*新型コロナウイルスの影響により、国際ブッカー賞*1の受賞作品発表が、当初予定されていた5月から8月26日まで延期となりました。 ちなみにWomen's Prize for Fictionの受賞作発表も9月に延期が決定。残念ですが、公式Twitterアカウントの言う通り、more time for us readers to catch up with the nominated booksだと幸運に思って過ごします。
国際ブッカー賞のショートリストが発表された。
ノミネートされたのは、この6作品。
- The Enlightenment of the Greengage Tree
- The Adventures of China Iron
- Tyll
- Hurricane Season
- The Memory Police(密やかな結晶)
- The Discomfort of Evening
- ひとこと
The Enlightenment of the Greengage Tree
著者:Shokoofeh Azar(イラン・ファルシ/ペルシア語)
翻訳者:Anonymous
The Enlightenment of the Greengage Tree (English Edition)
- 作者:Azar, Shokoofeh
- 発売日: 2020/01/07
- メディア: Kindle版
作者がAnonymousかと思ったら、翻訳者だった。どういうこと? 気になる。
1979年のイラン革命直後のイランを描いた物語。
古典的なペルシアのストーリーテリングという、シェヘラザードのような、マジックリアリズム的な手法を用いて、革命に巻き込まれていく家族を見つめる。
時期としては、マルジャン・サトラピの『ペルセポリス』の冒頭とほとんど同じくらい。
The Adventures of China Iron
作者:Gabriela Cabezón Cámara(アルゼンチン、スペイン語)
翻訳者:Iona Macintyre and Fiona Mackintosh
The Adventures of China Iron (English Edition)
- 作者:Cabezón Cámara, Gabriela
- 発売日: 2019/11/14
- メディア: Kindle版
タイトルからしてなんだかワクワクするような、読みたくてたまらなくなるような作品。表紙も、片方切り取られたお下げがなんとも印象的。
"China"とは中国ではなく、ケチュア語で「女性」を表すのだとか。
そして"Iron"はスペイン語で"Fierro"なので、「フィエロの妻(でもあるし鉄の女でもある)」を指す。
ホセ・エルナンデスが創造したガウチョ「マルティン・フィエロ」の妻なのだ。
マルティンに捨てられたあと、彼女はLizというスコットランド人の女性に出会い恋に落ち、酒に酔ってガウチョたちとも関係を持ち、平和な先住民族の村を見つけ……。
アルゼンチンを代表するガウチョ文学を、フェミニズム、LGBTQ、ポストコロニアルな視点から再設計し、現在のアルゼンチンの姿に疑問を投げかける作品。
めちゃくちゃ面白そう!
Tyll
作者:Daniel Kehlmann(ドイツ、ドイツ語)
翻訳者:Ross Benjamin
"Tyll"は、ティル・オイレンシュピーゲルの「ティル」だそう。
17世紀、小さな村で暮らしていたティルは父親が錬金術に興味を持ったせいで村を追い出され、パン屋の娘とともにさまよう。そのうち大道芸人と出会い、貿易について教わることになるのだが……。
ティル・オイレンシュピーゲルのリテリング。
Hurricane Season
作者:Fernanda Melchor(メキシコ、スペイン語)
翻訳者:Sophie Hughes
スペイン語圏のノミネートが例年以上に多かった今年のロングリスト。そのうち本作を含む2作品がショートリスト入り。
"One of the most thrilling and accomplished young Mexican writers"と銘打たれた作家の初めての英訳作品。
「魔女」と呼ばれていた女性が死体で発見され、村中が殺人の動機や方法について噂を始める。信頼できない語り手が何人も登場し、暴力と神話にあふれた世界が目の前に広がる。
The Memory Police(密やかな結晶)
作者:小川洋子(日本、日本語)
翻訳者:Stephen Snyder
1990年代に出版された小川洋子の作品が、去年英訳されて以来いろいろな"Books to Read"入りを果たしていて話題に。
Goodreadsの国際ブッカー賞予想でも常に上位につけていたし、今年のBest Translated Book Awardにもノミネートされている。
翻訳者のStephen Snyderは桐野夏生の『OUT』(これは英語圏でめちゃくちゃ売れたはず、すごく話題になっていたのを覚えている)や村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』、小川洋子の他の作品、永井荷風まで訳している方。
当ブログのレビューはこちら。
The Discomfort of Evening
作者:Marieke Lucas Rijneveld(オランダ、オランダ語)
翻訳者:Michele Hutchison
作者のデビュー作。
Jasは大人と子供の間をさまよう、10歳の女の子。スケート中に溺れて亡くなった弟を悼んでいる。
彼女自身の喪失感だけではなく、家族が悲しみと向き合う姿を時にユーモアも交えて描いている作品。
ひとこと
なにはともあれ、夏の受賞作の発表は楽しみですね!
トーキョーブックガールの読みたいリストでは、サマンタ・シュウェブリンはショートリスト入りせず。
・大好きなイラン、大好きなマジカルリアリズムということで気になっているThe Enlightenment of the Greengage Tree
・大学時代は全然興味を持てなかったガウチョ文学の焼き直し、The Adventures of China Iron
・とにかく著書は全部読みたいサマンタ・シュウェブリンのLittle Eyes
『密やかな結晶』も読んでいるところ。なんだか今このご時世で読むと、主人公の切なさが手に取るように感じられる……。
今年のロングリストはこちら。
2019年のブッカー賞はこちら。
2019年のブッカー国際賞はこちら。
*1:2019年6月から名称がThe International Booker Prizeへ変更に。当ブログのカテゴリー名も「国際ブッカー賞」に変更しました。