トーキョーブックガール

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French Exit / パトリック・デウィット: 全てを失った大富豪未亡人はパリへ

 表紙に一目惚れして(下記Amazonリンクに表示されている方ではなくて、白地にタイトルと著者名が赤と青で印刷されていて、むっとした表情の一家のイラストが描いてある方。かわいい……)購入。今年度のギラー賞にもノミネートされているパトリック・デウィットの最新作。

2018年のギラー賞ショート・リスト - トーキョーブックガール

French Exit

French Exit

 

 デウィットは初読なのだが、既存のジャンルに一捻り加えた新しい解釈の作品を提示するような作家らしい*1。たとえばブッカー賞にノミネートされた『シスターズ・ブラザーズ』は西部劇のスラップスティック版で、Undermajordomo Minorはお城や騎士、怪盗なんかが出てくる昔話に皮肉が効いた感じの小説なのだとか。

 French Exitは大富豪だったが没落しつつある、機能不全の家族を描いた小説で、悲劇を皮肉やウィットに富んだ語り口で小気味よく味付けしてある感じ。ユーモアが効いた小説が読みたくなっていたので、この出会いに感謝。

 主人公はニューヨークのアッパー・イースト・サイドに暮らす65歳の美しき未亡人フランシス(Frances)。夫を亡くして早20年、未だに実家を離れず無職という、うだつのあがらない32歳の息子マルコム(Malcom)と、亡き夫の魂が乗り移った猫リトル・フランク(Little Frank)と暮らしている。

 フランシスは由緒正しき家の出身で、夫もアメリカでも有数の富を蓄えた敏腕弁護士だった。だが、とんでもない浪費家ということもあり(夫が悪巧みをして儲けたお金を全て使ってしまえとばかりに浪費し続ける)、夫の死後、ついに一文無しの状態になってしまう。お金を使い果たす前にころりと死んでしまうつもりだったフランシスは動揺するのだが、ニューヨーク社交界でのゴシップから逃れるためにも、幼馴染のジョアン(Joan)の提案で彼女がパリに所有するアパルトマンに引っ越すことにする。

 ところがパリでのある日、フランシスが口にした言葉にショックを受けたリトル・フランクが家出をしてしまい、フランシスとマルコムは周りの人を巻き込んで捜索に乗り出す……。

 

 コメディの仮面をかぶった悲劇なのか、悲劇の仮面をかぶったコメディなのか。なんといっても皮肉の効いた会話や、映画のように登場人物が思い描ける描写が美しく、知的かつシュールで笑える。

 特にフランシスはその類まれなる美貌と家柄で小さい頃からちやほやされてきた社交界の華なのだが、「ちょっと風変わり」で、とんでもない毒舌家である。

 ニューヨークでは、自宅で死んでいる夫を発見した後も警察を呼ぶことなく、死体を放置したまま平然とスキー旅行に行ってしまったという逸話で知られている。

 息子マルコムのガールフレンド・スーザン(Suzan)のことは

・帽子をかぶったままランチをとろうとした

・夏でもないのにガスパチョを頼んだ

という理由から忌み嫌い、話そうともしない。

 パリでは、なかなかお会計を持ってこようとしないカフェのギャルソンにいらっとし、なんとテーブルの近くに飾ってある花に香水をふりかけライターで点火してしまう(!)。慌てて火消しにやってきたギャルソンに向かってクールに「L'addition, sil vous plaît」とやるのだ。

 でも成金と見下されていたジョアンの優しさには誰より早く気づき親友になるし、パリで出会う家柄的には格下のマダム・レイナール(Mme. Reynard)にも心を開き、自身の葛藤を打ち明ける。という、型通りなようでいて型にはまらない人。

 ぼへーっとしていてオツムが足らず、感情の機微が乏しいマルコムも、猫なのに前世というかフランクという男性だった頃を覚えていてイタコ的な占い師とは会話できるリトル・フランクも(猫になっても変わらず怒りん坊)、やたらとキャラが立っていて、誰一人として共感できる人物などいやしないのだが、何故かそれが面白く、読ませる。

 そして、面白い、のだけれど「面白うてやがて悲しき」なのだ。

 

 ついつい映画化されるなら……と妄想してしまう。

 個人的にはフランシスはシャロン・ストーン一択。

 マルコムは『ゴシップ・ガール』のチャックの頭をめちゃくちゃ鈍くして太らせた感じの30代の俳優さん、いないかな。ジャック・ブラックでも面白いけど、ちょっとやりすぎかもしれない。

 占い師のマデリーン(Madeleine)はレベル・ウィルソンとか。

 

 これを読んでからというもの、デウィットのことをもっとよく知りたい病にかかってしまい(ブリティッシュ・コロンビア出身で今はオレゴンのポートランド在住なんて、なんだかオシャレ感漂っている)、インタビューを探してみたらどれもデウィットの答えることがつかみどころがなくて、インタビュアーが何を聞いたらいいのか悩んでいるのが手にとって感じられるようなものばかりだったのは、私の気のせい? それでもガーディアンのものが面白かったのでリンクをこちらに。"In unhappy times, the healthiest thing is to turn to humour"っていいですね。

Patrick deWitt: ‘In unhappy times, the healthiest thing is to turn to humour’ | Books | The Guardian

 『シスターズ・ブラザーズ』など日本語訳も出ているので、こちらも読んでみたい。 

シスターズ・ブラザーズ (創元推理文庫)

シスターズ・ブラザーズ (創元推理文庫)

 
みんなバーに帰る

みんなバーに帰る

 

 

 「面白うてやがて悲しき」といえば、初夏に読んだLESSもそんな感じだった。

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