トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

宝塚・花組『うたかたの恋』観劇前に読んだ本

正直なところ、『うたかたの恋』は上演が発表されて大喜びしちゃうような作品ではない。心中というテーマが古めかしいだけでなく、歌も昭和の香りがして仰々しいと思っている。

それに、マリーというヒロインは娘役にとってかなり危険な役ではないだろうか。誰がどう演じようと、かまととぶった雰囲気がつきまとうし、現実離れしていてなんとなく鼻につく。

いつもなんとなく「あーお衣装が素敵……」とボーッと観るだけなのだが、今回は久方ぶりに大劇場で再演ということで、これではいけないと一念発起した。退屈、つまらない、好きじゃないというのは簡単だけれど、そういう感情は無知から生じていることが多いのだから。すべてわたしの無知ゆえ。とにかく知るのだ!

 

 

『Mayerling』クロード・アネ

まずはクロード・アネの原作を。邦訳の『うたかたの恋』は全然見つからなかったので、英訳を(フランス語の原著もちゃんとKindleにあった)。

今や忘れ去られた作家だが、『マイヤーリンク』はもちろん、Ariane, jeune fille russeも『昼下がりの情事』として映画化され、どちらもオードリー・ヘップバーンが主役を務めているのだから、当時(といっても映画が公開された1950年代にはアネはすでに死去している)の人気っぷりがうかがえるというもの。

宝塚らしく潤色してあるのかと思いきや、けっこう原作に忠実だのだなという印象を受けました。どこまでも夢夢しく、ドクロやピストルといった小物を効果的に使いながら、ルドルフとマリーが悲劇的な結末に向かって突き進む。

退廃的なウィーンの雰囲気が味わえるのがよいし、副題は「The Love and Tragedy of a Crown Prince」だけあって、ルドルフはハンサムで不幸な王子として魅力的に描かれている。そのイメージはハムレットと重なる。

ジャン・サルバドル(ヨハン・ザルヴァトール)の比重も大きく、ルドルフには叶えられない愛を貫く人物として格好良く描かれている。

そして、マリーの描写が、舞台よりずっとよい。ルドルフと出会う15歳の頃の彼女は、ウィーンに舞い降りた女神ディアナ(マイヤーリンク=狩りのイメージとうつくしくつながっているなと思った)に例えられていて、典型的なウィーン娘とは一味違うエキゾチックな雰囲気を醸し出す。

「ジュリエットと同い年」と言及もされているとおり、『ロミオとジュリエット』よろしく若さゆえに死を選んでしまう激しさがよく表現されている。なんというか、このマリーならルドルフに手を引かれて、というよりときには若干ルドルフを導きながら死へ進んでいくだろうな、と思った。皇太子妃ステファニーを見て「きれいじゃない」とライバル心を燃やす場面とかも、15〜6歳の少女らしくて面白かった。

 

『「うたかたの恋」の真実ーハプスブルク皇太子心中事件』仲晃

こちらは柚香光さんが、『エリザベート』でルドルフを演じたときにバイブルのように繰り返し読んだと発言していて、絶版だったのが復刊された作品。

めちゃくちゃ面白くて一気読み。『うたかたの恋』がご都合主義のロマンス小説だとこき下ろしているのだが、アネの小説の描写をところどころ取り入れつつも、現実に近いルドルフ像を披露する。

この本ではルドルフを「ハムレット、ドン・キホーテ、ドンファン」に例えていて(ちなみにハムレットとドンファンとの比較は、アネの原作にも登場する)、今回大劇場での上演でも同じ台詞があったけれど、この本からとったのかな? いつもそうだったかしら? 今回追加されたのかしら??

森鴎外の「うたかたの記」を読みたくなった。

 

『天上の愛 地上の恋』加藤和子

ルドルフというとどうしても、○○で△△でほんとどうしようもないな〜と思ってしまうので、ルドルフの印象をどうにか向上させようと思って手に取った漫画。今でいうBL? かな??

主人公はバイエルンで生まれた孤児アルフレート(最初の登場のときは12歳)。ひょんなことから皇太子ルドルフ(8歳)が湖畔で、男性の死体の前にかがみ込んでいるところを目撃する。その後、ルドルフの命でウィーンのホーフブルク宮にあがり、ルドルフの遊び相手となる。

孤独なルドルフはオーストリアの将来について案じている。常に教会とともにあったハプスブルク家は、教会の権威が揺らぎつつある今、その余波を受けている。ルドルフの考えを知るにつれ、彼を支えたいという気持ちを強くしたアルフレートは修練院に入り、内側から教会の動向を探ることを決意する。

いや〜、これめちゃくちゃ面白かった! 古本探して購入するの大変なので、Kindleで出してほしいよ〜。ルドルフがこれほどすてきに描かれているフィクション、他にはないと思う。

 

『ハプスブルク家の女たち』

フランツ・フェルディナンドの比重が増えるというので、こちらも久しぶりに再読。彼の妻となるゾフィー・ホテクについても割と詳しく書かれている。

 

色々読んでから観劇したら、いつもの何倍も楽しめました。今年もたくさん観て、読めるといいな!