トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

Girls Burn Brighter / Shobha Rao

(女の子は明るく燃える)

 7歳の時インドからアメリカに移住したという新人作家Shobha Rao初の長編小説。タイトルに惹かれて購入。 

Girls Burn Brighter

Girls Burn Brighter

 

 舞台はインド、インドラバリ(Indravalli)という村だ。地図で見る限り、IT業界者にはなじみ深いバンガロールにほど近い。ここで生まれ育った2人の少女の人生が、それぞれの視点から語られる。

 1人はプルミナ(Poormina)。貧しい家庭出身で、その名の由来は「満月」らしいのだが、「なぜプルミナという名前をつけたの?」と尋ねると、父親はこう答える。「お前をプルミナと名づければ、次は男の子が生まれると占い師に言われたからだ」なんとも切なく、女の子の立場の低さを読者に実感させるエピソードではないか。

 16歳になり、プルミナにもお見合いの話が持ち上がる。しかし最初のお見合いでは「歌を歌ってみせろ」という花婿候補の両親からの言葉にプルミナが「歌えません」と返したことで反抗的な娘だとみられ話は立ち消えに。当然父親にも厳しく叱責される。その後持参金を積むことで(インドでは結婚する際、花嫁の実家が持参金を花婿の実家に支払うことになっている。1961年に禁止法が施行されたにもかかわらず、この慣習は今でも廃れていない。持参金を払いきれない女性を夫や義実家が焼き殺すという事件も多発している)どうにか都会の大学出の男性と結婚するのだが、夫や夫の家族からは「田舎者で手癖が悪く、不器量な嫁」と罵られ暴力をふるわれる。

 もう1人はサヴィ(Savitha)。サヴィタの家はプルミナの家より数段貧しく、サヴィタが結婚できる見込みは全くないほど。しかし愛情を持って育ててくれた父や妹たちとの絆は強く、精神的にはプルミナより満ち足りている。サヴィタは、プルミナの家に仕事をしに来ている。チャルカで綿糸を紡ぐのだ。2人は年が近いこともあり、あっという間に仲良くなり、お互いなしでは生きていけないと思うようにまでなる。しかしプルミナの結婚が決まった頃、サヴィタがプルミナの父にレイプされるという事件が起こる。村全体で解決策を話し合った結果、サヴィタが持参金なしでプルミナの父に嫁ぐべしという結論が下された。断固拒否するサヴィタはこっそりと家出し、都会をさまよった挙句、騙されて娼館で働くようになる。

 いつの時代の話だと思う方もいるかもしれないが、舞台となっているのは2001年以降の数年間で、現代でもインドの田舎の方ではミソジニー・一般女性の商品化が当たり前のこととしてまかり通っているという現実を教えてくれる小説だ。

 バンガロールなどの都会では、男性と同等の教育を受け、留学し、英語を話し、外資系の会社に就職し、恋愛結婚している女性が多く存在することを考えればカースト制から生じた貧富の差はあまりにも大きく、残酷な影響を2人に与えている。

 そのタイトルの通り、プルミナとサヴィタは燃やされ続け、燃え続ける。周りの人からの嫉妬や憎悪に焼かれ、見下され、レイプされ、暴力をふるわれる。片腕を失くし、顔に火傷を負って、物理的にも精神的にも燃えるような痛みを体験する。

 それでも2人はお互いに会いたいという一心で命をつなぐ。人生でたった1人だけ、自分の全てを受け入れ、理解し、愛してくれた人に会うために。お互いの存在だけが心の中の灯火となって、未来を照らしてくれる。その光だけを頼りに2人はどちらも海を越え、想像もつかないような場所まで行くことになるのだ。

 

 この「炎」の他にも印象的なエピソードが2つあった。

 1つはプルミナのような貧しい家庭における食事の描写で、何度も登場し、プルミナとサヴィタの友情を紡ぐバナナ。彼女たちはヨーグルトとライスを昼食や夕食によく食べているのだが、その際「塩はいる?」と尋ねるプルミナにサヴィタはこう答える。「甘いほうがいい。ヨーグルトライスは、バナナと一緒に食べるのが好きなの。バナナをつぶして、ライスと混ぜるの。すごく甘くて、綺麗な日の出みたいな味がする」と。サヴィタは結構詩的なのですね。「おえ〜」という顔をするプルミナだが、その不思議な食べ方は忘れがたく、後日サヴィタを喜ばせるためにバナナを買い置きするようになる。生き別れた後も、このバナナの食べ方がきっかけでサヴィタの行方が分かったりするのだ。

 後にアメリカに渡ったサヴィタは新しいバナナの食し方と出会う。バナナを縦に切って、アイスクリームやホイップクリームを盛り付けたバナナ・スプリットだ。

It was the best thing she'd ever tasted. Was it better than banana with yogurt rice? No, but it was more extravagant. it was hard to even think about both of them together. Yogurt rice with a banana was like life, simple, straightforward, with a beginning and an end, while the other—the banana split—was like death, complex, infused with a kind of mystery that was beyond Savitha's comprehension, and every bite, like death, dumbfounding.

 インドとアメリカ、ヨーグルトライスと食べるバナナとバナナ・スプリット。新しい国で出会う見知らぬ顔のバナナ。読んでいても、ずいぶん遠くまで来たものだとため息をついてしまう。

 そしてもう1つは、綿。プルミナとサヴィタはチャルカの前に座り綿花を紡ぎ、綿糸を作り、それは布と形を変えていく。そしてその布がお金に変わったり、食べ物に変わったりしていく様子が丁寧に描写される。サヴィタがプルミナの結婚祝いに紡ぐ青いサリーは最後まで完成しないものの、ずっとサヴィタとともに旅をする。そして彼女が娼館にたどり着き男たちに体を売るようになっても、その苦しみを和らげてくれるのはベッドに敷いてある綿のシーツであり、その感触や匂いが彼女の命を救うのだ。

 

 最後は少し都合が良すぎかなという感じがしなくもないが、気の滅入る描写が続いた後の希望の光は正直ありがたい。そう、最後の章までは少女たちは虐げられる一方で救いようがないので、読書の際はビタミンDをたくさん摂取&しっかり運動して、鬱にならないように気をつけたほうがいいと思う……。アンデルソン=インベルの「魔法の書」を読む主人公並みに準備を整えてからでないと、最後のページまで辿りつけなさそうだ。

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