トーキョーブックガール

海外文学・世界文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

The Friend / シークリット・ヌーネス

今年の全米図書賞受賞作品(フィクション部門)。

長年の友人が自殺した。残された妻(三人目の妻である)と会うと、犬を引き取ってほしいとお願いされる。もともと友人が拾ってきた犬で、犬好きでない妻は世話をしきれないのだという。それも、ただの犬ではない。

グレート・デーンなのだ。

優しい巨人・the "Apollo" of all dogs(犬の中のアポロン)として知られる、とにかく大きい犬種である。 

映画の『山猫』では、19世紀のシチリアの貴族の家で飼われている黒いグレート・デーンが印象的だったのを思い出す。とにかく大きいので、こういう辺りの山一帯を庭のようにしている豪邸でないと一緒に暮らすのは難しいだろうなと感じたことを思い出す。

あなたならどうしますか?

The Friend: A Novel (English Edition)

The Friend: A Novel (English Edition)

 

悩める語り手と一緒に考え込んでしまった私。

いや〜、これは大変だ。

もちろん犬は大好きだから引き取りたいけれど、ニューヨークや東京といった都会に住んでいる時点で運動量の多いグレート・デーンはアウト。一緒に暮らす犬の条件としては、常に「私一人で抱えて動物病院に連れて行ける(病気や事故など緊急事態の際)」を掲げているので、この点でも私より体重が重いグレート・デーンはアウト。

しかし、この犬・アポロ(Apollo)は落ち込んでいる。飼い主を失い、元の家には二度と戻れないことがよく分かっているようだ。夜鳴きをしたり、ベッドで鬱々と過ごしたり。

それほど長く生きることのない大型犬で既に齢6歳以上。平均寿命から考えると、おそらく後数年の命だろう。語り手は"cat person"であるにもかかわらず、ニューヨークではありがたいrent-controlledのアパートから追い出される覚悟で(犬禁止なのだ)一緒に暮らし始める。

 

犬のことばかり長々と書いてしまったけれど、この小説は決して犬についての小説ではない。

もう若くはない語り手が、青春時代から何十年と言う時間を共に過ごした友人を突然失い、彼のこと、そして共有していた「小説を書く」という情熱について振り返る。

大きなテーマは喪失の悲しみである。

彼はなぜ自殺を図ったのか。遺書は残されていないので、語り手ができることと言ったら、今まで友人と一緒に読み、語り合った様々な作家の言葉や小説を引用しながら彼の抱えていた苦しみを想像することだけ。それはもう、とんでもない数の作家の文章や名言が登場する。ウルフ、フローベール、キーツ、コクトー、グリム、バルザック、リルケ、ヘミングウェイ、クッツェー、ル=グウィン、クンデラ、ヴォネガット、カフカ。ジョン・アップダイクからフィリップ・ロス、ヘンリー・ジェイムズ、トニ・モリスンまで。

出版業界における問題、大学で文芸創作を教える際に感じる生徒とのジェネレーション・ギャップ、writer's block(作家が陥るスランプ)。幾たびも生徒と恋愛関係に陥っていた友人(『恥辱』が引用されるエピソードだ)。若かりし頃はそんな彼に憧れつつも、友人という立場で長年付き合いを続けるようになった語り手の思い。

全てが短いエピソードとしてこまぎれに語られ、これというプロットが存在しないところは『私の名前はルーシー・バートン』によく似ている。力強い文章と、作家および語り手の「書くこと」への思いを堪能できる作品だ。 

What are we, Apollo and I, if not two solitudes that protect and border and greet each other? It is good to have things settled. Miracle or no miracle, whatever happens, nothing is going to separate us. 

また、作家のフィクションに対する考え方という点でも、語り手と友人の会話は興味深い。議題に上がるのは作家としてのゴールが"to give people words"だが、これがフィクションによっては実現されないと信じていたスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ。

ここから始まる静かな嵐のような展開が、ヌーネスの「フィクションへの希望と情熱」を感じさせて、とてもいい。ただ最後の章の話になってしまうので、このブログにはあまり多くを書けないのが残念。

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非常にシンプルな言葉で綴られた作品で、普段は英語で読書することがあまりないが英語で読みたい、しかも(児童書やエンタメ作品ではなく)純文学が、という方にすごくおすすめ。 

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何度か登場した『恥辱』を再読したくなった。 

恥辱 (ハヤカワepi文庫)

恥辱 (ハヤカワepi文庫)

 

同じく大学教授と女子生徒の関係を描いた『服従』も、この冬読みたいと考えているところ。 

服従 (河出文庫 ウ 6-3)

服従 (河出文庫 ウ 6-3)