トーキョーブックガール

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『オルノーコ / 美しい浮気女』 アフラ・ベイン(アフラ・ベーン)土井治訳

[Oroonoko]

ガーディアンの1000冊("State of the Nation"部門)に選ばれている『オルノーコ』を読んだ。『美しい浮気女』と同時収録されている岩波文庫で。

1988年出版でもう絶版になっているのだけれど、数年前に神保町から連れて帰ったのだった。積ん読の棚卸し中。 

オルノーコ 美しい浮気女 (岩波文庫)

オルノーコ 美しい浮気女 (岩波文庫)

 

 

「オルノーコ」

 アフリカで王子として育ち、フランス人による教育を受けた黒人のオルノーコ。奴隷売買で富を得ていた彼が騙され、ひょんなことから自分自身が奴隷として南アメリカに渡り、最愛の女性と再会して……という物語で、主人公に黒人奴隷をおいた初めてのイギリス小説らしい。

ちなみに作者のアフラ・ベインは英文学史上最初の女性職業作家でもある。

なんと画期的な人が、画期的な物語を書いたことか。

もちろん今読むと、オルノーコは黒人としてではなく明らかに「名誉白人」として描かれているし(黒人だけれど白人のように顔が整っていて、フランス語や英語に精通していて洗練されているという設定)、原題作家が描くアメリカ大陸における黒人奴隷とはかなりかけ離れているのだけれど、作者が生きた1600年代という時代を考えると、どれほど革新的だったかとため息が出てしまう。

ストーリーも決してめでたしめでたしではなくtwist and turnに溢れている。いい身分だったオルノーコが奴隷としての立場に苦しみ、過去を鑑みるシーンが印象的である。

ちなみに「オルノーコ」は夏目漱石の『三四郎』にも登場するし、

アフラ・ベイン(アフラ・ベーン)はウルフの『自分ひとりの部屋』にも登場する。

 

「美しい浮気女」

もうタイトルだけで話の九割程度を説明していると思われる短編。

「オルノーコ」とは違い単純明快、なんというか劇作家から出発した作家らしい作品だ。絶世の美女と謳われるミランダは麗しのヘンリック神父を好きになってしまう。ある日告解室で二人きりになったのをいいことに彼への愛を告白するのだが、過去の恋人が忘れられないヘンリックはこれに答えようとしない。

そこで可愛さ余って憎さ百倍のミランダはあろうことか大声で叫び、「ヘンリック神父様に乱暴されました!」と訴えるのだった。ヘンリックは牢獄に入れられる。

その後ミランダはタークィン大公と結婚するものの、自分自身と妹に残された親戚の遺産を食いつぶしてしまう。そのことがバレないようにと妹の結婚をあの手この手で阻むのだが……。

とにかく主人公のミランダが笑えるくらい性悪で、今でいうところの「可愛いは正義」をこれでもかと貫くような物語。