トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

The Immortalists / Chloe Benjamin(クロエ・ベンジャミン): 自分の死ぬ日が分かったら、どう生きる?

(不滅の子どもたち)

[Updated: 2021-03-29]

日本語訳が出版されるようです。

不滅の子どもたち

不滅の子どもたち

 

 

 装丁が素敵。

 ハードカバー発売当初に購入したのだが、しっとりとしてマットな質感の黒の背景に、カバラの「生命の樹」を思わせるような1本の木が描かれていて、周りにゴールドのキラキラが煌めいていて……。語彙力不足でもどかしいけれど、なんとも素敵なのです。

IMMORTALISTS, THE (MR-EXP)

IMMORTALISTS, THE (MR-EXP)

 

 これはクロエ・ベンジャミンという若干28歳の作家による2作目の小説。

 ニューヨークで生まれ育ったゴールド家の4人の兄弟姉妹の人生が描かれる。4人はまだ子供の頃に、近所で「人の死ぬ日を当てることができる」と評判だった女性の元を訪れ、それぞれが死ぬ日を告げられる。

 ユダヤ系の家庭で仲良く育った4人は、10代になると別々の土地で自身の運命を生き始める。だが、占い師に告げられた日にちは各々の頭を離れることはない。

 自分がゲイであることを自覚している1番末の弟サイモン(Simon)は、16歳という若さで家出しサンフランシスコへ向かう。そして自由な土地でゲイクラブのダンサーとして生活を始め、ロバート(Robert)という年上の男性と愛し合うようになる。

 その上の姉クララ(Klara)はマジシャンになりたいという夢を叶えるため、ラスベガスでインド系の夫とともにショーを始める。が、自分が望んでいた人生はこれではないという気持ちや死ぬと告げられた日が近づいてくる恐怖からか、アルコール中毒になってしまう。

 ダニエル(Daniel)は大学を順当に卒業・長年の恋人とも結婚し、軍医として勤務していたのだが、自分たち兄弟姉妹が疎遠になったのは(弟妹が死んだのも)占い師のせいだと考え、彼女の居場所を突き止めることに執着しはじめる。

 一番上の姉ヴァーヤ(Varya)は科学者となり、寿命延長についての研究にいそしんでいる。大学院時代に教授と恋仲になったことがあるくらいで、人との関わりはほとんどなくひっそりと一人で暮らしている。

 

 という4人の人生が1980年代から2000年代までを通して描かれる。

 それぞれの描写も美しいことはもちろんだが、時代背景を非常に上手くストーリーに絡めてあると感じた。

 例えば、サイモンがサンフランシスコへ引っ越してしばらく経った1980年代にAIDS感染者が急増し、まだ謎が解明されていなかったその病気は"gay cancer"と恐れられるようになったということ。

 ダニエルの家にThanksgivingを祝うため訪れるクララの元夫ラージ(Raj)とクララの娘ルビー(Ruby)は、ジークフリード&ロイのロイがホワイトタイガーに噛みつかれショーに出演できなくなったため(実際にあった事件)、穴埋めとしてマジックショーをすることとなり大成功したという設定。16歳のルビーが着用しているジューシークチュールのトラックスーツにUGGのブーツなんて、2006年当時ハイティーンのど真ん中流行ファッション。

 ヴァーヤが携わっている「カロリー摂取を抑えると猿の寿命は伸びるか」という実験も、2009年にウィスコンシン大学で発表された研究を彷彿とさせる。

 この効果で、登場人物たちが非常に身近に、現代もしくは近代に生きる人間として感じられる。

 

 読み終わって思い出したのは、「余命が分かったら、何をする?」という質問。

 占い師でなくても、病気で余命宣告されたとする。その余命が3カ月だったら、半年だったら、それとも5年・10年だったら……それぞれやりたいと思うことは違ってくると思うのだ。

 個人的には、あまり時間が残されていないのであれば日常生活の範囲で大好きな人に囲まれて、自分の好きなことを思うがままにやりたいと思う。半年や1年ほどであれば、旅行に行ったり非日常を楽しみたい。もう少し猶予があるのであれば、嫌なことも含めて普段通りの生活を送りたいかもしれない。

 そういう、残された時間の長さを反映したそれぞれの生き方を描いているのだが、4人が4人とも、あまりに辛そうだ。それぞれの人生にあまりに愛が乏しく、幸せを感じる瞬間がほとんど描かれていない気がする。結局、自分の寿命が分からないからこそ人間は幸せに生きられるのかもしれませんね。

 

 本作品は出版前から既にTVシリーズ化の話があった様子。アメリカの東西どちらも登場するので、映像化するば面白いと思う。

deadline.com

 

保存保存

保存保存保存保存

保存保存保存保存保存保存保存保存

保存保存