トーキョーブックガール

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『カルメン・ドッグ』 キャロル・エムシュウィラー: SF+フェミニズム+オペラ+犬!

[Carmen Dog]

 ネビュラ賞を二度受賞し、フェミニズムSFの書き手として知られたキャロル・エムシュウィラーが亡くなった(2019年2月2日)。

 こちらは、表紙に描かれた犬(カルメンよろしく、真っ赤な薔薇を口にくわえた白いワンさん)に惹かれて購入した一冊。残念ながら今は絶版になっているようだ。 

 表紙のイラストは全て刺繍調になっていて、すごく可愛い。物語に登場する動物たちや赤ちゃんが勢揃い。 

カルメン・ドッグ

カルメン・ドッグ

 

 簡単なあらすじは、こんな感じ。

 プーチ(わんちゃん)は、ご主人様と奥様、生まれたばかりの赤ちゃんをこよなく愛する雌犬。ところが突然、世界が変わり始める。

 一部の人間の女性が獣に、一部の獣(牝)が人間の女性に変身するという事象が起こるのだ。

「獣が女に変わる、あるいは女が獣になる」と医師は言う。「今回はあきらかに後者ですね。これまでおおむね人間として立派に通ってきたわけですから。この種の生き物はすでに何百といるかもしれません。どれぐらいいるか、知る手立てがない」 

 なんと34歳の奥様は「口が大きくなって、唇の色がだんだん濃くなって、目が疑り深くなり」、徐々にカミツキガメに変わっていく。一日のほとんどをバスタブで過ごすようになり、旦那様は匙を投げ、結婚生活は破綻寸前。

 そして奥様に変わって家事も育児も負担するようになったプーチは、

……たしかに見事な若い女性になりつつある。かつて犬の前足だった部分はほっそりした指となり、頬を覆うのはまるで桃のような産毛。何といっても血統書つきで、この点は里親一家に優っている。

黄金色のセッター(猟犬)から若く美しい人間の女性に変身しつつある。

 ある日カメになってしまった奥様が赤ちゃんに噛みつくという事件が発生し、大切な赤ちゃんの身の危険を感じたプーチは赤ちゃんを連れて家出する。

 そしてニューヨークの街中で様々な人々・獣に出くわす。この大惨事の謎を解き明かそうとする医師、魅力的な女性に変身した猫や蛇、オペラ歌手や演出家。

 「女性に魂はあるか?」という問題が論じられるようになり、男たちは変身する女たちを怖がりつつも、新しく手に入れた獣女(獣から女に変身した生き物)を重宝するようになる。獣になってしまった妻やガールフレンドを動物園に連れて行くと、獣から女に変身した生き物たちと今までのパートナーとは到底考えられなかったような奔放なセックスを謳歌するようになる。

 そんな中で、とある女性が、女/牝の・女/牝による・女/牝のための母性アカデミーを立ち上げ……。

 

 全てが奇妙奇天烈で、まるで誰かの夢の中に入り込んでしまったような気持ちになる。

 オペラ好きのプーチは自分とはかけ離れた性格の「カルメン」になりたいと願い、歌い続ける。作中には『魔笛』、『アイーダ』や『ラクメ』、『カヴァレリア・ルスティカーナ』、『椿姫』とオペラの演目が次々と登場する。オペラ好きにはたまらない。

 かと思えば、フラッシュ(ヴァージニア・ウルフ作・犬の視点から女流詩人について綴られた小説『フラッシュ』に登場する犬の名前)、カシタンカ(チェーホフ)、ライカ(スプートニクの)などなど、文学史や歴史に名を残した犬たちもこぞって登場し、犬賛歌という趣もある。犬好きにもたまらない。

カシタンカ

カシタンカ

 

 あれもこれも詰め込んでいるのに、決してやりすぎにはならず、とにかく楽しめる。

 キャロル・エムシュウィラーの一作目の長編ということだが、もっともっと彼女の作品を読みたくなった。ル=グウィンも

優れた書き手のうち、もっとも真価が認められていないのが、キャロルだ。

『カルメン・ドッグ』はとても愉快な本だし、慧眼に満ちている。

 と賛辞を送っている。

 

 ちなみに、この本を読んだ時の最初の感想は、「プーチって、私の同居犬にすごくよく似ている」であった……。

 私の同居犬はかなり「人間っぽい」牝で、面倒見がよく(私が体調不良で寝ているときはずっとそばにいてくれて、お風呂やトイレまで付き添ってくれる)、人間の赤ちゃんや子供が大好きで、優しくて、賢くて、綺麗で、可愛くて、大人になってから我が家にやってきたにもかかわらず適応力がすごくて、何でもすぐ覚えて、ちょっとあざとくて、スネたり笑ったり表情豊かで……(略)。まあ、つまり、ごくごく普通の牝犬です。牝犬と暮らしている人は、多分みんなそう思っているのだと思うのです。

 が、人生のほとんどずっと牡犬と暮らしたり牡犬に遊んでもらったり牡犬のドッグシッターをしたりしてきた私としては、同性の犬との暮らしというのは本当に目から鱗がぼろぼろと落ちるような体験ばかり。テレパシーのようにお互いの気持ちが分かるなあと思うことがよくある。そして、見つめ合って過ごす時間が長いので、オキシトシンがめちゃくちゃ出ている気がする。

 もちろん個体によっても異なることは多いのだろうが、文学界における犬好き&多頭飼いのプロのような吉本ばななさんもエッセイで犬の牡と牝の違いについて同じようなことを書いていた。

 プーチの印象的なセリフ(下記)を、私は自分の同居犬に送りたい。 

プーチは振り返って赤ちゃんの頬をなめる。「何が起ころうと、分けあっていこうね」と言う。「私にできるのは、一生懸命やることだけだけど」

 私は絶対に絶対にカミツキガメに変身したりしないからね! あなたが長〜い天寿を全うするその時まで、保護者として愛し続けるからね! 

 

 日本語版は絶版になっているのだけれど、原書も一旦絶版になった後、Small Beer Pressから復刊している(2004年)と、訳者・畔柳和子さんがあとがきに書いている。

 それがこちら。Kindleでも購入可能。

Carmen Dog (Peapod Classics) (English Edition)

Carmen Dog (Peapod Classics) (English Edition)

 

 このシリーズ、とても面白そう。畔柳さん曰く

『カルメン・ドッグ』以下、第二号は動物と話ができる少女の冒険を描くネオミ・ミッチソンの長編『旅は身軽に』(Travel Light, 一九五二、二〇〇五)、第三号は、絶滅したはずのドードーを探しに行く話を含むハワード・ウォルドロップの作品集『ハワードって、どこの?』(Howard Who? 一九八六、二〇〇六)で、偶然だと思うが、どれも動物が深い印象を残す。

だそうで、Travel LightはGoodreadsでは"Tolkeinesque saga with a female lead"なんて感想を綴っている読者もいて、早速読みたくなってしまう。

Travel Light (Peapod Classics)

Travel Light (Peapod Classics)

 

 

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