[Frenesie a Pigalle]
新しいものは、いつだって月組からやってくる。
宝塚を観劇していると何度もそう思う。元男役だったちゃぴちゃん(愛希れいか)がトップ娘役になってガンガン踊り、「(トップ娘じゃなくて)トップスター」と呼ばれるようになったり、『BADDY』でワルなたま様(珠城りょう)と妖艶なスイートハート(美弥るりか)を観たときの衝撃だったり、創造して破壊する、破壊して創造する、を地で行く組だなあと感じる。
現在東京宝塚劇場で上演中(2121年1月3日まで)の『ピガール狂騒曲』はなんと主人公が女の子。トップスターが女の子。
これは、たま様にしかなしえない舞台だったなと観劇後しみじみ思う。男役としてのりにのっていて、どこからどう見ても男役でしかないたま様が演じるからこそ素晴らしい作品に仕上がっていた。
歌と踊りの宝塚でシェイクスピアって、普段宝塚を観劇しない方にとっては、ちょっと意外な感じがするかもしれません。でも、シェイクスピアの作品を基にした舞台がいくつも公開されているんです。シェイクスピアファンのタカラジェンヌもたくさん。
宙組のトップスターだった朝夏まなと(まぁさま)さんは大のシェイクスピア好きで、『Shakespeare〜空に満つるは、尽きせぬ言の葉〜』というシェイクスピアを主人公とした舞台にも主演したほど。
美の伝道師(だと個人的に思っている)、コマさんこと沙央くらまさんの芸名は、日本語でシェイクスピアを意味する「沙翁」から。なんと芸名をつけたのは小田島雄志さん! コマさんのご両親がシェイクスピアシアターに所属していて、親交があったとのこと。小田島さんも、うらわかき乙女の芸名に「翁」はちょっと……と思ったのだろうか。
さて、かなり今更だけど、月組『ピガール狂騒曲』にちなんだブックリストを作ってみた。A日程もB日程もすごくよかった!ので感想を交えて綴ります。
- 『十二夜』シェイクスピア(安西徹雄訳)
- 『わたしの修行時代』シドニー=ガブリエル・コレット(工藤庸子訳)
- 『学校へ行くクローディーヌ』シドニー=ガブリエル・コレット(川口博訳)
- 『シェリ』シドニー=ガブリエル・コレット(工藤庸子訳)
- 『トゥールーズ=ロートレック 自作を語る画文集』アンリ・ド・トゥールーズ・ロートレック(藤田尊潮訳)
- 『図説 ベル・エポック 1900年のパリ』 フロラン・フェルス(藤田尊潮訳)
- 2021年1月3日13:30〜はぜひライブ配信を!
『十二夜』シェイクスピア(安西徹雄訳)
シェイクスピアの翻訳はいくつも出ていて、おそらく最も読まれているのが小田島雄志さん(白水Uブックス)、松岡和子さん(ちくま文庫)、安西徹雄さん(光文社古典新訳文庫)によるもの。どれも素晴らしい訳で、舞台に深く携わっている方ばかりなので、舞台で演じることを念頭においた翻訳がされている。
宝塚でのシェイクスピア上演には翻訳家の小田島雄志さんがアドバイザーや監修として参加されていることが多いので、そういうときは小田島訳を。
松岡和子さんは蜷川幸雄シェイクスピアをはじめとした外部でのシェイクスピア上演に多く携わっているので、外部の舞台を見るときは松岡訳を。
と読み分けたりしています。今回のピガールは、翻案として『十二夜』が使われているのみだったので、最も最近出版された光文社古典新訳文庫を読んだ。軽妙洒脱な会話がとてもよかった。アンドルーの一人称がカタカナの「ボク」なのがいい!
『ピガール』は双子で入れ替わり、くらいしか取り入れられていないのかなと観る前は思っていたのだけれど、最初から最後まで結構『十二夜』に沿った筋書きだったのが意外でよかった。
原作では才気煥発なヴァイオラは一体どうしてオーシーノのことが好きなの?と思ったりするのだけれど、『ピガール』ではジャンヌ(ヴァイオラにあたる)がシャルルおじさん(オーシーノにあたる)に恋するようになる過程がとても丁寧に描かれていて、たま様がとても丁寧に演じているのに好感を持ちました。
はっきりと原作との対比がわかるのはこのあたりかな。
ヴァイオラ | ジャンヌ/ジャック(珠城りょう) |
セバスチャン | ヴィクトール(珠城りょう) |
オリヴィア | ガブリエル・コレット(美園さくら) |
オーシーノ | シャルル(月城かなと) |
アントーニオ | ロートレック(千海華蘭) |
『わたしの修行時代』シドニー=ガブリエル・コレット(工藤庸子訳)
コレットはどれもこれも絶版になっていることにびっくり。今だからこそ読む価値があると思うのに。
美園さくらちゃん演じるガブリエル・コレット、名前だけ借りてる感じなのかと思ったらかなりがっつりと「コレット」でしたね! お化粧とかたたずまいも、コレットの写真を見て想像していたとおりのコレットっぽさで、すてきだった。彼女は本当に華がありますよね。小桜ほのかちゃんが以前さくらちゃんのことを「大輪のお花のようなひと」と言っていたけど、その通りだと思う。
コレットは小説がもちろん素晴らしいのだけどエッセイもすてきで、特におすすめはこちら。
60代になったコレットが自分の半生を振り返った作品で、最初の夫ウィリー(鳳月杏)と結婚した20歳のときから、33歳になって離婚するまでの経緯が詳しく綴られている。
ウィリーのゴーストライターとして執筆した『クローディーヌ』が世間に認められて自信をつけたこと、「夫の付属品」にすぎなかった田舎娘のコレットが自立して、自分らしい人生を歩むようになるまでのエピソードを読んでいると、こちらまで人生に対してワクワクしてくる、元気の種みたいな本。
本じゃないけど、同じくコレットの20〜30代を描いた映画がこちらで、これもよかった。
『学校へ行くクローディーヌ』シドニー=ガブリエル・コレット(川口博訳)
『ピガール』では冒頭からしっかりと『クローディーヌ』というキーワードが出てきて、びっくりした。
クローディーヌシリーズは絶版になっているから、復刊してほしい。Kindle Unlimitedにあるのは著作権としてどうなのかちょっとわからなくて、手を出していない。
舞台は女学校で、主人公は母を亡くしたクローディーヌ。父が甘いこともあり、自由奔放な暮らしをしている。女学校では助教師のエーメのことが好きで、色々な手を使って気を引こうとするのだが、校長も実はエーメのことが好きで……という登場人物がみんな女性のLGBTQ文学。心理描写の鋭さが後々のコレット作品に通じている。
この作品のことを考えれば考えるほど、コレットを登場させちゃった以上、わざわざヴィクトールを登場させずとも、「ジャンヌとシャルルとガブリエルの三角関係になる」(あ、でもジャンヌはストレートなのだった)みたいな筋書きに変更しちゃえばよかったのに、原田先生……と考えざるを得ない。が、そうしたら『十二夜』じゃなくなっちゃうもんね。
『シェリ』シドニー=ガブリエル・コレット(工藤庸子訳)
2019年には古典新訳文庫も出版されていて、一番手に入りやすいかもしれないコレット作品。そして物語としての面白さも天下一品だと思う。
ウィリーと離婚するときが33歳とすると、ガブリエルがヴィクトールより年上の可能性は大いにあるので、ガブリエルとヴィクトールを想像して読むのもいいかも?
当ブログのレビューはこちら。
『トゥールーズ=ロートレック 自作を語る画文集』アンリ・ド・トゥールーズ・ロートレック(藤田尊潮訳)
ムーランルージュを自作のインスピレーション源とし、「ジャンヌ」・アヴリルという踊り子に夢中になっていたというロートレックによる自身の絵画へのコメントを収録した画文集。
『図説 ベル・エポック 1900年のパリ』 フロラン・フェルス(藤田尊潮訳)
こちらは1900年代のパリを感じられる、ベル・エポックについての大型本。写真も絵画もたくさん。
2021年1月3日13:30〜はぜひライブ配信を!
このブログを見にきてくださる方の大半は、宝塚ファンではないと思うので、宣伝です!
『ピガール狂騒曲』の千秋楽(東京公演)は2021年1月3日。このご時世なので、ライブビューイングのみならず、ライブ配信があります。
観たいと思い立ったところでなかなかチケットが手に入らない宝塚歌劇団の東京公演ですが、今なら3,500円でおうちにいながらにして楽しめますよ。
配信はU-NEXTまたは楽天TV(以下を参照)。
ではみなさま、happy reading as always and happy holidays!