[The Scarlet Pimpernel] 紅はこべ
ちょっと前のことになりますが、宝塚歌劇団・星組の『スカーレット・ピンパーネル』を観てきました!
素晴らしかった〜……紅ゆずるさん・綺咲愛里さんのトップスター就任お披露目公演だったのですが、パーシー役の紅さんは立ち姿はどこまでも格好良く、とにかくユーモアのセンスが抜群すぎて、ちょっとした間や仕草で笑い声が起きるほど!
マルグリット役の綺咲愛里さんも、弓形に描いた「女優眉」がめちゃくちゃお似合いで美しく気高かった〜! イギリス貴族(パーシー)に嫁いだフランスの元女優という役柄で、プライドが高くちょっと頑固で強い女を完璧に演じていらっしゃったなと思う。でもパーシーのことを好きでいたいと歌う可憐な女心もあり、見どころいっぱいだった。
ショーヴラン役は礼真琴さん。後ろ姿! めちゃくちゃセクシー! お声! もう素敵すぎて何も書くことがありません。夢のようなキラキラした時間だった。
『ひとかけらの勇気』は、本当に素晴らしい曲。他のフランク・ワイルドホーンさんの曲も全て素晴らしいのだが、ダントツ。この曲は安蘭けいさんの歌声を聞いたワイルドホーンさんが、宝塚のために書き下ろした曲として有名だが、2016年からブロードウェイ版の『スカーレット・ピンパーネル』でも『A piece of courage』として追加されたそう! なんだか逆輸入?
おうちに帰ってひたすら、安蘭けいさんの『スカーレット・ピンパーネル』も観賞笑。美しすぎる〜♡
と、そろそろ本のお話に。
そういうわけで、原作の『べにはこべ』(紅はこべ)を読んだ。

- 作者: バロネスオルツィ,Baroness Orczy,村岡花子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2014/09/08
- メディア: 文庫
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ガーディアンの1000冊にも選ばれている本なので、いつかは読みたいと思っていたものの、翻訳が1960年代のもののままということもあり食指が動かず…原書も、飽きて放り出してしまうかもしれないと思うと買えず。宝塚がきっかけになってよかった。古い作品ということもあり、リアル書店に売っているのも見かけないのでAmazonにお世話になった。
マルグリットをイメージしたのであろう表紙がとても可愛い。
あらすじ
*()はミュージカルでの名前です。
1792年9月フランス革命下のパリ、次々とギロチン送りになる貴族たち。そんな貴族たちを救うために、「べにはこべ(スカーレット・ピンパーネル)」と呼ばれるリーダーを中心とした秘密結社が暗躍している。その正体は、どうやらスリルとサスペンスを求めるイギリス貴族らしい。
一方、フランス座(コメディ・フランセーズ)で大人気を博した美しい女優・マーガリート・サンジュスト(マルグリット)はイギリス貴族のパーシイ・ブレークニイ卿(パーシー・ブレイクニー)と結婚し、イギリスへやってきた。
パーシイはスポーツとお洒落に熱心な伊達男で頭は空っぽという、典型的なイギリス貴族。それでも熱烈に求愛し、マーガリートもそれに感動して結婚へ至ったのだが、結婚前にマーガリートが「サンシール公爵を裁判に告発したので、公爵とその家族全員がギロチンに送られてしまった」と打ち明けて以来、二人の仲は冷え切っている。
マーガリートにはその理由がつかめず、戸惑い絶望している。
そんな中、マーガリートの兄・アルマンが「べにはこべ」に協力した罪でフランス共和政府に捕えられる。共和政府の大使ショウヴラン(ショーヴラン)は、アルマンの命を助ける代わりに共和政府に協力し、イギリスの社交界で「べにはこべ」の正体を突き止めるようマーガリートを脅すのだが……。
ミュージカル『スカーレット・ピンパーネル」との違い
さて、登場人物はほとんど同じですが、原作とミュージカルとではストーリーがかなり異なる。
私は宝塚版以外のミュージカル『スカーレット・ピンパーネル』は見たことがないので比較ができないのだが、ほとんどの場面は原作『べにはこべ』とは違うと言っていいと思う。
原作では:
マルグリットとショーヴランは元恋人ではない。
アルマンはマルグリットの弟ではなく兄。
アルマンの恋人、マリー・グロショルツは登場しない。
スカーレット・ピンパーネルの扮装はベルギー人スパイのグラパンではなく、ユダヤ人の従者。
というところだろうか。
ただ、「べにはこべ」に助けられたスザンヌ・トルネイ(シュザンヌ・ドゥ・トルネー)がイギリス貴族のアンドリュウ・フークス卿(アンドリュー・フォークス)と恋に落ちるというくだりはあるし、舞踏会もあるし、大筋は変わらない。
強い女性の原型、マルグリット
原作はどちらかというとマルグリットの視点で書かれており、彼女が大活躍。
後半なんて男勝りの行動をこれでもかと繰り返し、本当に凛々しい。スカーレット・ピンパーネル以上の凛々しさかも!
そして、結婚後急に冷たくなった夫に疑問を抱きながらも、異国でその思いを口にできないでいる。もともと夫のことは能無しだと見下していたマルグリット。それでもその愛情に安心を覚えて結婚したようなものなのに、この始末。夫婦仲は完全に冷え切ってしまい……。
このあたりの葛藤や、夫への気持ちの変化(軽蔑から尊敬へ)が細かく描写されていて、さすが女性が書いた物語だなという感じ。本当にロマンチックで、ちょっとご都合主義なところもあるので、少女漫画そのもの!
当時から同じような悩みを抱える女性に支持され、「うちの主人も実はこんなだったりして〜……もっと優しくしよ!」みたいな笑、夫婦仲改善のお役に立った小説なのかもしれないと思ってしまった。
スカーレット・ピンパーネルと同等に、雄々しく自分の信念に従うマルグリットは確かに新しい女性像。男女平等へはまだまだ遠い1905年に出版されたこの作品は、フェミニズムの走りだったのかもしれない。
新訳が出るといいなあ……
村岡花子さんの訳からは、この小説に対する愛もひしひしと感じられ素晴らしいのだが、柴田元幸さんもおっしゃる通り「翻訳は廃り物」。さすがに新訳が出るといいなあと思う。
ただし、この作品は「アンチフランス革命」的な視点があるとか、ユダヤ人に対して差別的な表現も出てくるとか、そういう部分が新たな翻訳出版を阻んでいるのかなあ。
せめて登場人物の名前だけでも、フランス人のものはフランス語読みに変更してほしい。ミュージカルがそうだから、余計そう思ってしまうのかもしれないが。
追記 2018-03-16
その後、石丸幹二&安蘭けいの『スカーレット・ピンパーネル』を観劇した。
こちらは登場人物が少ない分、原作に近かったかなと思う。
また、安蘭けいのマルグリットはまさに原作のマルグリットそのもの!
なんだけど、麗しいパーシーとしての姿を見ていると、やっぱりパーシーとしてももう一度見たいなと思ったりする。主人公が男性のミュージカルで、当たり前のように男性の出番の方が多くて。あらためて宝塚は(演者も観客も)女性にとって貴重な場であると実感したのだった。