トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

2018年の全米図書賞(National Book Awards)

 備忘録として。

 全米図書賞はあまりチェックしたことがなく、受賞作もほとんど読んだことがないのだけれど、今年は30数年ぶりに翻訳文学部門(Translated Literature)が復活! ということで楽しみにしていた。

 11月14日に発表されたNational Book Awards 2018(全米図書賞)、それぞれの受賞作品は以下のとおり。

 

小説部門: The Friend / シーグリッド・ヌーネス

The Friend: A Novel (English Edition)

The Friend: A Novel (English Edition)

 
友だち (Shinchosha CREST BOOKS)

友だち (Shinchosha CREST BOOKS)

 

 フィクション部門を受賞したのは、シーグリッド・ヌーネスによるThe Friend。ブックカバーからも分かる通り、犬にまつわる物語。長年の友人を亡くした女性が、彼の飼っていた犬(しかもグレート・デーン)を引き取ることになった。女性は悲しみにくれた日々を過ごしているのだが、飼い主を失った犬も意気消沈していて……。

 犬好きとしては見逃せない! グレート・デーンって東京じゃなかなか見かけないですよね。時々出会うと、その肉球の大きさにびっくりする。

www.tokyobookgirl.com ちなみにヌーネスは日本語訳された作品があった。これも読んでみたい。

ミッツ―ヴァージニア・ウルフのマーモセット (フィクションの楽しみ)

ミッツ―ヴァージニア・ウルフのマーモセット (フィクションの楽しみ)

 
神の息に吹かれる羽根 (フィクションの楽しみ)

神の息に吹かれる羽根 (フィクションの楽しみ)

 

 

 その他、ショート・リストにノミネートされていた作品はこちら。

 このうち日本語で作品が読める作家はローレン・グロフ(『運命と復讐』)とレベッカ・マッカイ(『戦時の音楽』)の二人。

A Lucky Man: Stories

A Lucky Man: Stories

 
Florida

Florida

 

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Where the Dead Sit Talking (English Edition)

Where the Dead Sit Talking (English Edition)

 
The Great Believers

The Great Believers

 

 

ノンフィクション部門: The New Negro: The Life of Alain Locke / ジェフリー・C・スチュアート

The New Negro: The Life of Alain Locke (English Edition)

The New Negro: The Life of Alain Locke (English Edition)

 

 1925年にNew Negroというアフリカ系アメリカ人による作品を集めた雑誌を刊行し、黒人文学の礎を築いたことでよく知られているアラン・リロイ・ロックの人生について書かれた本。 

 

 その他、ノミネートされていた作品はこちら。

The Indian World of George Washington: The First President, the First Americans, and the Birth of the Nation

The Indian World of George Washington: The First President, the First Americans, and the Birth of the Nation

 
American Eden: David Hosack, Botany, and Medicine in the Garden of the Early Republic

American Eden: David Hosack, Botany, and Medicine in the Garden of the Early Republic

 
Heartland: a memoir of working hard and being broke in the richest country on earth

Heartland: a memoir of working hard and being broke in the richest country on earth

 
We the Corporations: How American Businesses Won Their Civil Rights

We the Corporations: How American Businesses Won Their Civil Rights

 

 

詩部門: Indecency / ジャスティン・フィリップ・リード 

Indecency

Indecency

 

 不平等、不公平、白人優位主義、抑圧された者の声など社会的なテーマをもとに描かれた作品とのこと。 

 

 その他、ノミネートされていた作品はこちら。 

Wobble (Wesleyan Poetry)

Wobble (Wesleyan Poetry)

 
American Sonnets for My Past and Future Assassin

American Sonnets for My Past and Future Assassin

 
Ghost of (Omnidawn Open)

Ghost of (Omnidawn Open)

 
Eye Level: Poems

Eye Level: Poems

 

 

翻訳文学部門: The Emissary『献灯使』/ 多和田葉子(著者)・満谷マーガレット(翻訳者)

The Emissary

The Emissary

 

 30数年ぶりに復活した翻訳文学部門! 前回は1980年代、受賞作はボードレールの『悪の華』の英訳(翻訳者:リチャード・ハワード)だったということで、なんだかものすごく歴史を感じる。

 日本では東日本大震災後の2014年に出版された、多和田葉子さんの『献灯使』。満谷マーガレットさんによる英訳The Emissaryが復活後初の翻訳文学部門受賞となった。 

 東日本大震災を彷彿とさせる大災害の後の鎖国された日本を描いたディストピア小説。私は日本語しか読んでいないけれど言葉遊びが印象的な作品だったので、どう訳されたのか気になる部分がたくさんある! 表題作のタイトルはもちろんのこと、パン屋さんのパンの名前(ドイツの都市の名前に漢字をあてている)だとか、「岩手まで(made in Iwateの意)」だとか。ぜひ英語版も読んでみたいな。

献灯使 (講談社文庫)

献灯使 (講談社文庫)

 

 

 その他、ノミネートされていた作品はこちら。

 イラン人作家によるDisorientalはリストを見て興味を持って購入した。まだ積んでいるのだけれど、これから読む予定。 

 10歳の時にイランを離れ、フランスに移住した主人公が成長し、祖国や家族の歴史を肌で感じながらも新たな生を生きようとする話。この作家のデビュー作。

Disoriental

Disoriental

 

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 Trickは、本人もイタリア語でエッセイを執筆しているジュンパ・ラヒリによって英語に翻訳されている。

Trick (English Edition)

Trick (English Edition)

 

 Flights2018年国際ブッカー賞を受賞した作品。日本語訳『逃亡派』は2014年に出版されている。

Flights

Flights

 
逃亡派 (EXLIBRIS)

逃亡派 (EXLIBRIS)

 

 Loveはノルウェイの片田舎に引っ越してきた母親と息子の物語。寒い冬のある日にそれぞれに起こったできごとが語られているそう。

Love

Love

 

 

 ちなみにロング・リストにノミネートされていたOne Part Womanも気になっていて、こちらも読む予定。インドの作家によってタミル語で書かれた作品で、インドでは空前の大ヒットを記録したそう。舞台はイギリス統治時代の南インド。どうしても子供ができない夫婦をめぐる物語。

One Part Woman (English Edition)

One Part Woman (English Edition)

 

 

翻訳文学部門のこと

 全米図書賞の翻訳文学部門は1960〜1980年代にかけて開催されていたのだが、リストを見る限り日本人作家の作品の英訳がわりと頻繁に受賞している。どんな訳なのだろう。樋口一葉以外、日本語ですら全然読んだことがない……(恥)。 

1971年 The Sound of the Mountain / 『山の音』

(川端康成著、エドワード・サイデンステッカー訳) 

The Sound of the Mountain (Penguin Modern Classics)

The Sound of the Mountain (Penguin Modern Classics)

 
山の音 (新潮文庫)

山の音 (新潮文庫)

 

 

1974年 The Confessions of Lady Nijo / 『とはずがたり』 

(後深草院二条著、カレン・ブラゼル訳)

とはずがたり (新日本古典文学大系 50)

とはずがたり (新日本古典文学大系 50)

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The Confessions of Lady Nijo

The Confessions of Lady Nijo

 

 

1982年 In the Shade of Spring Leaves / 樋口一葉の作品コレクション

 (樋口一葉著、ロバート・L・ダンリー著&訳)

 樋口一葉のバイオグラフィー、および『一葉日記』からの抜粋、九つの代表的な作品(というからには『たけくらべ』、『にごりえ』、『十三夜』、『大つごもり』などなどでしょう)を収録した作品。

In the Shade of Spring Leaves: The Life and Writings of Higuchi Ichiyo, a Woman of Letters in Meiji Japan

In the Shade of Spring Leaves: The Life and Writings of Higuchi Ichiyo, a Woman of Letters in Meiji Japan

  
にごりえ・たけくらべ (新潮文庫)

にごりえ・たけくらべ (新潮文庫)

 

 

1982年 The Ten Thousand Leaves: A Translation of Man'Yoshu, Japan's Premier Anthology of Classical Poetry / 『万葉集』

(作者不明、リービ英雄訳) 

 1982年は日本の作品二つがダブル受賞している。

The Ten Thousand Leaves, Volume I: A Translation of Man'yoshu, Japan's Premier Anthology of Classical Poetry (Princeton Library of Asian Translations)

The Ten Thousand Leaves, Volume I: A Translation of Man'yoshu, Japan's Premier Anthology of Classical Poetry (Princeton Library of Asian Translations)

 

 

児童文学部門: The Poet X / エリザベス・アセヴェド

The Poet X

The Poet X

 

 ハーレムで生まれ育った女の子Xiomaraは詩を書くことが好きで、同じクラスの男の子に片想い中だけれど、信心深い家族にそれを打ち明けることができない。ところがSlam Poetry Clubに参加することになり……。 

 

 その他、ノミネートされていた作品はこちら。

The Assassination of Brangwain Spurge

The Assassination of Brangwain Spurge

 
The Truth as Told by Mason Buttle (English Edition)

The Truth as Told by Mason Buttle (English Edition)

 
The Journey of Little Charlie (National Book Award Finalist) (English Edition)

The Journey of Little Charlie (National Book Award Finalist) (English Edition)

 
Hey, Kiddo

Hey, Kiddo

 

 

イサベル・アジェンデにMedal for Distinguished Contribution!

 大切なことを書き忘れていたので、追記(2018年11月20日)。 

 生涯を通じてアメリカ文学に貢献した人物(作家とは限らない)に送られるMedal for Distinguished Contribution、今年はイサベル・アジェンデが受賞! アジェンデはチリ出身、米国籍を取得し現在はカリフォルニア州在住。76歳になってなお精力的に作品を発表し続けるだけではなく、TEDで講演したりgoodreadsには読書の感想を書き綴ったりと、「いい物語」への愛に溢れる姿勢が素敵。インタビューや動画を見ていると、いつも明るく、よく笑い、楽しそうで……憧れの女性です。

www.tokyobookgirl.com

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 こういうリストを眺めていると、ついついあれもこれも読みたくなってしまう(嬉)。来年も楽しみですね。皆様、今週もhappy reading!