トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

Conversations with Friends / サリー・ルーニー: 現代の『夜はやさし』

(カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ)

 当ブログでも、キーワード検索される方が一際多いアイルランドの新星、サリー・ルーニー。2017年には、カズオ・イシグロが「色々な人から、素晴らしい作家が現れたと聞いたから。本当にそうなのか、読んで確かめてみる」として、本作を「夏休みに読みたい本」に挙げていた(下記参照)。長編二作目のNormal Peopleは2018年のブッカー賞にもノミネートされ、映像化も決定し(『ふつうの人々』)、まさに破竹の勢い。 

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  日本語訳ももうすぐ出版なのですね! 翻訳は山崎まどかさん。なんだか作品にぴったり。こちらもとても楽しみ。

Conversations with Friends (English Edition)

Conversations with Friends (English Edition)

  • 作者:Rooney, Sally
  • 発売日: 2017/05/25
  • メディア: Kindle版
 

  ちなみに読んだのは一年以上前なのだけれど、『夜はやさし』を再読してからブログに書こうと思っていたら時間ばかりが経過し、おそらく今年中に『夜はやさし』を開くことはできないと思い、断念した。 

 本作の主人公は女子大生の「Frances」。親友で元恋人のBobbiが憧れる写真家/ライターのMelissaと知り合いになり、ひょんなことからその夫である「Nick」と逢瀬を重ねるようになる。

 というところから、「FrancesにNickか〜。どことなくフィッツジェラルド感があるな」と思っていたら、Francesは夏休みに、MelissaとNickがフランスに所有する別荘(ただし南仏のアンティーブではなく、エターブル)に遊びに来ないかと誘われ、数日滞在することになるではないか。もう完全に『夜はやさし』のあの人たちの関係性や感傷を思い出してから読みたい!と思ってしまったのです。

夜はやさし

夜はやさし

 

 さて、主人公であるFrancesは20代の大学生、Nickは32歳で美しいけれどもぱっとしない俳優。

 アルコールや心を患う妻との関係性によってまだ若いはずのディック・ダイヴァーがくたびれはて、輝かしいはずだった人生の夢を一つ一つあきらめていく様子をやさしく描き切ったフィッツジェラルドのように、ルーニーも、現代においてはまだまだ若く、希望にあふれているはずのNickの精神が妙に老成し、人生に疲れ切っているという感じをさまざまなバックグラウンドを用いて(天才児としてもてはやされたこととか、妻の情事とか、子どもを持たないと決めたこととか)それはそれは美しく鮮やかに表現している。

 そして主人公のFrancesも。決してファム・ファタールではない、観察者だと見せかけておきながら、その口から飛び出す残酷な言葉や、憧れと嫉妬の入り混じった感情、自分の心が定まっていないからこそ周りの人々にもたらす混乱などからは目が離せなくなる。特にBobbiなど、友人との会話は(タイトルにもなっているだけあって)印象的だ。自分のことなのに冷たく突き放したような視線はいつしか作家であるルーニー自身の視線にもつながり、もっともっとこの作家の書いたものを読みたいと思わせる。

 この妙に冷静で乾いた筆致は、最近どこかで目にしたはず……と思ったら、遠野遥さんの『破局』でした。ちなみに偶然ながら、ルーニーも遠野さんも1991年生まれ。遠野さんは夏目漱石の文体を意識して小説を書き始めたそうで、ルーニーがフィッツジェラルドを意識しているとしたらそれは物語のもっと核心に近い部分なのだけれど、両者の持つ独特の視点はいつまでも心に残る。

破局

破局

  • 作者:遠野遥
  • 発売日: 2020/07/04
  • メディア: Kindle版
 

 みなさま、12月もhappy reading!

 

 真冬のダブリンの描写が印象的だったので、こちらのリストに追加しました。 

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2作目『Normal People』のレビューはこちら。 

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