そういえば数年前、「イシグロの次の小説はSFだろうな」と思ったことがあったな、なんでだっけな……と考えていて、思い出した。イシグロが読んでいる本に、テクノロジーについての作品があったのだった。The Guardianのお気に入り記事の1つに、作家が読んでいる(または夏に読みたい)本を紹介するというものがあって、イシグロも何度か登場している。
インタビューでは2019年にはもう『クララとお日さま』をほとんど書き上げていたようなことを話していたし、関連性はないかもしれない、というか何百冊と読んでいるうちのほんの数冊なのだろうけれど、イシグロが『忘れられた巨人』執筆後に読んだと語っていた本をまとめてみた。
カズオ・イシグロが読んでいた本
『忘れられた巨人』出版後の2016年、「The Best Books for Summer 2016」で紹介されていたのがこちら。
The Return: Fathers, Sons and the Land In Between / Hisham Matar
「アラブの春」の生んだ期待がもろく崩れ去り、その後ばらばらになった中東のある一家を描いたノンフィクション。作家による「怒りを抑えた筆致、ついえることのない人類への希望」が一層説得力を増すというコメントあり。
『マザリング・サンデー』グレアム・スウィフト(真野泰訳)
そうそう、新潮クレストの帯にもたしか「イシグロ絶賛」の文字がおどっていた気がする。スウィフトは、イシグロとはまた違う持ち味だけれど、何度も蘇ってくる記憶を描き出すことに長けている作家だなと思う。こちらは孤児院育ちのメイドが過ごした、忘れられないマザリングサンデー(使用人が里帰りできる日曜日)のお話。
Days Without End / セバスチャン・バリー
1850年代のアメリカで、インディアン戦争や南北戦争に出兵し戦った17歳の少年2人が主人公。イシグロは「こんなに素晴らしい一人称(の物語)にはここしばらくお目にかかったことがない」と絶賛している。
次の3冊は、2017年の「best holiday reads 2017, picked by writers」から。3冊のテーマはそれぞれ「アメリカ人の孤独」、「デジタルメディアの危うさ」、「若者たちの会話」と、けっこう『クララ』との関連性が見え隠れしているような。
Universal Harvester / ジョン・ダニエル
「アイオワのトウモロコシ畑や小さい地域社会が舞台となっていて、出だしは気味悪いスリラーのようだが、アメリカのさまよえる者や本質的に孤独な人を美しく描いている」とのこと。
Post-Truth: How Bullshit Conquered the World / ジェイムズ・ボール
Post-Truth: How Bullshit Conquered the World
- 作者: James Ball
- 出版社/メーカー: Biteback Publishing
- 発売日: 2017/05/11
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「現在デジタルメディアで流行しているビジネスモデルや動機がまともではないということを、鮮やかに描写しているので」とのことだった。
『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』サリー・ルーニー
Conversations with Friends (English Edition)
- 作者: Sally Rooney
- 出版社/メーカー: Faber & Faber
- 発売日: 2017/05/25
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若きアイルランド人作家サリー・ルーニーのデビュー作。「色々な人から、素晴らしい作家が現れたと聞いたから。本当にそうなのか、読んで確かめてみる」とのコメントしていた。
こちらは2020年、すでに小説を書き終えたあとのコロナ禍でのおすすめ本。
The Fortnight in September / R・C・シェリフ
1931年に出版されたこの小説、「just about the most uplifting, life-affirming novel I can think of right now」に続く紹介文も魅力的で思わず読みたくなる。とあるイギリス人一家の夏休みを描いた作品。
おまけ: アトウッドやランキンの推し「イシグロ作品」
イシグロが好きな本について語っていると「どの本も読みたい!」と感じるのだが、他の作家が語るイシグロ作品もこれまた魅力的。たとえばアトウッドは『わたしを離さないで』、ランキンは『忘れられた巨人』。