トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

『不滅の棘』と、永遠の命を描いた海外文学

[Vec Makropulos]

すごく今更だが、今年の宝塚初めは『不滅の棘』だった。愛ちゃん(愛月ひかるさん)ポスターが素敵すぎて。綺麗! 綺麗! 指の先までとにかく綺麗!(そして白いファーが似合う)

春野寿美礼さんが主演をされた初演は見ていないし、事前に原作であるカレル・チャペックの『マクロプロス事件』を読んでから行こうと思ったものの、時間もなく。

チャペック戯曲全集

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結局事前知識が全くない状態で行ったのも、逆によかったかもしれない。先入観なしに、まっさらな頭と心で演劇を楽しむことができた気がする。ちなみに、私が行った日には客席がざわざわとどよめいていて、「もしかして、まぁ様がいらしてるのかな♡」と思いきや、なんと初演メンバー(春野寿美礼さん・ふづき美世さん・涼風真世さん)が揃ってご観劇されていた。後ろの方だったので、第二幕のアドリブが始まるまで誰がご観劇されているのかは分からなかったのだけれど……。愛ちゃんがカーテンコールで涙声でお三方をご紹介している姿にはなんだかグッときてしまった。

 

 

 

あらすじ

1603年のギリシャエリイ(愛月ひかる)は、父親が発明した不死の薬を飲まされ、望んでもいないのに永遠の命を得る。 

 

時は流れ、1816年のプラハエリイは宮廷お抱え歌手として生きている。そしてフリーダ・プルス(遥羽らら)という女性と出会い、彼女を愛するようになる。自分の永遠の命が、いつか彼女を傷つけることになると知りながら……。

 

その後、再び場面は変わり、1933年のプラハフリーダ・ムハ(遥羽らら)は、とある100年前から続く遺産相続裁判の原告である。裁判はフリーダに不利な状況に陥っており、彼女は弁護士であるコレナティ(凛城きら)とその息子・アルベルト(澄輝さやと)に相談している。

そこへ、超人気トップスターであるエロール・マックスウェル(愛月ひかる)が突然現れる。裁判に有利になる情報を持っているので、ぜひ耳に入れたいと……。一体なぜ彼は現れたのか? 一体何を知っているのか?

 

カリスマ的な美しさ

エロール・マックスウェル(エリイの20世紀における姿)はスーパースター。いつも周りには美女をはべらせ、物腰は柔らかいがその魅力で人を操り、いつの間にか全ては彼の思惑通りに進んでいる。

どこか人生を悟りきったような態度は何百年も生きているうちに培われたもので、同じことの繰り返しや、何が起こっても一人時を超えて生き残ってしまうという孤独から疲れ切っている。

愛月ひかるさんは神々しいまでに美しいが、笑顔が非常に柔らかく優しい印象の方なので、「もとは純粋な青年だったのに何百年と生きているうちに、人間が同じことを繰り返しているのがバカバカしくなり、世の中を馬鹿にするようになった」というこの役がぴったり。演技も素晴らしくて、ものすごく説得力があった。歌も、情感がこもっていて一言一言が心に残る。第二幕のエロールは疲れ果てていて、見ている方が可哀想になるくらいである。

このところ個性的な宝塚らしからぬ吹っ切れた役が続いたので、久しぶりの二枚目役が眩しかった……。が、今までの役を積み重ねてきたからこそ、この説得力のある演技があったのだろうなとも思える。ずっと見ていたくなるようなスターさん。

すべてが白で統一された舞台セットや登場人物たちの衣装も、「フリーダ」の歌もとてもよかった。舞台や歌(数曲しかなく、繰り返しが多い)シンプルだからこそ、繰り返すうちにその美しさが際立つ。私の宝塚人生の中でも特別な作品となりました。DVD欲しい! 春野寿美礼さんバージョンも見たい!

 

www.tokyobookgirl.com

 

 

「永遠の命」や「年をとらない人」を描いた海外文学

原作の『マクロプロス事件』はぜひ読みたいと思っている。同じように、永遠の命や不老不死、年をとらない人物を取り扱った海外文学を思いつくままリストにしてみた。まず頭に浮かんだのは

『オーランドー』ヴァージニア・ウルフ

ヴァージニア・ウルフ特有の「意識の流れ」についていけるか心配しながら読み始めた作品だったが、『ダロウェイ夫人』とは全く違う作品だった。

何百年もの時を越え、性別まで超えて、生き続けるオーランドーの人生を、彼が少年の頃から30代後半の女性になる時代までの伝記という形をとって綴った作品。伝記作家(ウルフ本人であろう)がユーモラスに読者に語りかける。ウルフと同性愛的関係にあったヴィタ嬢のお家の歴史とも密接に関わりがある小説で、

文学史上最も長く、最も魅力的なラブレター

ともよばれている。現代女性が悩む「仕事か結婚か」という葛藤や、自由への渇望を表しているようなところもある。

オーランドー (ちくま文庫)

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『もののあはれ』ケン・リュウ

芸人兼作家の又吉さんがお気に入りして紹介したことで、日本でも有名になったケン・リュウ。こちらは彼の短編集。

収録されている作品のうち、「円弧」はアンチエイジング手術を受けて、30代の肉体を保ったまま100年以上生きることになる女性の物語。

また、「波」では、宇宙船の中で繁殖を繰り返すことで、400年後に目的地に(子孫が)到着するためを目的に生きている人々が描かれる。

もののあはれ (ケン・リュウ短篇傑作集2)

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どのお話も、手塚治虫の『火の鳥』を彷彿とさせる。 

火の鳥 (文庫版)全13巻完結セット(コミックセット)
 

 

『ドリアン・グレイの肖像』オスカー・ワイルド

どれほど破滅し醜い心を持とうと、外見は美しいままで年をとらない青年。しかし、不思議なことに彼を描いた肖像画はどんどん老いさらばえていく……。

「美少年」が持つパワーに圧倒される一冊。若く美しく健康であるということは、若い時には当たり前に受け取ってしまいがちだが、その若さゆえの美しさで得をした者ほど、年老いていくのは耐えられないものなのかもしれない。三島由紀夫が好きな方にもおすすめ。

ドリアン・グレイの肖像 (光文社古典新訳文庫)

ドリアン・グレイの肖像 (光文社古典新訳文庫)

 

 

こちらは永遠の命ではないが、人と違う形で年をとる男の話。

『ベンジャミン・バトン』F・スコット・フィッツジェラルド

ベンジャミン・バトンは、老人の姿で生まれる。周りの子供達に馴染めず孤独な幼少期を送るが、年を重ねるごとに外見は若返っていく。ティーンエイジャー、20代、30代と束の間の「外見と心がぴったり合う」時間を過ごした後、彼を苦悩が待ち受けていた。

ベンジャミン・バトン 数奇な人生 (角川文庫)

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『百年の孤独』ガブリエル・ガルシア=マルケス

ガルシア=マルケスの小説には、何百年も生き続ける人や幽霊になってもこの世にとどまる人が多く登場する。『百年の孤独』も然り。

百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

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『吸血鬼ドラキュラ』ブラム・ストーカー

不老不死といえば、やっぱりドラキュラやヴァンパイアは外せない。人間の、永遠の命への欲望を垣間見ることができる。 

吸血鬼ドラキュラ (創元推理文庫)

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映画では、『アデライン、100年目の恋』が同じテーマを扱っており心に残った。ブレイク・ライブリーの新境地でした。 

アデライン、100年目の恋 [Blu-ray]

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それではみなさま、happy reading!

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