(アップデート 2018-05-23)
2018年ブッカー国際賞はオルガ・トカルチュクの『逃亡派』に決定。
2018年ブッカー国際賞のショートリストが昨日発表されましたね*1。
2005年に創設された国際賞。当初は隔年選出だったものの、2016年からは毎年に変更され、さらに著者&英語への翻訳者の共同受賞となっている。
アメリカ人作家による作品はブッカー賞の方に含まれることになったので、より多くの国に焦点が当たるようになった感もある。
文学賞にはほとんど興味がないのだけれど、ブッカー賞のリストはチェックしている。面白い作品が多いから。
ノミネート作品は下記の通り。
- Vernon Subutex 1
- 『すべての、白いものたちの』
- The World Goes On
- Like a Fading Shadow: A Novel
- Frankenstein in Baghdad
- 『逃亡派』
- まとめ
Vernon Subutex 1
著者:ヴィルジニー・デパント (フランス)
翻訳者:Frank Wynne
Vernon Subutex 1: English edition (MacLehose Press Editions)
- 作者: Virginie Despentes
- 出版社/メーカー: MacLehose Press
- 発売日: 2017/06/29
- メディア: Kindle版
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ラディカル・フェミニストと評されるデパントの作品。
暴力や性描写が激しいことでも知られている。
主人公Vernon Subutexは、バスティーユにあるレコード/CDショップ・リヴォルバーの店主である。インターネット時代の到来で、店の経営は上手くいかなくなっているがVernonはどう対処していいのか分からない。
徐々に貯金も尽き、路上で物乞いをするまでになる。
ところが、行き交う人にふともらした「俺はAlex Bleach(有名なミュージシャン)が死ぬ直前に作った音源を持っているんだ」という言葉がFacebookで取り上げられ、一躍有名人になってしまう。
様々な人がVernonに会おうと店に押しかけ……。
下記にインタビュー映像あり(フランス語)。
『すべての、白いものたちの』
著者:韓江 / ハン・ガン(韓国)
翻訳者:デボラ・スミス
- 作者: Han Kang,Deborah Smith
- 出版社/メーカー: Portobello Books Ltd
- 発売日: 2017/11/02
- メディア: ハードカバー
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2016年に『菜食主義者』でブッカー国際賞を受賞した韓江が再びノミネート。
翻訳者も前回と同じく、デボラ・スミス。
名前のない語り手が、生まれて2時間後に死んだ妹について語る自伝的小説。
物語は若干22歳の母親の視点で語られる。たった2時間の生、そして死について。
(2019-03-05 日本語訳)
The World Goes On
著者:クラスナホルカイ・ラースロー(ハンガリー)
翻訳者:John Batki, Ottilie Mulzet & George Szirtes
- 作者: László Krasznahorkai,John Batki,Ottilie Mulzet,George Szirtes
- 出版社/メーカー: New Directions
- 発売日: 2017/12/05
- メディア: ハードカバー
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2015年にブッカー国際賞を受賞したクラスナホルカイ・ラースローによる作品。
話し手が、読者に話しかけるように書かれた小説。
滝に魅せられたハンガリー人の通訳が、上海の喧騒の中を歩き回る。
ガンジス川のほとりで大男に出会う旅行者。
ポルトガル人の子供が、仕事場を離れて出会う非現実の世界。
11の忘れがたい物語が語られる。
ちなみに、ハンガリー語では名前は日本と同じく苗字・名前の順で表記されるんですね。ちょっと日本に似ていますよね。だからではないと思うけれど、私が今までに会ったことのあるハンガリー人は皆日本の小説に非常に詳しくて驚いた覚えがある(安部公房など)。
Like a Fading Shadow: A Novel
著者:アントニオ・ムニョス・モリーナ(スペイン)
翻訳者:Camilo A. Ramirez
- 作者: Antonio Muñoz Molina
- 出版社/メーカー: Farrar, Straus and Giroux
- 発売日: 2017/07/18
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現在はニューヨーク在住のスペイン・ウベダ出身の作家、モリーナ。
小説の舞台は1968年におけるアメリカ。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアを暗殺したジェームズ・アール・レイは偽造パスポートを作り、カナダへ、そしてイギリスへ逃げる。その後ポルトガルのリスボンに落ち着いたレイは、そこで逮捕までの10日間を過ごすことになる。
デビュー作(A Winter in Lisbon)もリスボンについて書いたモリーナが再びリスボンに戻り、歴史を検証しながら書いた作品。
Frankenstein in Baghdad
著者:アフマド・サアダーウィ(イラク)
翻訳者: Jonathan Wright
Frankenstein in Baghdadという、なんともインパクトのあるタイトル。
こちらは、2014年にアラブ・ブッカー賞を受賞している。
爆破事件が頻発するバグダードで、路上に放置された遺体を集めた男がそれぞれの身体のパーツを縫い合わせてフランケンシュタインのような怪物を作る。
その怪物には爆破事件の犠牲者の魂が宿っていて、犠牲者の復讐を遂げようとする。
怪物をインタビューするジャーナリストの青年やその周辺の人々を中心に描かれる物語。
非常に話題になっていたが、まだ邦訳が出ていないのは残念。
『逃亡派』
著者:オルガ・トカルチュク(ポーランド)
翻訳者:Jennifer Croft
- 作者: Olga Tokarczuk,Jennifer Croft
- 出版社/メーカー: Riverhead Books
- 発売日: 2018/08/14
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日本語にもよく翻訳されている印象のあるオルガ・トカルチュク。
今回のノミネート作品の中でも唯一邦訳あり(英語版よりよほど前に出版されているし、翻訳者さんも出版社さんも素晴らしい……とつくづく思う)。
様々な「旅」が、エッセイとフィクションのパッチワークのような作品を通して語られる。以下はAmazonの紹介文より。
クロアチアへ家族旅行に出かけるが、妻子が失踪してしまうポーランド人男性。アキレス腱の発見者である17世紀の解剖学者の生涯。弟の心臓を祖国ポーランドに葬るため、パリから馬車で運んでいくショパンの姉ルドヴィカの物語……エッセイ風の一人称の語りと交じり合うようにして、時代も人物もさまざまな三人称の物語が、断片的に、あるいは交互に綴られていく。詩的イメージに満ちためくるめくエピソードの連鎖に、読者はまったく新しい「旅」を体験するだろう。
まとめ
過去の受賞者による作品が2つも入っている(何度も同じ著者がノミネートされるというのは、ブッカー賞では割とよくある現象)。
それほど素晴らしい作品ということかも。
例のごとく、どれも未読です。
ハン・ガンはまだ読んだことがないので、ぜひ今年中にThe VegetarianもThe White Bookも読んでみたい。
Frankensteinも読みたい。邦訳はまだ出ていないので、英語かな。
2018年ブッカー賞のロングリストはこちら。
2017年ブッカー賞のショートリスト作品紹介はこちら。
*1:元記事。