[Samarcande]
今年はウズベキスタンに行きたいなと考えている。美しい遺跡や霊廟を見てみたいし、夫婦揃ってラム好きなので楽しめそう。ちなみに、名物のラグマンは以前食べたことがあるがかなり美味しかった記憶がある。というわけで、この本を読んでみた。
レバノン出身・フランス在住のアミン・マアルーフが書いた『ルバイヤート』をめぐる物語。そのタイトル通り、前半は「青の都」と呼ばれるウズベキスタンのサマルカンドやペルシア(イラン)のイスファハーンが舞台となっている。本作は、「ガーディアンの1000冊」にも選出されている。
サマルカンド年代記―『ルバイヤート』秘本を求めて (ちくま学芸文庫)
- 作者: アミンマアルーフ,Amin Maalouf,牟田口義郎
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2001/12
- メディア: 文庫
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サマルカンドを訪れた稀代のペルシア詩人オマル・ハイヤームは、法官から一冊の本を譲り受ける。
ところで、この本こそは、語り手のこのぼく、ベンジャミン・O・ルサージが後日、じきじきに手に入れようとした本そのものなのである。さわり心地は今も同じだと思う。孔雀の羽で裏打ちされ、ざらざらした厚い革表紙。紙の縁は不ぞろいで、端が薄くなっている。しかし、この忘れがたい夏の夜、ハイヤームがその本を開いたとき、そこにはまっ白な二百五十六ページがあっただけで、四行詩も、挿絵も、欄外の書き込みも、また飾り文字もまだなかった。
中国の紙を用い、サマルカンドの工房で作られたという最良の本。「絹地と同じような精気」があるというその紙に、ハイヤームは自身の四行詩を綴ることとなる。これが『ルバイヤート』だ。酒の美味しさ、美貌の女詩人ジャハーンとの恋、今日を生きることの大切さ。
しかしセルジューク朝は混乱の時代に突入しようとしていた。宰相ニザーム=ル=ムルクに、彼の情報長官になってほしいと請われたオマルは宮廷暮らしを嫌がり、代わりに友人のハサン・サッバーフを推薦する。三人は皆ペルシアのコム(ゴム)出身という繋がりもあった。
ところが、スンナ派のニザームとシーア派のハサンは次第に対立するようになり、ハサンは失墜し追放される。数年後、暗殺教団の指導者となったハサンはイスファハーンに戻り、ニザームを暗殺する。ニザームの妃に仕えていたジャハーン(オマルの恋人)も殺され、絶望したオマルは放浪の旅に出る。そして年老いた頃、大切に携えていた『ルバイヤート』もハサンに奪い取られてしまう……。
と、ここまでが前半で、自由に生きることを慈しんだオマルがいつしか宮廷政治に巻き込まれ、不運にも全てを失うというのがあらすじ。
後半は、1890年代のパリから始まる。『ルバイヤート』ファンの両親を持つフランス系アメリカ人の青年ベンジャミン・O(オマルのO)・ルサージがイラン立憲革命真っ只中のペルシアに渡り、失われた『ルバイヤート』を探し求めるというストーリーだ。
作者がジャーナリストということもあり、『年代記』というタイトルに違わず、事実を淡々と述べるというスタイルが貫かれている。
前半はセルジューク朝、後半はイラン革命、タイタニック号など、フィクションにノンフィクションがそっと紛れ込むような体なので、歴史の本を読んでいるような感覚にも陥る。
その中で光っているのはやはりオマルと詩人ジャハーンの恋、そしてベンジャミンとイラン王女シーリーンの恋であろう。女性の描かれ方がとてもよい。どちらも自立しており、自身の意見を確固と述べ、自身の理想を貫くためには恋人との対立をも辞さない。賢く美しく、大変魅力的だ。これは作者の描き方というよりも、ペルシア(イラン)の女性のあり方そのものなのだろうなとも思う。私にもイラン人の女友達が何人かいるのだが、皆こんな感じだもの。ちなみにイラン人は男女問わず詩を愛する人が多いな、とも実感している。
そういえば、子どもの頃好きだったコンピューターゲーム<タイタニック>は、タイタニック号から『ルバイヤート』を救い出すという筋書きだった。なんだか懐かしくなったのだった。さて、『ルバイヤート』は日本でも手に入る(Kindleの小川亮作版は無料)。
酔いどれ詩人だっただけあり、酒に関する四行詩がかなり多い。
酒姫(サーキイ)よ、寄る年の憂いの波にさらわれてしまった。
おれの酔いは程度を越してしまった。
だがつもり齢の盃になお君の酒をよろこぶのは、
頭に霜をいただいても心に春の風が吹くから。
素直かつ美しい語り口が、いついつまでも人々を魅了する。
たのしくすごせ、ただひとときの命を。
一片の土塊もケイコバードやジャムだよ。
世の現象も、人の命も、けっきょく
つかのまの夢よ、錯覚よ、幻よ!
『サマルカンド年代記』と併せて読むことでより一層楽しみが増した。
みなさま、今週もhappy reading!