トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

洋書レビュー

Autumn / アリ・スミス: 本が好きな人にはたまらない1冊

(秋) 日本語訳が発売されたばかりの『両方になる』も読みたいけれど、せっかく秋なので、こちらを。昨年のブッカー賞ショート・リストにノミネートされていた作品だ。 アリ・スミスはこの作品を皮切りにWinter、Spring(2019年3月発売予定)と、四季をタイ…

Motherhood / シェイラ・ヘティ: 産むの? 産まないの? どうする私

2018年のギラー賞(受賞作品の発表は11月19日!)にノミネートされていて、読みたくなったシェイラ・ヘティのMotherhood。一風変わったユーモラスな語り口が心地よくて、これまた数多の積ん読を差し置いて、一晩で読んでしまった。 2018年のギラー賞ショート…

Florida / ローレン・グロフ

(丸い地球の幻想上の四隅) [Updated: 2020-12-13] 2021年に日本語訳が出版されるようです。表題作となっているのは、原書では2つ目に収録されている、蛇にまつわるお話みたい。翻訳者は『運命と復讐』の光野多惠子さん。楽しみです! 丸い地球の幻想上の四…

French Exit / パトリック・デウィット: 全てを失った大富豪未亡人はパリへ

表紙に一目惚れして(下記Amazonリンクに表示されている方ではなくて、白地にタイトルと著者名が赤と青で印刷されていて、むっとした表情の一家のイラストが描いてある方。かわいい……)購入。今年度のギラー賞にもノミネートされているパトリック・デウィッ…

Girls Burn Brighter / Shobha Rao

(女の子は明るく燃える) 7歳の時インドからアメリカに移住したという新人作家Shobha Rao初の長編小説。タイトルに惹かれて購入。 Girls Burn Brighter 作者: Shobha Rao 出版社/メーカー: Flatiron Books 発売日: 2019/03/05 メディア: ペーパーバック こ…

MaddAddam(マッドアダム・シリーズ)/ マーガレット・アトウッド

(マッドアダム) 近未来を描いたディストピア、アトウッドの「マッドアダム・シリーズ」完結編。 MaddAddam 作者: Margaret Atwood 出版社/メーカー: Virago Press Ltd 発売日: 2014/08/07 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る Paramount …

Roman Fever(ローマ熱)/ イーディス・ウォートン

(ローマ熱) “I was just thinking,” she said slowly, “what different things Rome stands for to each generation of travelers. To our grandmothers, Roman fever; to our mothers, sentimental dangers—how we used to be guarded!—to our daughters,…

Warlight / マイケル・オンダーチェ

(戦下の淡き光) *日本語訳が2019年に発売に。 戦下の淡き光 作者:マイケル・オンダーチェ 発売日: 2019/09/13 メディア: 単行本 5月に発売された、オンダーチェの最新作。即購入し読み始めて、そうこうしている間にブッカー賞ロングリストにノミネートされ…

Washington Black / Esi Edugyan(エシ・エデュジアン)

(ワシントン・ブラック) *日本語訳が出版されたので、作者名を更新しました。 ワシントン・ブラック 作者:エシ・エデュジアン 発売日: 2020/09/25 メディア: 単行本 2018年ブッカー賞のショートリストに残ったWashington Black。一言で言うと、「楽しい時…

Milkman / アンナ・バーンズ

(ミルクマン) [Updated: 2020-12-09] 日本語訳が発売されています! 翻訳は栩木玲子さん。ジョイス・キャロル・オーツやトマス・ピンチョンを訳されている翻訳家さんです。 ミルクマン 作者:バーンズ,アンナ 発売日: 2020/12/01 メディア: 単行本 今年のブ…

Sabrina / ニック・ドルナソ

(サブリナ) ブッカー賞ロングリスト入りして、「おっ!」と思ったのはこの作品。グラフィックノベルがブッカー賞にノミネートされる日が来るなんて、誰が想像しただろうか。 Sabrina 作者: Nick Drnaso 出版社/メーカー: Drawn & Quarterly Pubns 発売日: …

The Water Cure / ソフィー・マッキントッシュ

2018年のブッカー賞ロングリストにはディストピア小説が複数ノミネートされていて、興味を持ったのがこちら。ジャンルでいうとフェミニスト・ディストピアで、『侍女の物語』やHot Milkのファンには特におすすめという書評をいくつも見かけた。 The Water Cu…

Milk and Honey / ルピ・クーア

(ミルクとはちみつ) ルピ・クーア(日本語表記はカウルとされていることもある。英語での発音は"core"に近い感じ)のことを知ったきっかけは、彼女がインスタグラムにあげた写真だった。 2015年に投稿された、「服に経血のしみがついた女性の後ろ姿」の写…

Circe / マデリン・ミラー: ギリシャ神話から生まれたフェミニズム小説

(キルケ) *日本語訳が出版に。 キルケ 作者:マデリン・ミラー 発売日: 2021/04/30 メディア: 単行本 When I was born, the name for what I was did not exist. They called me nymph, assuming I would be like my mother and aunts and thousand cousins…

The Only Story / ジュリアン・バーンズ: 今時珍しい「大人」向けの物語

もうすぐ今年のブッカー賞ロングリストの発表、ということで、候補になりそうな作品をなんとなく読んでいる今日この頃。 まずはこちら。ジュリアン・バーンズの待望の新作。王道のラブストーリーである。 The Only Story 作者: Julian Barnes 出版社/メーカ…

The Year of The Flood『洪水の年』(マッドアダム・シリーズ) / マーガレット・アトウッド

(洪水の年) *2018年9月22日、岩波書店から日本語訳が発売されるそうです。 洪水の年(上) 作者: マーガレット・アトウッド,佐藤アヤ子 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2018/09/22 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 洪水の年(下) 作者: マー…

LESS(レス) / アンドリュー・ショーン・グリア: 面白うてやがて悲しき

(レス) ヴィエト・タン・ウェンに続き、ピューリッツァー賞関連をもう一つ。アンドリュー・ショーン・グリアによるLessを読んだ。2018年のピューリッツァー賞フィクション部門受賞作。 The Pulitzer Prizes アンドリュー・ショーン・グリアは初めて読む作…

The Immortalists / Chloe Benjamin(クロエ・ベンジャミン): 自分の死ぬ日が分かったら、どう生きる?

(不滅の子どもたち) [Updated: 2021-03-29] 日本語訳が出版されるようです。 不滅の子どもたち 作者:クロエ・ベンジャミン,鈴木 潤 発売日: 2021/04/26 メディア: 単行本 装丁が素敵。 ハードカバー発売当初に購入したのだが、しっとりとしてマットな質感…

The Refugees / Viet Thanh Nguyen(ヴィエト・タン・ウェン)

ピューリッツァー賞のフィクション部門受賞作は、ブッカー賞と同じくどれも読み物として面白いので注目しているのだが、2016年のヴィエト・タン・ウェン『シンパサイザー*1』は個人的に苦手なスパイ小説ということで、手が伸びなかった。 ピューリッツァー賞…

Exit West / モーシン・ハミッド: イスラム文化圏の難民事情・ミーツ・村上春樹なのか

(西への出口) 2017年のブッカー賞にノミネートされていた、この小説。 読んでみたいと書いてから半年経ってしまったが、ようやく読んだ。Penguinのカバーも素敵。オレンジのイスラム建築のドアの向こうに西洋の都市(ロンドン)が見えるというもので、まさ…

The Expatriates / Janice Y. K. Lee: 『ビッグ・リトル・ライズ』作者も絶賛。「香港のアメリカ人」を描いた物語

久しぶりに香港に滞在している。香港を舞台にした本を読みたいなと思い、今回選んだのはこちら。2009年にデビュー作The Piano Teacherがベストセラーとなったジャニス・Y・K・リーの2作目、The Expatriates。タイトルの通り、香港に暮らす「外国人」・「駐在…

『ベル・ジャー / The Bell Jar』 シルヴィア・プラス: 映画化が決定

[The Bell Jar] It was a queer, sultry summer, the summer they electrocuted the Rosenbergs, and I didn’t know what I was doing in New York. 10代の頃の自分の読書ログを眺めていたら、The Bell Jarについて「ここ数年読んだ本の中で一番好き」とだけ…

Penguin Booksの新しいシリーズPenguin Modernが可愛い

先日久しぶりに神保町パトロールをして、仕上げの三省堂で見つけたPenguin Booksの新シリーズ(2018年発売)。 文庫サイズの可愛いPenguin Modernです。薄い青緑のカバーも美しくて思わずジャケ買い。シールもしくはブックマークのおまけつき。 三省堂には10…

ボリス・パステルナークの『ドクトル・ジバゴ / Doctor Zhivago』が宝塚にぴったりな理由

[Доктор Живаго] I also think that Russia is destined to become the first realm of socialism since the existence of the world. When that happens, it will stun us for a long time, and, coming to our senses, we will no longer get back the mem…

Anything is Possible / エリザベス・ストラウト

[何があってもおかしくない] 発売日: 2017年5月4日 ペーパーバック版の発売を待って読み始めたエリザベス・ストラウトの最新作。 むさぼるように読んでしまった。 舞台は前作『私の名前はルーシー・バートン』の主人公ルーシー・バートンの故郷、イリノイ…

Red Clocks / Leni Zumas: フェミニストSF小説の勢いが止まらない

発売日: 2018年1月16日(レニ・ズーマス) アメリカ・オレゴン州を舞台としたフェミニスト・ディストピア小説である。本小説におけるアメリカでは、"Personhood Amendment"が施行されている。これはいわゆる「中絶禁止法」で、受精卵にも生きる権利があると…

The Gunners / Rebecca Kauffman: 自殺した幼馴染が抱えていた秘密とは

発売日: 2018年3月15日 Rebecca Kauffman(レベッカ・カウフマン)の第2作目、The Gunnersを読んだ。 The Gunners: A Novel 作者: Rebecca Kauffman 出版社/メーカー: Counterpoint 発売日: 2018/03/15 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る Esqui…

Hunger / ロクサーヌ・ゲイ、そして『スイート・ヴァレー・ツイン』のこと

9-10月の"Our Shared Shelf*1"のお題本はこちら。 ロクサーヌ・ゲイの新作 Hunger: A Memoir of (My) Body 。 Hunger: A Memoir of (My) Body (English Edition) 作者: Roxane Gay 出版社/メーカー: Corsair 発売日: 2017/06/13 メディア: Kindle版 この商品…

Hag-Seed / マーガレット・アトウッド: 現代におけるシェイクスピア

*日本語訳が出版されています。 『獄中シェイクスピア劇団(語りなおしシェイクスピア1 テンペスト)』鴻巣友季子訳 語りなおしシェイクスピア 1 テンペスト 獄中シェイクスピア劇団 (語りなおしシェイクスピア テンペスト) 作者:マーガレット・アトウッド,…

Rich People Problems / Kevin Kwan: クレイジーリッチな中国系シンガポール人物語最終章

Crazy Rich Asians*1、China Rich Girlfriend*2に続く、Kevin Kwan(ケヴィン・クワン)による大金持ち・中国系一族シリーズ第3作目! クレイジー・リッチ!(字幕版) 発売日: 2018/11/16 メディア: Prime Video この商品を含むブログを見る 1作目のCrazy Ric…