トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

今時珍しい「大人」向けの物語: The Only Story ジュリアン・バーンズ

もうすぐ今年のブッカー賞ロングリストの発表、ということで、候補になりそうな作品をなんとなく読んでいる今日この頃。 まずはこちら。ジュリアン・バーンズの待望の新作。王道のラブストーリーである。 The Only Story 作者: Julian Barnes 出版社/メーカ…

生まれるべきか、生まれざるべきか。それが問題だ: 『憂鬱な10ヶ月』 イアン・マキューアン

『波 6月号』の小山田浩子さんによる書評がとても面白かったので、発売日に購入したマキューアンの最新作。ようやく読む時間がとれた。 憂鬱な10か月 (新潮クレスト・ブックス) 作者: イアンマキューアン,Ian McEwan,村松潔 出版社/メーカー: 新潮社 発売日:…

7月最後の日曜日には、この本を読もう: 『レクイエム』と『ポルトガルの海』

7月が来るといつも読み返したくなる、タブッキの『レクイエム』。なぜかタブッキの作品は全て夏に読むのにぴったりな気がするのだけれど、その中でも特にこの小説は夏にこそ読みたい。ポルトガルの詩人フェルナンド・ペソアを心底敬愛し、研究しつくしたタブ…

支離滅裂でめちゃくちゃ、なのにとんでもなく面白い: Yo Era una Mujer Casada セサル・アイラ

[わたしは既婚女性だった] セサル・アイラの『わたしの物語』を読んだ時、巻末の訳者あとがきにYo Era una Mujer Casadaの紹介があったので、気になりKindleで購入して(たったの457円、Kindleだとかなりお買い得)読んだ。 ラテンアメリカ文学の中でも特に…

『夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』 カズオ・イシグロ

これも、『わたしたちが孤児だったころ』とともに読み返した一冊。 イシグロ唯一の短編集で、注目すべきは「短編集を書くと決意して書かれた」作品ということ。フィッツジェラルドのように金を稼ぐため書き散らしたわけでもなければ(既にブッカー賞を受賞し…

夏に何を読む?2018年サマー・リーディング・リスト色々

Twitterを眺めていると、そろそろ各誌や著名人の2018年Beach Readsやサマー・リーディング・リストが出揃いつつあるようなので、まとめてみた。 皆様、夏休みの計画はもう立てていますか?旅行に行く方も、おうちで過ごす方も、リラックス時間のお供にどうぞ…

The Year of The Flood(マッドアダム・シリーズ) マーガレット・アトウッド

(洪水の年) MaddAddam(マッドアダム)シリーズ第二作目の"The Year of The Flood"を読んだ。 もう、傑作!後を引く面白さ。 The Year Of The Flood 作者: Margaret Atwood 出版社/メーカー: Virago Press Ltd 発売日: 2013/08/20 メディア: ペーパーバッ…

『わたしたちが孤児だったころ』 カズオ・イシグロ

最近『わたしたちが孤児だったころ』を読んだばかりの母と話した。 私が読んだのはかなり前で、上海が舞台の探偵小説風小説…ということ以外思い出せず、まるで読んだことのない本のあらすじや感想を聞く気分で聞いていたのだけれど、これがとにかく面白くて…

面白うてやがて悲しき: LESS アンドリュー・ショーン・グリーア

ヴィエト・タン・ウェンに続き、ピューリッツァー賞関連をもう一つ。アンドリュー・ショーン・グリーアによるLessを読んだ。2018年のピューリッツァー賞フィクション部門受賞作。 The Pulitzer Prizes アンドリュー・ショーン・グリーアは初めて読む作家だが…

『奪われた家 / 天国の扉 動物寓話集』 フリオ・コルタサル

[Bestiario] 大阪で大きい地震がありました。本ブログは基本的に自動更新なので反応が遅く恐縮ですが、関西の皆様ご無事でしたでしょうか。 雨が続き心も晴れないですね…安全第一、気をつけてお過ごし下さい。 今日は、大好きなコルタサルの新刊が光文社文庫…

自分の死ぬ日が分かったら、どう生きる? The Immortalists, Chloe Benjamin(クロエ・ベンジャミン)

ブックカバーが素敵。 ハードカバー発売当初に購入したのだが、しっとりとしてマットな質感の黒の背景に、カバラの「生命の樹」を思わせるような1本の木が描かれていて、周りにゴールドのキラキラが煌めいていて…。語彙力不足でもどかしいけれど、なんとも素…

『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ』 アンジー・トーマス

[The Hate U Give] メンバーの投票で決定した2018年5-6月のOur Shared Shelf(エマ・ワトソン主催のブッククラブ)お題本は2冊あるのだけれど、1冊目は『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』というYA小説! そろそろ読み始めようかなと思った頃、偶然書店で日本語訳を…

The Refugees, Viet Thanh Nguyen(ヴィエト・タン・ウェン)

ピューリッツァー賞のフィクション部門受賞作は、ブッカー賞と同じくどれも読み物として面白いので注目しているのだが、2016年のヴィエト・タン・ウェン『シンパサイザー*1』は個人的に苦手なスパイ小説ということで、手が伸びなかった…。 ピューリッツァー…

イスラム文化圏の難民事情・ミーツ・村上春樹なのか: Exit West モーシン・ハミッド

2017年のブッカー賞にノミネートされていた、この小説。 読んでみたいと書いてから半年経ってしまったが、ようやく読んでみた。 Penguinのカバーも素敵。オレンジのイスラム建築のドアの向こうに西洋の都市(ロンドン)が見えるというもので、まさにこの物語…

『ビッグ・リトル・ライズ』作者も絶賛。「香港のアメリカ人」を描いた物語: The Expatriates, Janice Y. K. Lee

久しぶりに香港に滞在しています。 香港を舞台にした本を読みたいなと思い、今回選んだのはこちら。 2009年に処女作The Piano Teacherがベストセラーとなったジャニス・Y・K・リーの2作目、The Expatriates。 タイトルの通り、香港に暮らす「外国人」・「駐…

映画化が決定『ベル・ジャー / The Bell Jar』 シルヴィア・プラス

[The Bell Jar] It was a queer, sultry summer, the summer they electrocuted the Rosenbergs, and I didn’t know what I was doing in New York. それはおかしな、蒸し暑い夏だった。ローゼンバーグ夫妻の死刑が執行された夏で、私は自分がニューヨークで…

『口のなかの小鳥たち』 サマンタ・シュウェブリン

[Pájaros en la boca] 最近ラテアメ文学の再読ばかりしていて気がついた。邦訳されているイスパノアメリカ文学は圧倒的に男性作家ばかりだなと。 もちろんラテンアメリカには男性作家しかいないのかというとそんなわけはなく、大学の頃授業で学んだ作品は男…

『アメリカにいる、きみ』 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ

[Collected Stories] 著書が全て日本語に翻訳されている大人気作家チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ。 こちらは2007年に出版されているので、邦訳第1作目のはず。 アディーチェの翻訳をすべて手がけているくぼたのぞみさんが、こちらも翻訳している。その…

タイトルや表紙に騙されることなかれ: 『わたしの物語』 セサル・アイラ

[Como Me Hice Monja] セサル・アイラの『わたしの物語』は、読者が裏切られ続ける物語。 とにかくやられた感がすごいのだ。 わたしの物語 (創造するラテンアメリカ) 作者: セサル・アイラ,柳原孝敦 出版社/メーカー: 松籟社 発売日: 2012/07/27 メディア: …

雨の日に読みたい海外文学 9冊

先日、しとしとと一日中雨が降る日に『情事の終り』を再読した。 ロンドンを舞台にしたこの物語、最初の場面は主人公モーリスがかつての不倫相手の夫と偶然出会うところから始まる。 その夜は激しい雨が降っている。心の芯まで冷え込んでしまうような雨だ。…

『シルヴィ』 ジェラール・ド・ネルヴァル

[Sylvie]『シルヴィ』を読んだ。 プルーストが『失われた時を求めて』を書くきっかけになった小説とどこかで読んで以来、読みたかったのだ。 火の娘たち (ちくま文庫) 作者: ジェラール・ドネルヴァル,G´erard de Nerval,中村真一郎,入沢康夫 出版社/メーカ…

『通話』 ロベルト・ボラーニョ

[Llamadas Telefónicas] ボラーニョの短編集『通話』を読んだ。 昔売っていたものと若干表紙が変わったなと思ったら、改訳バージョンらしい。 2009年に出たものが改訳されて2014年に再発売なんて、売れに売れているのだろうな。収録されているのは全部で14作…

『島とクジラと女をめぐる断片』 アントニオ・タブッキ

[Donna di Porto Pim]真夏日が続いている。 こんなに暑くなると、なんだかタブッキが読みたくなりますねえ。 イタリアの作家と言えばタブッキとカルヴィーノが頭に浮かぶのだけれど、タブッキは夏、カルヴィーノは冬を連想させる作家(個人的に)なのが面白…

『燃える平原』 フアン・ルルフォ

[El Llano en Llamas] とても久しぶりに『燃える平原』を再読した。日本語で読むのは初めて。 絶版になっている水声社の単行本を買おうかなどうしようかな、と考えていた時に岩波文庫として出版されるというニュースを聞いたので5月まで楽しみに待っていたの…

2018年のブッカー国際賞はオルガ・トカルチュクの『逃亡派』

イギリスの5月22日、日本時間の昨夜発表になったブッカー国際賞。 受賞したのはオルガ・トカルチュクの『逃亡派』。翻訳者はジェニファー・クロフト(Jennifer Croft)。ポーランド人作家として初めての受賞となる。 ノミネート作品の中では唯一邦訳が出版済…

Penguin Booksの新しいシリーズPenguin Modernが可愛い

先日久しぶりに神保町パトロールをして、仕上げの三省堂で見つけたPenguin Booksの新シリーズ(2018年発売)。 文庫サイズの可愛いPenguin Modernです。薄い青緑のカバーも美しくて思わずジャケ買い。シールもしくはブックマークのおまけつき。 三省堂には10…

不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か?『菜食主義者』とThe Vegetarianを読んでみた

[채식주의자] 不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か? みなさんはどちらがお好みですか? もちろん、翻訳の話です。 上記はロシア語の同時通訳者だった米原万里の著書のタイトルで、「美しいけれども原文からはかけ離れた文章(美女)をとるか、原文に忠実だが…

『語るボルヘス』 ホルヘ・ルイス・ボルヘス

[Borges, Oral] 『ボルヘス、オラル』が昨年岩波で文庫化されていた。 1978年の5月から6月にかけて、ブエノスアイレスのベルグラーノ大学(Universidad de Belgrano)にて行われた5回にわたる講演記録である。 語るボルヘス――書物・不死性・時間ほか (岩波文…

『継母礼賛』 マリオ・バルガス=リョサ

[Elogio de la Madrastra] マリオ・バルガス=リョサの作品は大きく2つに分けられる。私は心の中でこっそり「社会派リョサ」、「エロリョサ」と呼び分けている。 社会派リョサは『都会と犬ども』、『緑の家』、『密林の語り部』などノーベル文学賞が「権力構…

ボリス・パステルナークの『ドクトル・ジバゴ / Doctor Zhivago』が宝塚にぴったりな理由

I also think that Russia is destined to become the first realm of socialism since the existence of the world. When that happens, it will stun us for a long time, and, coming to our senses, we will no longer get back the memory we have lost.…