トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

Animal Wife / Lara Ehrlich

 『文藝』2021年夏号(もふもふ〜)でカミラ・グルドーヴァの「ねずみの女王」を翻訳された上田麻由子さんが「人間が動物に変身する話」が近頃かなり多くみられると解題に書いていらしたのだが、読みながらこくこくとうなずいてしまった。本当〜〜〜に多い。特にフェミニズムをテーマにした物語を執筆している作家の多くがここ何年か、こぞって動物変身ものを書いている。

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 この作品も、動物変身ものだ。Red Hen Press's Fiction AwardとEric Hoffer Book Awardを受賞したデビュー短編集である。天女の羽衣や鶴の恩返しなどの日本民話を彷彿とさせるところもある。作者(アメリカ人)は沖縄剛柔流空手の黒帯を持っていたり、仙台でのホームステイ経験があったり、愛猫(まっしろなメインクーンとのこと)の名前がモロだったりするので、あながち気のせいではないかもしれない。

 含まれているのは15の短編。タイトルや装丁が示すとおり、そして作者もインタビューで語っているとおり、アンデルセンやグリム童話などのおとぎ話をベースにアンジェラ・カーターなどから着想を得た、フェミニズムやマジックリアリズムの要素が含まれる作品ばかりだ。

Animal Wife

Night Terrors

Beware the Undertoad

Six Roses

Desiree the Destroyer

Crush

Foresight

The Vanishing Point

Kite

Burn Rubber

The Tenant

Paint by Number

The Monster at Marta's Back

Stone Fruit

Animal Wife Revisited 

 

 冒頭の"Animal Wife"は『人魚姫』などの西洋のおとぎ話のようでもあり、非常に日本の昔話じみたところもありという感じ。7年生の主人公アレックス(アレクサンドラ)の父は若かりし頃、池で水浴びしている母と出会う。母は池岸に羽衣を置きっぱなしにしていたので、「濡れないように」拾い上げたのだという。母は出会いについて異なる意見を持っているようなのだが、アレックスに向かって胸の内を打ち明けることはない。彼女はまるで1950年代の古き良き専業主婦的な存在で、「アーティストになりたかったけれど何も達成できなかった。あなたを産んだことがわたしの人生最大の功績」などと言っていたものの、ある日突然家を出て行ってしまい……。白鳥としての母や11羽の姉妹たちのシーンはうつくしく、何度も登場する「恋をしたら泡になったり風になったりしちゃうのよ」という娘への忠告がファンタスティックな情景を作り上げている。

 おとぎ話のすべてを反転させたような"The Vanishing Point"は主人公が鹿になる話だし、"The Undertoad"には河童を彷彿とさせるundertoadが登場する。

 かと思えば"Six Roses"には思春期の女の子たちの恋バナからの忘れられない出来事が記されており、"Desiree the Destroyer"ではいわゆる「普通」の女の子とスーパーウーマンの日常(?)が交互に描かれている。どれも短いが味わい深く、国は違っても悩みや考えていることは同じ……と、この本を読んでいるであろう色々な国の読者と本越しにつながっているような気分になったのだった。

 松田青子さんの短編がお好きな方はきっと気に入ると思う。 

女が死ぬ (中公文庫)