トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

『戦争は女の顔をしていない』と、終戦の日に読みたい本たち

[У ВОЙНЫ НЕ ЖЕНСКОЕ ЛИЦО]

 2015年ノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの第1作目にして、作者自身が「もっとも大切に感じている」という作品『戦争は女の顔をしていない』を読んだ。ウクライナ出身・ベラルーシ在住のジャーナリストだった彼女が、第二次世界大戦時ソ連で従軍した女性らにインタビューし、書き起こしたノンフィクションだ。 

戦争は女の顔をしていない (岩波現代文庫)

戦争は女の顔をしていない (岩波現代文庫)

 

 去年、ジュリアン・バーンズが「夏休みには『戦争は女の顔をしていない』(英題はThe Unwomanly Face of War)を読みたい。ようやく英訳が出版されたから』とガーディアン誌のインタビューで語っていたので、興味を持った本。

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 この本が東欧で出版されたのが1985年ということを考えると、英語圏の読者はなんと長い間待ちづつけたことか。ちなみに日本語には三浦みどりさんというロシア語通訳・翻訳家の方が訳し、群像社から発売されたのが2008年。残念ながら三浦さんは、アレクシエーヴィチのノーベル文学賞受賞を知ることなく、2012年に亡くなっている。

長いこと信じられなかった、わが国の勝利に二つの顔があるということを、すばらしい顔と恐ろしい顔が。見るに耐えない顔が。わたしにはわたしなりの戦争があった……。

 そう語るアレクシエーヴィチは、戦争に従事した女性にインタビューを続ける。男性には邪険にされ、「女性なんてちゃんとした話ができない、記憶が曖昧だ」と否定されながら。

 ソ連ではなんと、百万人をこえる女性が従軍したという。看護婦や軍医だけではなく、最前線で兵士として武器を手にし、神をも恐れぬさまで、敵に壊滅的な被害を与えている。ところがその女性たちは、戦争が終わると他の女性から「男と一緒になって何をしてきたやら」と軽蔑され、一緒に戦った男性から守られることもなく、いわばソ連の恥部として自らの体験を語ることを禁じられてきた。

戦争前は戦争の本なんか嫌いだった。恋愛物が好きだったのに。 それが、まあ! 何日間も二十四時間ぶっ続けで通信機にかじりついていました。

 その体験は、戦争よりずっと大きい人間の醜さ、哀しみを私たちに教えてくれる。

 

 もうすぐ日本も終戦の日を迎える。戦争を実際に経験したことのある人から話を聞く機会は減少しつつあるとはいえ、私たちには第二次世界大戦をテーマとした素晴らしいフィクション・ノンフィクションがいくつも残されている。

『夜と霧』

夜と霧 新版

夜と霧 新版

 

 私の人生に大きな影響を与えた一冊。この本以外に、読まなければいけない本なんてない、と初めて読んだ時思ったほど。ユダヤ人の作者がアウシュビッツでの体験を綴っているのだが、「これは事実の報告ではない。体験記だ」と作者は書いている。この本やユダヤ人であることや強制収容所を大きく超えて、人間の真理に迫っている。

 

 『朗読者』

朗読者 (新潮文庫)

朗読者 (新潮文庫)

 

 「どうして、かつてはすばらしかったできごとが、そこに醜い真実が隠されていたというだけで、回想の中でもずたずたにされてしまうのだろう?」主人公ミヒャエルの初恋の相手は年上の女性だった。彼女はいつでも、ミヒャエルに「本を朗読して」とせがみ、その甘く優しい行為がつなぐ関係は、思わぬ形で長い間続くこととなる。人生と、人間の尊厳について考えさせられる。「あなたならどうしましたか?」という女性の問いかけが胸に突き刺さる。

 

 『この世界の片隅に』

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

 

 昨年は映画化、今年はドラマ化(日曜の夜、今日は3話目かな?)と、大ヒットとなった漫画。第二次世界大戦当時に広島の呉に暮らした女性、すずの日常が、戦争によって次第に破壊されていく様子を描く。どこかおっとりとして、小姑にいびられていることも気がつかないような、すずさんだからこそ、彼女が体験せざるをえなかった家族の喪失や原爆の影響が胸に迫る。

 ちなみに映画化もドラマ化もめちゃくちゃいいです。どちらも広島弁がお上手な人ばかりで。ドラマは、原作に忠実なキャスティングをされていて思わずうなります。尾野真千子演じるお義姉さんの恐ろしさよ……二階堂ふみ演じるりんさんの妖艶さよ……。

 

 『夕凪の街 桜の国』

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

 

 こちらも、こうの史代さんによる漫画。『この世界の片隅で』のすずは原爆の直接的な影響を受けないが、こちらの最初の短編の主人公は被害者となる。彼女の親戚や、その子孫たちが、いつまでも彼女の面影を胸に留めているのが読者に取っても救いになる。

 

 『アドルフに告ぐ』

新装版 アドルフに告ぐ (1) (文春文庫)

新装版 アドルフに告ぐ (1) (文春文庫)

 

 こちらは、神戸で生まれ育ったドイツ人の少年アドルフ、ユダヤ人の少年アドルフと、アドルフ・ヒットラーという3人のアドルフの運命を描くフィクション。第二次世界大戦でそれぞれの人生は大きく変わり、また密接に交わっていくのだが……。

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