*2020年ブッカー賞受賞作はこちら。
遅れてしまったけれど、9月15日に発表されたブッカー賞のショートリストのまとめを。時が飛ぶように過ぎ去り、ロングリストをろくにチェックする時間もないまま、9月が半分過ぎてしまいました。
今年のロングリストを見たときに考えたこと。
・ヒラリー・マンテル、三部作がすべてリスト入り。三作目も受賞なるか!?
・国をまたぐ作家が増えた(国籍欄?に2つの国の名前が入る作家。これはブッカー賞のノミネート基準が変わったことも原因ではあるが)
・フェミニズム作品多し(13作中9作が女性作家による作品でもある)
・デビュー作多し
しかし、ヒラリー・マンテルはショートリスト入りせず。三部作のうち、二作が受賞するだけでも十分すごいけれど。マンテルは今の気持ちを聞かれ、"disappointed but freed"と語っています。このシリーズ、読んだのはずいぶん昔なので、第一作目から読み返したい。
ショートリストに残った6冊は、冒頭の数ページしか試し読みできておらずですが、10月中に1冊くらいは読めるかな?
- The New Wilderness / Diane Cook(米国)
- This Mournable Body / Tsitsi Dangarembga(ジンバブエ)
- Burnt Sugar / Avni Doshi(米国)
- The Shadow King / Maaza Mengiste(エチオピア/米国)
- Shuggie Bain / Douglas Stuart(スコットランド/米国)
- Real Life / Brandon Taylor(米国)
The New Wilderness / Diane Cook(米国)
紹介文には「Margaret Atwood meets Miranda July」(!!!)と記載されている作家、Diane Cookの初長編。冒頭を読んだ感想としては、確かにアトウッドの『マッドアダム』シリーズのような趣がある。
主人公Beaの5歳になる娘Agnesは汚染された都市のスモッグなどが原因の病を患っており、このままだと死んでしまうのが目に見えている。生き延びるには、「Wilderness State」という人類未開の土地に行くしかない。そこでBeaは他の18人とともに、実験台としてWilderness Stateに赴き、人類が自然を破壊することなく共存できることを実証しようとする。人々の間に裏切りや権力争いが勃発する中、BeaとAgnesの絆も試されようとしていた。
あらすじを見ていると『バトル・ロワイヤル』を思い出すけれど、焦点が当たっているのは「母であること」、そして「人間の生きる意味」ということで、是非引き続き読みたい。冒頭のシーンはかなりインパクトがあり、すごく良かったというレビューも、全然面白くなかったというレビューもあり、それもまた興味をそそる(なんとなく、そういう人々の意見がわかる気がする……)。
This Mournable Body / Tsitsi Dangarembga(ジンバブエ)
ジンバブエを代表する作家による作品がショートリスト入り。Tambudzaiという女性が登場する三部作の第三作目(一作目は、著者のデビュー作Nervous Conditions)。
貧しい家庭出身のTambudzaiは都会に出て、下宿を見つけ、教師として働き始める。だが厳しい現実と夢見た未来のあまりに大きな隔たりに耐えきれなくなる。
わたしの大好物、二人称小説(二人称小説のブックリストもいずれ作りたい〜)ではないか!
Burnt Sugar / Avni Doshi(米国)
Burnt Sugar: Longlisted for the Booker Prize 2020 (English Edition)
- 作者:Doshi, Avni
- 発売日: 2020/07/30
- メディア: Kindle版
こちらもデビュー作。
I would be lying if I said my mother's misery has never given me pleasure.
という冒頭の文章に思わず引き込まれる。
若かりし頃は好きなように生きていたTara。愛のない結婚生活を捨ててアシュラムに入ったり、ホームレスの自称芸術家を追いかけたり、幼い子どもを抱えながらも、心の赴くまま生きてきた。
そんなTaraも老いはじめ、認知症のような症状が見られるようになる。大人になった娘は、自分を慮ることなどなかった母親、Taraの世話をせざるを得ない事態に直面するのだが……という母親と娘の間の愛と憎しみの物語。
The Shadow King / Maaza Mengiste(エチオピア/米国)
The Shadow King: LONGLISTED FOR THE BOOKER PRIZE 2020 (English Edition)
- 作者:Mengiste, Maaza
- 発売日: 2019/12/05
- メディア: Kindle版
舞台となっているのは、ムッソリーニ率いるイタリアが攻め入ってきた、1935年のエチオピア。孤児となった女の子、Hirutはメイドの職を得て、ハイレ・セラシエ1世(エチオピア皇帝)によるエチオピア軍の指揮官だった人物に仕えることとなる。その後ハイレ・セラシエ1世が亡命すると、Hirutは農夫に皇帝の格好をさせ、彼の警備を買ってでたばかりでなく、他の女性にも武器を持ち戦うよう促す。
『ワシントン・ブラック』のような、物語の面白さを味わえそう。
Shuggie Bain / Douglas Stuart(スコットランド/米国)
ニューヨークにてファッションデザインの職に就いているDouglas Stuartの作家デビュー作。
1980年代にグラスゴーの公営住宅で少年時代を過ごしたHugh(Shuggie)Bainの物語。Shuggieの母Agnesは「灰色の人生」を受け入れることができず、外見を美しく保つことで自身のプライドを満足させようとする。Shuggieの子どもたちは、じきにアルコール中毒となった母親を置いて独立していくのだが、まだ小さかったShuggieは母親と取り残される……。労働者階級の生活を描き出した作品で、ハンヤ・ヤナギハラなどと比較されている様子。
Real Life / Brandon Taylor(米国)
こちらもデビュー作。
アラバマ出身、黒人、クィア、内向的。ミッドウェスタン大学に通うWallaceはどこにも溶け込めないと感じ、友人とも一定の距離を置いて付き合っていた。しかしある夏の夜、自分はストレートだと言い張る白人のクラスメイトと出会ったことから、自分の内に眠る敵意や欲望に向き合うこととなる。
Coming of age(『ライ麦畑』とか『ベル・ジャー』とか『アラバマ物語』とか)の物語がブッカー賞の候補に入るのは珍しい?
10月の発表も楽しみですね。ではみなさま、今月もHappy reading!