トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

2021年 Women's Prize for Fiction ロングリスト

 今年もやってきました、Women's Prize for Fictionのロングリスト発表日が。例年通りのスケジュールで嬉しい。新型コロナウイルス感染症の影響がおさまったとは言いがたいが、今年は、その他の文学賞も比較的スケジュール通りに発表されそう。

womensprizeforfiction.co.uk

*Women's Prize for Fictionは何度も名称が変わっていてちょっとややこしいので(オレンジ賞→女性小説賞→ベイリーズ賞→女性小説賞)、本ブログでは英語表記にしています。

 ブッカー賞と同じく毎年ジャッジが変わり、しかも様々なバックグラウンドを持つ方がジャッジとなっていることもあり、その公平性や読者としての観点から個人的に注目している賞の一つ。ジャッジも作家も全員女性。作家の国籍は不問で、英語で執筆された小説であることがノミネートの条件である。

 今年は、Girl, Woman, Otherのバーナーディン・エヴァリストがジャッジに。デビュー作もベテランの作品も並び、例年通り魅力的なラインナップ。

 

Because of You / ドーン・フレンチ

Because of You: The instant Sunday Times bestseller 2020 (English Edition)
 

 2000年。とある病院で、2人の女性が出産する。1人はホープ、もう1人の名はアンナ。ところが、赤ちゃんと一緒に退院したのはホープだけ。アンナの方は死産だった。

 17年後、アンナは夫との関係に悩み、ホープは娘ミニーの妊娠に頭を抱えている……。

 

Burnt Sugar / Avni Doshi

Burnt Sugar: Shortlisted for the Booker Prize 2020

Burnt Sugar: Shortlisted for the Booker Prize 2020

  • 作者:Doshi, Avni
  • 発売日: 2021/06/03
  • メディア: ペーパーバック
 

 2020年ブッカー賞のショートリストにもノミネートされた、デビュー作。

I would be lying if I said my mother's misery has never given me pleasure.

という冒頭の文章に思わず引き込まれる。

 若かりし頃は好きなように生きていたTara。愛のない結婚生活を捨ててアシュラムに入ったり、ホームレスの自称芸術家を追いかけたり、幼い子どもを抱えながらも、心の赴くまま生きてきた。

 そんなTaraも老いはじめ、認知症のような症状が見られるようになる。大人になった娘は、自分を慮ることなどなかった母親、Taraの世話をせざるを得ない事態に直面するのだが……という母親と娘の間の愛と憎しみの物語。

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Consent: A novel (English Edition)

Consent: A novel (English Edition)

  • 作者:Lyon, Annabel
  • 発売日: 2021/01/26
  • メディア: Kindle版
 

 YA小説も手がけるカナダ人作家リヨンの新作もノミネート。 

 こちらは2組の双子が主人公の作品。どちらの双子も見た目はそっくりだけど性格は正反対、でも強い絆で結ばれている。そんな双子の片割れが(2組どちらも)男性によって傷つけられ、全員の人生が変わってしまう……という物語。

 ちょっとSistersを思い出したり。 

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Detransition, Baby / Torrey Peters 

Detransition, Baby (English Edition)

Detransition, Baby (English Edition)

 

 これはブックスタグラムで読んでいる(&激推ししている)方がめちゃくちゃ多くて気になっている作品。多くのサイトや雑誌にも、2021年のMust-Readとして名前があがっていた。面白そう&読みたい。

 リースとエイミーはニューヨークに暮らすトランスジェンダーのカップル。毎日は幸福で満ち足りていた。が、リースは子どもがいないことに耐えられなくなり、2人はうまくいかなくなる。リースは何年にもわたって既婚男性との恋愛を繰り返すように。

 ところがある日突然、エイミーから電話がかかってきてこう問われる。「母親になりたくない?」。通りで襲われるという事件を乗り越えたエイミーは性転換し、名前もエイムズに改め、転職し、カトリーナという上司と恋愛関係にあった。そしてカトリーナが妊娠する。3人は協力して子育てできるのか?

  

Exciting Times / ニーシャ・ドーラン(Naoise Dolan)

 作者の名前のNaoiseって常に「ニーシャ」読みでいいんですよね? アイルランド出身だし。

 これは去年読みました。22歳でアイルランドを飛び出し、香港へ向かい、富裕層の子どもたちに英語を教えるという仕事を始めたエヴァ(Ava)。そして、香港で働くエリートサラリーマンのJulian(ジュリエン)をめぐる物語。サリー・ルーニーを好きな人にはぜひおすすめしたい、少々ピリッとした感じの現代恋愛小説。

 香港を舞台にしたexpatsの物語って好きで、見つけたら絶対読んじゃう。

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How the One-Armed Sister Sweeps Her House / シェリー・ジョーンズ 

How the One-Armed Sister Sweeps Her House: A Novel (English Edition)

How the One-Armed Sister Sweeps Her House: A Novel (English Edition)

  • 作者:Jones, Cherie
  • 発売日: 2021/02/02
  • メディア: Kindle版
 

 気になるタイトル。「お母さんの言うことをよく聞かないと、片腕をなくすことになるのよ」という、母が娘に聞かせるお話からきているそう。

 バルバドスを舞台とした母と娘の物語。母娘の関係性に焦点を当てた作品が多くロングリスト入りしているのは、ジャッジでもあるエヴァリストの影響か?

 

Luster / レイヴン・レイラニ 

Luster (English Edition)

Luster (English Edition)

 

 これ、読みました。とてもよかった。あくまで恋愛を描いているのでテーマが違うものの、すごく吟味して選ばれたのであろう(のにそうは感じさせない)言葉の数々が宇佐見りんの『推し、燃ゆ』を彷彿とさせる小説。

 主人公のイーディー(Edie)は23歳の黒人女性。職場で出会った40代の白人男性エリック(Eric)が既婚者だと知りながらデートの誘いを承諾する。背徳の恋!?と思ったのも束の間、エリックはオープンマリッジを公言しており妻も(心中はともかくとして)不倫公認だということ、黒人の女の子を養子にしたことなどを打ち明けるのだが……。

 

No One Is Talking About This / パトリシア・ロックウッド 

No One Is Talking About This: A Novel

No One Is Talking About This: A Novel

 

 SNSで一躍有名人となった女性がファンに会うため世界を旅する物語。ところが楽しい旅の途中で、母から突然のメッセージが。「おかしなことが起こったの」、「いつ帰ってこれる?」と。 

 「ポータル」というSNS世界と現実世界を行き来することについて書かれている。

 

Nothing But Blue Sky / キャスリーン・マクマホン

Nothing But Blue Sky

Nothing But Blue Sky

 

 完璧な結婚、のはずだった。だが妻のメアリー・ローズは突然亡くなり、デイヴィッドは20年の結婚生活ののち、孤独の身となる。亡き妻の面影を追いかけるうちに、夫としても知らなかった彼女の一面が見え隠れするようになり……。 

 

Piranesi / スザンナ・クラーク

Piranesi: ‘Spectacular’ The Times

Piranesi: ‘Spectacular’ The Times

  • 作者:Clarke, Susanna
  • 発売日: 2020/09/15
  • メディア: ハードカバー
 

 18世紀のイタリアに生きた画家兼建築家、ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ(Piranesi)から着想を得て執筆されたというファンタジー。登場するのは「The House」に住まうピラネージと、「The Other」というもう1人の男性のみ。

 あらすじを読んでみても詳細不明感すごい。Kindleでsample読んでみようかな。

 

Small Pleasures / クレア・チェンバーズ 

Small Pleasures: A Novel

Small Pleasures: A Novel

  • 作者:Chambers, Clare
  • 発売日: 2021/10/05
  • メディア: ハードカバー
 

 装丁がオレンジの実でめちゃくちゃかわいいのに、Amazonでは出てこないのが残念……幼い頃ファージョンの物語にオレンジやレモンがよく出てきてすっごくおいしそうだったからか、大人になった今でもオレンジ&レモン(の装丁)にはめちゃくちゃ弱いわたしです。

 本作は、1950年代のロンドンが舞台。とあるジャーナリストのもとに、「処女懐胎を経験した」と主張する女性から電話が入る。真偽を確かめるため、ジャーナリストは取材に赴く。

 

Summer / アリ・スミス

Summer: A Novel (Seasonal Quartet) (English Edition)

Summer: A Novel (Seasonal Quartet) (English Edition)

  • 作者:Smith, Ali
  • 発売日: 2020/08/25
  • メディア: Kindle版
 

 アリ・スミスの四季四部作の最終作、Summerもリスト入り。積読しているので、ショートリスト発表までにこれは読み終えたい! 

 『冬物語』も読み返して、準備(だけ)は万端。というのも、現代の英国を舞台としたこの四部作、シェイクスピアのロマンス劇がモチーフとなっているのです。

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 1作目の『秋』は日本語訳も出版済み。

秋 (新潮クレスト・ブックス)

秋 (新潮クレスト・ブックス)

  • 作者:スミス,アリ
  • 発売日: 2020/03/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

The Golden Rule / アマンダ・クレイグ 

The Golden Rule (English Edition)

The Golden Rule (English Edition)

  • 作者:Craig, Amanda
  • 発売日: 2020/07/02
  • メディア: Kindle版
 

 真面目に勉強し、働いて、コーンウェルの街を出て行こうとしているハンナ。ところが恋人のジェイクが浮気相手に乗り換えてしまい、心に深い傷を負う。とあるお金持ちの女性と知り合ったハンナは、女性の夫を殺害する代わりにジェイクを殺害してもらうという計画に乗るのだが……。  

 

The Vanishing Half / ブリット・ベネット 

The Vanishing Half: Sunday Times Bestseller (English Edition)

The Vanishing Half: Sunday Times Bestseller (English Edition)

  • 作者:Bennett, Brit
  • 発売日: 2020/06/02
  • メディア: Kindle版
 

 こちらも、つながっているブックスタグラマーさんやTwitterの洋書読みさんで読んでいる方がかなり多い作品。

 そしてこちらも、双子の物語。黒人だが薄い肌の色に生まれついた双子だ。大人になって生き別れ、異なる道を辿った双子。1人は黒人と結婚し、とても肌の色の黒い女の子を出産する。もう片方は自身を白人だと偽り、白人と結婚してこちらも娘を生む……。

 1950〜90年代のカリフォルニアを舞台に、とある家族を描いた物語。

 

Transcendent Kingdom / ヤア・ジャシ 

Transcendent Kingdom

Transcendent Kingdom

  • 作者:Gyasi, Yaa
  • 発売日: 2021/03/04
  • メディア: ハードカバー
 

 『奇跡の大地』のヤア・ジャシの2作目。ギフティ(Gifty)は、ガーナからアメリカのアラバマ州にやってきた両親の旅の物語を聞き、楽しい想像を繰り広げるのが大好きな女の子。ところがギフティの兄がオピオイド中毒で亡くなるという悲劇が起きる。大人になったギフティは家族の歴史をたどり、現代アメリカの抱える闇を垣間見るのだが……。

奇跡の大地

奇跡の大地

 

 

Unsettled Ground / クレア・フラー 

Unsettled Ground

Unsettled Ground

  • 作者:Fuller, Claire
  • 発売日: 2021/05/18
  • メディア: ハードカバー
 

 まさかの双子作品のロングリスト入り3作目。最近世界的に双子が増えているとか、なにか事情があるの?

    こちらはジニー(Jeanie)とジュリウス(Julius)という、51歳を迎えた今も母親と暮らす双子である。貧しく、人ともあまり関わりを持たないまま、家族で支え合って暮らしている。ところが母親が突然亡くなり、2人は外の世界へ出て行かざるを得なくなる。