*9月14日に発表されたショートリストはこちらから。
7月27日(英国)、ブッカー賞が発表となった。ホームページ(下)ではChair of the 2021 Judgesを務めているマヤ・ジャサノフさんのコメント動画も閲覧できる。
The Booker Prize 2021 | The Booker Prizes
2019年は発売前のマーガレット・アトウッドの『誓願』がノミネートされていたけれど、今年も発売前のリチャード・パワーズの新作がロングリスト入り。ノミネート対象となるのはその年の9月末までに発売される作品なので、審査員の人たちはゲラも読んでいるのですよね。2012年の審査員だったDinah Birchは、7か月で145冊読んだとか。半年強で! 145冊!
- A Passage North / Anuk Arudpragasam(スリランカ)
- Second Place / レイチェル・カスク(カナダ)
- The Promise / Damon Galgut(南アフリカ)
- The Sweetness of Water / ネイサン・ハリス(米国)
- 『クララとお日さま』カズオ・イシグロ(土屋政雄訳)(英国)
- An Island / カレン・ジェニングス(南アフリカ)
- A Town Called Solace / メアリー・ローソン(カナダ)
- No One is Talking About This / パトリシア・ロックウッド(米国)
- The Fortune Men / ナディファ・モハメド(ソマリア / 英国)
- Bewilderment / リチャード・パワーズ(米国)
- China Room / Sunjeev Sahota(英国)
- Great Circle / Maggie Shipstead(米国)
- Light Perpetual / Francis Spufford(英国)
- トーキョーブックガールの読みたいリスト
A Passage North / Anuk Arudpragasam(スリランカ)
英語とタミル語で執筆しているというスリランカ人作家の2作目の長編。スリランカ生まれでブッカー賞にノミネートされた作家といえば、マイケル・オンダーチェ、Romesh Gunesekeraがいる。
A Passage NorthはMessage、Journey、Burningの3部からなる小説で、主人公Krishanの祖母の介護をしていたRaniが井戸に落ちて死んでいるのが見つかったというエピソードから始まる。スリランカのコロンボに暮らすKrishanはRaniの葬式に出席するため、戦争の傷跡が色濃く残る北部へと旅立つ。と同時に、Krishanがデリーに住んでいた頃付き合っていた女性Anjumからもメールが届き、Krishanは過去に思いを馳せる。
Second Place / レイチェル・カスク(カナダ)
カナダ出身&カナダ人ではあるものの両親は英国人で、ロサンゼルス育ちで、10代の頃に英国に移住しているレイチェル・カスク(現在はフランス・パリ在住)。ブッカー賞ノミネートは2回目。前作のOutline 3部作は日本語訳が出版されている。
Second Placeは女性がJeffersという人物に語りかけるという形で始まる。パリ発の電車で悪魔を見たという話から始まり、女性の運命や男性の特権、人間関係、内面世界と社会との関わりについての考察が描かれている。Kindleで候補作の試し読みをしてみたところ、一番惹かれた作品。
The Promise / Damon Galgut(南アフリカ)
ブッカー賞ノミネートは3回目のDamon Galgut。
本作は南アフリカの白人家庭の話。母さん、父さん、アストリッド、アントン(Ma, Pa, Astrid, Anton)のそれぞれに焦点が当てられる。母さんが亡くなり、南アフリカの情勢も変わりつつある。この家庭にはずっと住み込みで働いてくれていたサローム(Salome)という黒人女性がいるのだが、ずっと尽くしてくれた彼女に対して、引退時には家と土地を贈ろうと父さんと母さんは約束している。だがその約束は果たされないまま時が流れ……。
これも冒頭を読んですごく気に入り、購入済み。
The Sweetness of Water / ネイサン・ハリス(米国)
オバマ元大統領のサマーリーディングリスト入り&Oprah's Book Clubのリスト入り(オプラは「This brother can write!」と絶賛)を果たしたこともあり、インスタグラムでは毎日のように大量の感想ポストが流れてくるこの作品。ネイサン・ハリスのデビュー作。
南北戦争時の奴隷解放宣言により自由を取り戻した兄弟、プレンティス(Prentiss)とLandry(ランドリー)は、ジョージ&イサベル・ウォーカー(George & Isabelle Walker)夫妻の家に身を寄せる。戦争で息子を失ったウォーカー夫妻は兄弟との親交を通じて希望を取り戻す。一方兄弟は、幼い頃奴隷として売られていった母親を探す旅に出ることを決意する。『地図になかった世界』や『地下鉄道』がよく引き合いに出されている印象がある。
While we were still in the White House, I began sharing my summer favorites—and now, it’s become a little tradition that I look forward to sharing with you all. So here's this year's offering. Hope you enjoy them as much as I did. pic.twitter.com/29T7CcKiWZ
— Barack Obama (@BarackObama) July 9, 2021
『クララとお日さま』カズオ・イシグロ(土屋政雄訳)(英国)
イシグロの作品がブッカー賞にノミネートされるのは5回目(『日の名残り』、『浮世の画家』、『わたしたちが孤児だったころ』、『わたしを離さないで』)。受賞もした『日の名残り』以外の作品もすべてショートリスト入りを果たしている。改めて考えるとすごい。そして本当にあのタイミングでのノーベル賞受賞の意味って……(もうちょっと年上の作家さんに……)。
An Island / カレン・ジェニングス(南アフリカ)
これ! 日本のAmazonのKindle Unlimited対象になっています。契約している方は無料。
今回ノミネートされたディストピア小説は本作のみ。独裁者政権から逃げ出すようにして無人島に辿り着き、1人灯台守として暮らすようになった男性サミュエル(Samuel)が主人公だ。島には難民や政府に殺された人々の遺体が打ち上げられることもあるのだが、サミュエルはある日、まだ息のある難民が浜に流れ着いたのを発見する。この若き難民を看病するうち、サミュエルは本土に住んでいた頃の自身の生活を回顧するようになる。
A Town Called Solace / メアリー・ローソン(カナダ)
こちらは逆に、AudibleはあるけどKindleがない1冊。1972年の北オンタリオが舞台で、過去の過ちがきっかけで巡り会う3人を描いている。
8歳の主人公クララ(Clara)の姉ローズ(Rose)は母親と口論になった末に家出し、行方不明となる。まだ幼いクララに真実は伝えられず、クララはわけもわからないまま孤独な生活を送ることとなる。
クララの家の隣に引っ越してきたリアム・ケイン(Liam Kane)は離婚したばかりで職も失ったところ。町に馴染むまもなく、リアムの元には警察がたずねてきて、どうやら犯罪を犯したのではないかと疑われていることが判明する。
年老いたエリザベス・オーチャード(Elizabeth Orchard)は、自身が30年前に犯した罪と、その結果2つの家庭を破壊したことを思い起こす。そして人生の幕を閉じる前に、償いをしようと思い立つ。
えっおもしろそう。読みたい読みたい。Kindle版がないからBook Depositoryにお願いするか……。
No One is Talking About This / パトリシア・ロックウッド(米国)
今年のWomen's Prize for Fictionのショートリスト入りしている作品。日本も世界も、ソーシャルメディアを取り扱った文芸作品が増えているなあという印象。
The Fortune Men / ナディファ・モハメド(ソマリア / 英国)
デビュー作のBlack Mamba BoyがWomen's Prize for Fictionにノミネートされていたソマリア出身の作家の新作。2013年にはGRANTAのBest of Young British Novelistsリスト入りも果たしている。ブッカー賞ノミネートは初。
Mahmood Mattanは、ソマリア人や西インド諸島出身の船乗りが多く集まるカーディフ(ウェールズの首都)のタイガーベイで暮らしていたのだが、殺人事件が発生し、なぜか犯人ではないかと疑いの目を向けられるようになる。
Bewilderment / リチャード・パワーズ(米国)
まだ出版前で読めないパワーズの最新作。若き宇宙生物学者テオ・バーン(Theo Byrne)と9歳の息子ロビン(Robin)の物語……とのこと。
China Room / Sunjeev Sahota(英国)
舞台となっているのは1929年のパンジャーブ。3人の兄弟が合同結婚式をあげるのだが、その花嫁3人のうち1人Meharが主人公。花嫁たちは毎日義実家の「china room」で家事に勤しむようになるのだが、不思議なことに3兄弟のうちの誰が自分の夫なのか教えてもらえない。夫が寝室にやってくるのは真夜中で、顔は見えないのだ。主人公は夫が誰なのか突き止めようとする中で、義母の秘密にも迫っていく。
一方で、1999年のパンジャーブを訪れる男性も描かれる。作家自身の家族の歴史から着想を得たという作品。
Great Circle / Maggie Shipstead(米国)
Maggie Shipsteadはミレニアル世代の作家(1983年生まれ)で、ブッカー賞ノミネートは初。
舞台は1914年のモンタナ州。マリアン&ジェイミー・グレーヴス(Marian and Jamie Graves)の幼いきょうだいは転覆した遠洋定期船から救い出される。やがて成長したマリアンは航空機に魅せられるようになり、14歳で学校を中退するとパトロンとなった男性から援助を受けつつ飛行を練習するようになる。だが、その後飛行中に行方不明となる。
その100年後、映画の撮影でマリアンを演じることになったハドリー・バクスター(Hadley Baxter)は、ロマンチックな映画にうってつけの女優という自身のイメージを再構築したいともがいているところだ。ハドリーが想像するマリアン像が実際のマリアンと重なっていき、2つの物語が語られる。
著者は女性の飛行に関して何年もの間調査を重ねてきたということで(下)、興味深いです。
The True Story Behind Maggie Shipstead’s ‘Great Circle’ | Outside Online
Light Perpetual / Francis Spufford(英国)
Spuffordもブッカー賞ノミネートは初めて。
本作はパラレルワールドもの。1944年11月のロンドンで、ドイツ軍の攻撃により5人の若者が命を落としたのだが、ロケットが発射されなかったもう1つの世界では5人が生き延び、その結果20世紀が大きく変わることになる……という物語らしい。すでに4か国語への翻訳が決定済み。
マキューアンの『恋するアダム』もパラレルワールドものでしたが、Light Perpetualではどのように変化した世界が描かれるのか気になります。
トーキョーブックガールの読みたいリスト
今年はリーディングチャレンジにも書いたとおり、できるだけたくさんのブッカー賞ノミネート作品を読んでみたいなあと思っています。
An IslandはKindle Unlimited対象なので、読み始めたところ。Kindle端末を買い換えたらKindle Unlimitedのお試しがついていたのだけれど、月々980円は安すぎると思えるくらい和書も洋書も豊富で満足しているので、お試し期間後も継続利用中。
レイチェル・カスクは、積んでいるOutlineを先に読もうかなあ。あと、試し読みしてみて惹かれ即購入したのがThe Promise。
みなさまは夏休みに何を読む予定ですか? 今週も残り半分、happy readingな日々をお過ごしください!