も然り。夫人の背中からは、後悔が匂いたつよう。 ボヴァリー夫人 (新潮文庫) 作者: ギュスターヴフローベ…

『シェリ』 コレット(工藤庸子・訳)

[Chéri] 最近、胸焼けするまで恋愛小説を読みたいなあという気分。『ガーディアンの1000冊』リストのうち、"Love"からいくつか選んで読む予定を立てている。 www.theguardian.com ということで、まずは長らく積ん読にしていたコレットの『シェリ』を。 シェ…

ヴォルテールの『カンディード』とSATC

大学を卒業してもうすぐ10年である。社会で働き始めてもうすぐ10年、でもある。 「もっと真面目に勉強しておけばよかったなあ」と思うことはないのだが、「今だったら、あの授業をもっと楽しんで受けられたなあ」と感じることは本当によくある。 秋の夜長は…

『三銃士』 アレクサンドル・デュマ(竹村猛・訳)

[Les Trois Mousquetaires] こんにちは、トーキョーブックガールです。 色々な方の感想をすでにインターネット上で拝見していますが、私はまだ『All for One』を観ていません! 今月末観劇予定なので楽しみ♡ ということで……今月は予習も兼ねて、デュマの『三…

『ベラミ』 モーパッサン: 史上最強の色男

[Bel Ami] 100スーの銀貨を出した釣りを勘定台の女から受け取ると、ジョルジュ・デュロワはレストランの外へ出た。 押出の立派なこの男は、生まれつきと退役下士官のくせでぐっとそり身になったかと思うと、慣れた軍人式の手つきで口髭をひねり、それからま…

『悲しみよこんにちは』 フランソワーズ・サガン(朝吹登水子・訳)

[Bonjour Tristesse] 一番好きな本なんて決められないけれど、一番読み返している本は間違いなく『悲しみよこんにちは』である。 毎年毎年、夏が来るたびに読み返す。 このバカンスの物語は、どうしたって夏の空気の中で読みたいですからね。 夏の旅行にも大…

『脂肪の塊』 モーパッサン

[Boule de Suif] こんにちは。まるで梅雨が明けたみたいに、暑くなりましたね。 長編小説ばかりを続けて読んだので短編集でお口直しがしたくなり、暗い気持ちにならないものを……と、モーパッサンの短編集を手に取った。気軽に読めて、くすっとしたり、うーん…

『べにはこべ』バロネス・オルツィ

[The Scarlet Pimpernel] 紅はこべ ちょっと前のことになりますが、宝塚歌劇団・星組の『スカーレット・ピンパーネル』を観てきました! 素晴らしかった〜……紅ゆずるさん・綺咲愛里さんのトップスター就任お披露目公演だったのですが、パーシー役の紅さんは…