*新型コロナウイルスの影響により、Women's Prize for Fictionの受賞作品発表が、6月から9月に延期となりました。 ちなみに国際ブッカー賞の受賞作発表も5月から夏に延期が決定。残念ですが、ブッカー賞公式Twitterアカウントの言う通り、more time for us readers to catch up with the nominated booksだと幸運に思って過ごします。
3月8日の国際女性デー、日本ではTwitterではメディアに関してさまざまな議論がわき起こり、「#国際女性デーはみんなの日じゃなくて女性の日」、「#なりたくなかったあれは私だ」のようなタグが生まれた。
スペインでは530万人の女性が「女性が止まれば世界が止まる」をスローガンとしたゼネストに参加し、ウクライナでは女性ジャーナリストたちが「私はあなたのダーリじゃない」運動を繰り広げた。
スウェーデン大使館は、このようにツイートした。
それは現在女性たちの置かれている状況によるものではないでしょうか。おっしゃる通り、女性デーが必要な世界は「変」です。世界の人口の半分以上は、女性なのに。
— スウェーデン大使館 (@EmbSweTokyo) 2020年3月7日
女性デーが必要ない世界になるべきです。ジェンダー平等は社会全体に、もちろん男性にも、利益をもたらすと、スウェーデンは考えます🇸🇪 https://t.co/0X28m43Xzq
国際女性デーと同じく、「Women's」 Prize for Fictionが必要な世界も「変」だ。でも、世界の人口の半分以上は女性なのに、やはり男性作家のほうが優遇されていると読者としては感じることの方が多い。J. K. ローリングが出版社に「(作者が女性だとわからないように)作者名をイニシャルにして本を売り出したい」と告げられたのは、たった20年前のことだ。そして翻訳文学や世界文学となると、この傾向はますます強まる。そう感じることが完全になくなる日が一日も早く訪れることを願うけれど、それまでは私たちにはWomen's Prize for Fictionがある。女性作家による作品をたくさん読もう。
さて、今年ロングリストにノミネートされたのは以下の作品。
- Djinn Patrol on the Purple Line / Deepa Anappara
- Fleishman is in Trouble / Taffy Brodesser-Akner
- Queenie / Candice Carty-Williams
- Dominicana / Angie Cruz
- Actress / アン・エンライト
- GIrl, Woman, Other / Bernardine Evaristo
- Nightingale Point / Luan Goldie
- A Thousand Ships / Natalie Haynes
- How We Disappeared / Jing-Jing Lee
- Most Fun We Ever Had / Claire Lombardo
- The Mirror & the Light / ヒラリー・マンテル
- Girl / Edna O'Brien
- Hamnet / Maggie O'Farrell
- Weather / ジェニー・オフィル
- The Dutch House / アン・パチェット
- Red at the Bone / ジャクリーン・ウッドソン
- トーキョーブックガールの読みたいリスト
Djinn Patrol on the Purple Line / Deepa Anappara
英語で書かれていることがノミネーションの条件であるこの賞、多くの国の作家が含まれている。こちらはインド人ジャーナリストによって初めて書かれたフィクション。
電車の「Purple line」の端に位置する市場、多くの人や犬、リキシャが行き交う暗い路地で、9歳のJaiは家族と共に暮らしている。ある日級友が行方不明になり、Jaiは親友のPari、Faizとともに探し始めるのだが……。
インドの都市部で実際に起こった事件をもとに書かれた作品。
Fleishman is in Trouble / Taffy Brodesser-Akner
Fleishman Is in Trouble: THE SUNDAY TIMES TOP TEN BESTSELLER (English Edition)
- 作者:Brodesser-Akner, Taffy
- 発売日: 2019/06/18
- メディア: Kindle版
Toby Fleishmanは15年の結婚生活の末、妻のRachelと離婚する。毎週末交代で2人の子供たちの面倒を見る生活にも慣れたと思ったのも束の間、Rachelは子供をおいて突然蒸発してしまう。
医師であるTobyは仕事に邁進しつつ、子供の世話に追われ、アプリを使いながら新しい恋愛を探そうともしている。そんな忙しい生活の中で、どうにかRachelの蒸発の原因を突き止めようともがく。
こちらも作家のデビュー作。
Queenie / Candice Carty-Williams
Queenie: Shortlisted for the Costa First Novel Award (English Edition)
- 作者:Carty-Williams, Candice
- 発売日: 2019/04/11
- メディア: Kindle版
ちなみに上2作品と同様、こちらもデビュー作。
25歳のジャマイカ系イギリス人、Queenieは白人男性と長年付き合い同棲していたが、彼女があまりに「closed」な性格なので一緒にやっていけないということで別れを告げられる。彼女がオープンになれない理由は、自身のアイデンティティの不確かさや周りからの偏見・差別などさまざまなのだが、1人になったQueenieは試行錯誤し、ある意味自暴自棄になっていやな男性に身を任せたりしながらも自分の進むべき道を見つけようとする。
まだ途中までしか読んでいない段階なのだが、『ブリジット・ジョーンズ』x『アメリカーナ』という前評判はちょっとよく見積もりすぎかもしれないと感じている……けれど、この先すごい展開が待っているのかな!?
Dominicana / Angie Cruz
1960年代、15歳のアナはドミニカ共和国に暮らしている。他の女の子たちのようにアメリカにいくことを夢見ているわけではないのだが、Juan Ruizに求婚され、ニューヨークに連れて行ってやると言われると、「ノー」とは言えない。彼女がアメリカへ移住できたなら、親戚一同にもチャンスが巡ってくるからだ。Juan Ruizは30歳を越えていて、恋愛感情もないけれど、他に選択肢はない。
ところがニューヨークで妻として孤独な生活を送るうち、アナにはやりたいことが出てきて……。自分の人生をとるか、家族の幸せをとるか。
Actress / アン・エンライト
アイルランドの名女優Katherine O'Dellの娘、Norahは母の過去を調べるうちにそこに隠されていた秘密にたどり着く。アイルランドからロンドンのウエストエンドへ、そしてハリウッドへと活躍の場を広げながら、Norahを産んだ母。しかし次第にアルコールの多量摂取や老いに悩まされるようになり……。
Norah自身が作家、妻、母となる様子を通して母と娘の関係性や仕事、恋愛について描かれた作品。
GIrl, Woman, Other / Bernardine Evaristo
Girl, Woman, Other: WINNER OF THE BOOKER PRIZE 2019
- 作者:Evaristo, Bernardine
- 発売日: 2020/03/05
- メディア: ペーパーバック
ロンドンの劇場で働くAmmaなど、主に黒人の女性12人を通して現代のイギリスを描いた小説。フェミニズムと人種が大きなテーマとなっている。
2019年のブッカー賞も受賞したこちら。一言で言うならば現代イギリス版ヴァージニア・ウルフという趣で、とにかく素晴らしい作品。
Nightingale Point / Luan Goldie
Nightingale Point: Longlisted for the Women’s Prize for Fiction 2020 (English Edition)
- 作者:Goldie, Luan
- 発売日: 2019/07/08
- メディア: Kindle版
1996年のとある土曜日に、ロンドンのアパートNightingale Pointで起きたできごとを描いた小説。夫が留守にしている家を守るフィリピン出身のMary、母が自殺し二人で生きている兄弟のMalachiとTristan、障害を持つElvis、暴力的な父親から逃げてきたPamela。いつも通りの一日を過ごす人々の家であるNightingale Pointだが、この日、貨物機が激突するのだ。事件の前、事件、事件の後を三人称で語る作品。
1992年にアムステルダムで起きたエル・ある航空1862便墜落事故をもとに執筆されている。
A Thousand Ships / Natalie Haynes
トロイ戦争を女性の視点から綴った作品。真夜中に目覚めたクレウーサは、愛するトロイが炎に包まれているのを目撃する。10年に及ぶギリシャ人とトロイ人の争いは終わりを告げ、ギリシャ人が勝利したのだ。クレウーサの今までの人生は、たったの数時間でなかったことにされてしまう。
伝説の戦争とその後を強く生き抜いた女性、少女、女神たちが語り手となり、経験を紡ぐ。
How We Disappeared / Jing-Jing Lee
1942年のシンガポール。日本軍がマレーシアからシンガポールに侵入し、小さな村は3名(うち1名は赤ちゃん)を残し全員が殺される。近くの村で暮らしていた17歳のWang Diは連れ去られ、日本軍の慰安婦となる。60年が経過しても、当時の経験は彼女を苦しめる。
2000年のシンガポール。12歳のケヴィンは祖母の隣に座り、彼女の語る物語に聞き入っている。そして彼女の秘密を解き明かそうとする。
2つの時代を通して戦争の負の遺産を描き出す作品。こちらもデビュー作。
Most Fun We Ever Had / Claire Lombardo
1970年代に恋に落ちて結婚した夫婦から、4人のまったく性格の違う娘たちが生まれる。若くして夫を亡くし酒で自分を慰めるWendy、 専業主婦となり過去のトラウマと闘うViolet、愛しているかどうかもわからない男性の子を身ごもった大学教授のLiza、家族も知らない嘘を抱え生きるGrace。4人は4人とも、2016年の今も愛し合う父母のような愛を見つけることができるのだろうかと疑問に感じているのだが……。
The Mirror & the Light / ヒラリー・マンテル
舞台は1536年の5月。アン・ブーリンが斬首刑に処された。ヘンリー8世に忠実だったクロムウェルは、アン・ブーリンの処刑に賛成し、ヘンリー8世とジェーン・シーモアとの再婚を支持していたのだが……。
ブッカー賞を受賞した『ウルフ・ホール』、『罪人を召し出せ』に続く三部作の完結編。
Girl / Edna O'Brien
"I was a girl once, but not anymore."というなんとも印象的な一文から始まるこの小説。主人公はボコ・ハラム(ナイジェリアのサラフィー・ジハード主義組織)に誘拐された少女だ。ナイジェリアの北西、人里離れた森で少女に起こった出来事、そして家に戻ることはできたものの敵の子を宿している少女が直面する悲劇を描いている。
Hamnet / Maggie O'Farrell
Hamnet: 'Dazzling. Devastating' Kamila Shamsie (English Edition)
- 作者:O'Farrell, Maggie
- 発売日: 2020/03/31
- メディア: Kindle版
タイトルが示す通り、11歳で亡くなったシェイクスピアの息子ハムネットについて、母親であるアグネス(アン)の視点から描かれた作品(ハムネットは演劇作品にもなっている)。
Weather / ジェニー・オフィル
学位を持っていないものの図書館司書となったLizzie Bensonは、周りの人のカウンセラーのような役割も努めており、自身の母親など心に病を抱える人々の助けになっていた。ある日Lizzieの尊敬する年上の女性Sylvia Lillerが、Lizzieに相談を持ちかける。Sylviaが立ち上げたポッドキャスト、Hell and High WaterでLizzieを雇い、毎日舞い込んでくるさまざまなメールに答えてほしいというのだ。Lizzieはすべての人を救おうと夢中になるのだが……。
さまざまな2020年の一押し本リストに登場している注目の一冊。
The Dutch House / アン・パチェット
The Dutch House: The Sunday Times bestseller and a ‘Book of the Year’ 2019 (English Edition)
- 作者:Patchett, Ann
- 発売日: 2019/09/24
- メディア: Kindle版
第二次世界大戦の終わり、Cyril Conroyは不動産業で一財産築き、貧しかった家族に富をもたらす。彼の最初の仕事の一つはフィラデルフィア近郊の素晴らしい不動産、Dutch Houseを購入することである。妻へのサプライズとして購入するつもりだったのだが、この家が原因で彼の周りの人の秘密が暴かれる。
裕福に育ったものの義理の母親によって家から追い出され、貧困へと押しやられたCyrilの息子、Dannyの視点から語られる。Dannyは姉のMaeveとともにお互いだけを頼りに生き抜く。50年にわたる愛と復讐を描いた作品。
Red at the Bone / ジャクリーン・ウッドソン
舞台は2001年。16歳のMelodyは祖父母が暮らすブルックリンで16歳の誕生日パーティーを開いていた。素敵なワンピースを着て、プリンスの音楽を流しながら友人や親戚の前に登場するMelody。このワンピースはたった16年前、Melodyの母自身の16歳の誕生日のために作られたものだった。しかし彼女の誕生日パーティーが開かれることはなかった。
現代の若者が直面する悩みや選択肢について、アメリカにおける人種や階級がもたらす課題も含めて問いかける一冊。
トーキョーブックガールの読みたいリスト
今回読んでいたのは1冊のみでした。Girl, Woman, Other。もちろん傑作だったけれど、ブッカー賞を受賞したのでこちらは別の作品になるかな? Queenieは途中まで読んでいるけれど、どうも主人公の行動にツッコミまくってしまい……挫折しそう。
Dominicanaはあらすじが魅力的で、是非読みたいと考えている一冊。ブッカー賞受賞作家アン・エンライトはThe New Yorkerのフィクションに今月(先月だったかも?)掲載された短編"Night Swim"が面白かったのでActressも読んでみたい。それからジェニー・オフィルのWeatherは積んでいるところ。これは2020年読みたいリストに入れていた。A Thousand Shipsも、Circeや『ペネロピアド』ファンとしては見逃せない作品!
異常な日々が続きますが、みなさま健康には気をつけてお過ごしください。Happy reading!