「夏」と「秋」のリストを作ったのに、「冬」は駆け足で過ぎ去ってしまい……。
今更だが、長く暗い冬に読むのにうってつけの海外文学をリストにしてみた。
タイトルに「冬」が入る6冊
『冬の夜ひとりの旅人が』イタロ・カルヴィーノ(脇功訳)
「あなたはイタロ・カルヴィーノの新作『冬の夜ひとりの旅人が』を読み始めようとしている」という、出だしの文章が有名なメタフィクション。パラレルワールドがいくつも繰り広げられる。
読書の喜び、面白さをじっくり噛み締めることができる。
『冬の犬』アリステア・マクラウド(中野恵津子訳)
- 作者: アリステア・マクラウド,中野恵津子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2004/01/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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カナダ東部、ケープ・ブレトンが舞台の短編集。
氷に閉ざされ、1年のほとんどが厳しい寒さに覆われたような地域での人間と動物の物語。読んでいるだけで、髪の毛や涙まで凍ってしまいそう。
『マヨルカの冬』ジョルジュ・サンド(小坂裕子訳)
ジョルジュ・サンドが、ショパンと過ごしたマヨルカでの冬についてのエッセイ(ノンフィクション)。恋人の体調が悪く、マヨルカは思いの外寒い。終わりも見えている恋が物悲しい。
『冬の夢』スコット・F・フィッツジェラルド(村上春樹訳)
冬の寒さ厳しいアメリカ東部をモチーフにした短編集。
「氷の宮殿」は、暖かなアメリカ南部の娘が北部の青年と結婚し、北部を訪れる物語。あまりの環境や人間性の違いに彼女は驚き、カルチャーショックを受ける。そして青年の街で訪れた氷の宮殿では、あっと驚くような出来事が……。
『冬物語』シェイクスピア(松岡和子訳)
あまりに長すぎる冬=時の隔たりを経て訪れる、春を描いた物語。
『冬』アリ・スミス
Winter: from the Man Booker Prize-shortlisted author (Seasonal)
- 作者: Ali Smith
- 出版社/メーカー: Penguin
- 発売日: 2018/10/04
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アリ・スミスが四季をテーマに、2015年以降のイギリスを舞台に執筆しているSeasonal Quartetの2作目。全てが死に絶える冬に、久しぶりに再会した家族と他人。クリスマスを一緒に過ごすことで、分かり合えないはずだった人との間に思わず絆が生まれる。
アリ・スミスらしくアートやシェイクスピアが大きなテーマになっていて楽しめる。
ロシア文学から2冊
『貧しき人びと』ドストエフスキー(木村浩訳)
厳しい寒さの中で生まれたロシア文学は、ぜひこの季節に味わいたい。
役人マカールと薄幸の美少女ワーレンカの間に交わされる書簡からは、貧困にあえぐ苦しみだけではなく、日常のかすかな喜びやお互いへの思いやりが感じられ、それはまるで晴れた冬の日に見つけた温かな光のよう。
短めなので、ドストエフスキー初心者の方にもおすすめである。彼の作家人生の初期に書かれたこともあり、社会文学ではあるものの情緒的で読みやすい。
『ドクトル・ジヴァゴ』ボリース・パステルナーク(工藤正廣訳)
- 作者: ボリースパステルナーク,イリーナザトゥロフスカヤ,工藤正廣
- 出版社/メーカー: 未知谷
- 発売日: 2013/03/14
- メディア: 単行本
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ノーベル賞作家ボリース・パステルナークによる長編小説。
ロマノフ王朝が終わりを告げ、ロシア革命が始まろうとしているモスクワ。主人公・ユーリ・ジヴァゴは学校を卒業し医師となったばかり。ある日、自身の婚約を発表するパーティーに若い娘が乱入し、客の1人を銃で撃ってしまう。娘の名前はラーラ。
2人は別々の相手と結婚するものの、人生の節目節目で巡り会い……革命や戦争の中でも死なない愛を描いた物語。
読み応えがあるので、冬じゅう楽しめること間違いなし。
カナダ文学から4冊
1年の半分は雪が降りしきる地方も多い国、カナダ。カナダ文学もぜひこの季節に。
『キャッツ・アイ』マーガレット・アトウッド(松田雅子・松田寿一・柴田千秋訳)
トロントで少女時代を過ごした女性アーティスト(画家)が、大人になってから仕事の関係でその地に戻り、子供の頃の友人に思いをはせるという物語。
いじめなどに見る少女の残酷性や、それが人生にどう影響するかということを考えさせられる。
トロントの冬、凍った池での出来事が印象的。
『犬の人生』マーク・ストランド(村上春樹訳)
- 作者: マークストランド,Mark Strand,村上春樹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2001/11/01
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詩人、マーク・ストランドが書いた幾分詩的な短編集。ストランドはアメリカ人だが、カナダ生まれ。カナダの都市もいくつか登場する。
コーヒーとドーナツにとても合う、気がする。
カナダ人作家、再び。マンローも、アトウッドに並び有名な作家である。
『ディア・ライフ』アリス・マンロー(小竹由美子訳)
音も無く深々と雪が降り積もり、翌朝起きたら家の窓は一面銀世界になっていた……というような静かな驚きに満ちた短編集。
静かに凍るトロントの道路も、美術館も、田舎の風景もなんということはないのに美しい。
タイトル通り、人生そのもののよう。なんでもない日々の暮らしに潜む驚きや感動を綴った作品。
『ステーション・イレブン』エミリー・セントジョン・マンデル(満園真木訳)
- 作者: エミリー・セントジョンマンデル,Emily St.John Mandel,満園真木
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/02/06
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2000年代初頭のSARS流行時はチャイナタウンから観光客が消え、ゴーストタウンのようになっていたトロント。
その出来事にインスパイアされたかのようなディストピア小説がこの『ステーション・イレブン』。国際都市トロントを舞台に、飛行機で彼の地に降り立った人々によって広まり、驚異的な感染力を誇るグルジア風邪が巻き起こす悲劇を描く。
SF的な描写よりも、巻き込まれていく人々それぞれの人生にフォーカスしているのが印象的。そして病気が蔓延していくのは、雪が降り積もる冬のことである。
韓国文学から1冊
『すべての、白いものたちの』ハン・ガン(斎藤真理子訳)
「白いものについて書こう」と決めた春。そのリストには、「ゆき」や「こおり」、「しろくわらう」が含まれている。そのうち季節は巡り、寒い寒い冬がやってくる。小さくて雪のように白い赤ちゃん、凍てついた街、まばゆく光る月。
散文詩のようなうつくしい文章に魅了され、次々とページをめくるうちにふと気がつく。ああ、生と死が語られているんだなと。
クリスマスが登場する2冊
『誕生日の子どもたち』トルーマン・カポーティ(村上春樹訳)
- 作者: トルーマンカポーティ,Truman Capote,村上春樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/06/10
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- 作者: トルーマンカポーティ,山本容子,村上春樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1990/11/25
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「クリスマスの思い出」は毎年クリスマスの時期が来ると読み返す物語。
鼻の奥がつーんとなるようなお話。
主人公は読者に「想像してみてほしい」と呼びかける。20年も前のクリスマスのこと。
おばちゃんとぼく、犬のクウィーニーが一緒に過ごした最後の日々。
ケーキを作り、ツリーを飾り、凧をプレゼントし合うだけなのに、2人と1匹のクリスマスは今でも思い出の中できらめく。
ニューヨークという都会に暮らし、時代の寵児となってもカポーティの心が帰って行く場所はいつだって南部の田舎町だったのだろう。そんなことを想像してしまう物語である。
『星のひとみ』サカリアス・トペリウス(万沢まき訳)
岩波世界児童文学全集に入っていて、大好きだったお話。これ絶版になっているのですね……悲しいな。今はもうこういう児童文学全集はないのだろうか。わたしは子どもに一体何を提供できるかしら。
こちらは、フィンランドの昔話を集めた作品。雪やオーロラがたくさん登場して、読んでいるだけで鼻の先がかじかんでくるような、ミトンが恋しくなるような。
クリスマスに拾ったサミ人の女の子「星のひとみ」の秘められた力や、指輪をはめておばあちゃんの少女時代を体験する女の子のお話など。
政治的な「冬の時代」を描いた2冊
『寒い国から帰ってきたスパイ』ジョン・ル・カレ(宇野利泰訳)
冷戦時のイギリス。イギリスの情報機関・秘密情報部で勤務するリーマス。
東側諸国と戦っているはずなのに、いつしか自身の仕事が民主主義的であるとは言えないと気づいてしまう……。個人と組織、仕事と恋愛、イギリスの諜報機関と共産主義。
それぞれの拮抗が彼を悩ませ続ける。少しくたびれたスパイ像は、『007』とは一味違ってリアル。
『ペルセポリス: イランの少女マルジ』マルジャン・サトラピ(園田恵子訳)
1979年にイランで起こったイスラム革命以降続いた、イランにとっての「冬の時代」を少女の視点から描くB・D(バンド・デシネ、フランスの漫画)。
ユーモアを失わない家族の愛に囲まれて育ったマルジは、イスラム革命後、自身や母、周りの人びとの自由が奪われていくことを感じる。そしてオーストリアに留学(脱出)することが決まるが……。
ちなみに続編では、ウィーンで寒い寒い冬を経験するマルジの姿も描かれている。
冬が舞台の8冊
『フローラ』エミリー・バー(三辺律子訳)
記憶障害を持つ少女フローラの大冒険を描いた物語。数時間前のことも覚えていられないフローラは、忘れてはいけないことをメモすることで毎日をやり過ごしている。
しかし、決して忘れない記憶が1つだけあった。それは大好きな男の子と浜辺でキスをしたこと。町を出てノルウェー領スヴァールバルへ旅立った彼を追って、フローラは生まれて初めて1人で飛行機に乗るのだが……。
恋愛もののYAと思いきやミステリーなどの要素もあって、途中でガラッと雰囲気が変わりページを繰る手が止まらなくなる。表紙の通り寒いスヴァールバルが舞台ということで、冬に読むのにぴったり。
『ゴーストドラム』(ゴーストシリーズ)スーザン・プライス(金原瑞人訳)
著者が北国出身のおじの話を思い出して書いたという作品。3部作。
金原瑞人さんの翻訳で本作だけ1991年に出版されていたのが、2017年のクラウドファンディング(サウザンブックス)で3部作すべて発売に! なんてラッキーなんでしょう。
物語を語るのは猫。舞台は雪が降り積もる北国。主人公は奴隷として生まれ、魔法使いの弟子になる女の子。眠り姫のように助けを待ち望む男の子、敵となる魔法使いのクズマ……。その展開の衝撃も、いつまでも心に残る。
最初の1冊のみならず、3部作すべて冬の読書にぴったり。そしてすぐに次の作品が読みたくなるので、3冊まとめての購入を強くおすすめします。
『キャロル』パトリシア・ハイスミス(柿沼瑛子訳)
- 作者: パトリシアハイスミス,Patricia Highsmith,柿沼瑛子
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冬の寒いニューヨークを舞台に、キャロルとテレーズという2人の女性の運命の恋を描く。デパートでの出会いのシーンがなんとも印象的でアメリカ東部的。
結末は予想外で、ある意味衝撃的。春の訪れを感じさせる。
『断絶』リン・マ(藤井光訳)
*2021年、藤井光さん訳で日本語訳されるようです!
こちらも、冒頭の舞台はニューヨーク。ただし、文明が息絶えたあとのニューヨークだ。中国から全世界に広まったシェン熱が原因で、多くの人類が死んでしまう。しかし、ワクチンもないというのに、シェン熱患者と接触しても、なぜかシェン熱にかからない人々が一定数存在した。主人公のキャンディスもその1人で……。
ちなみにこれ、新型コロナウイルス感染症が流行する以前の物語。読んだときにはすごい〜ポストアポカリプス、ディストピアな世界!と思っていたのが、みるみるうちに世界がSeverance的な日常に突入していくのはsurrealで恐ろしかった。
『シャイニング』スティーヴン・キング(深町眞理子訳)
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- 作者: スティーヴンキング,Stephen King,深町眞理子
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こちらは、ぬくぬくとお家で過ごす時に読みたい作品。スティーブン・キングのホラー作品は陰鬱な天気の日に、安全な場所で読んだらより楽しめるような気がする。
舞台はマイナス25度という極限の寒さ、積雪に閉ざされたコロラドの山の奥に位置するホテル。一冬の管理人として作家とその家族(妻と息子)がやってくるのだが、ホテルは悪名高き幽霊屋敷だった……。
『闇の左手』アーシュラ・K・ル・グィン(小尾芙佐訳)
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舞台は惑星〈冬〉、季節が巡っても氷が張り、ひねもす雪が降るような星だ。
国交を求めて使節として地球からやってきたゲンリー・アイは、この両性具有の人々が暮らす惑星で理解者を得ることができずジレンマを抱えていた。しかしとある事件がきっかけで宇宙人と心を通わせ、友情や愛を育むようになる。
ル=グウィンが真冬にソリを引く2人の人間(の写真? 映像?)を見たことがきっかけで生まれた作品だけあって、ゲンリーとエストラーベンの逃亡劇が心に残る。
Conversations with Friends / サリー・ルーニー
フィッツジェラルドの『夜はやさし』をモチーフにしたと思われるこの作品。『夜はやさし』は南仏の描写が美しく、登場人物たちが少しずつ壊れていく様が少し気だるく感じられ、夏に読むのにぴったりな1冊なのだが、こちらは逆に冬の読書にぴったりな作品。
夏を過ごすのもエターブル(フランス)で、どこか涼しい風が感じられる描写が特徴的。主人公がほとんどの時間を過ごすアイルランドのダブリンの冬は(実際は日本の冬とさほど変わらないのだが)読んでいるとこちらの手もかじかむ感覚に陥るほど。
10代、20代の方は、等身大の女の子の友人や恋人との会話を楽しんで。30代以降の方は青く若い日々に思いを馳せて。
Open Water / Caleb Azumah Nelson
「恋をするのは夏に限る、パーティーの後に一緒に歩いたり、屋外でゆっくりと時間を過ごしたりできるから」と思っていた「きみ」が美しい女性と出会い、恋に落ちたのは冬のできごとだった。引力が存在しているかのように引き寄せられ、どうしてもそばにいたいと強く思うのに、なんと彼女は友人の恋人で……。
若い2人の恋物語は、背景が冬だからこそ熱が感じられる。本作家のデビュー作。
ELLEが選ぶこの冬読みたい小説
も素敵なものばかりだったので、リンクを貼ります。
春と夏と秋のリストはこちらです。
春はすぐそこ。みなさま、happy reading!