トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

イサベル・アジェンデの新作: 『日本人の恋びと』

[El Amante Japonés]

 そういえば、久しぶりにアジェンデの日本語訳が発売されていた! 原題は El Amante Japonés(英題はThe Japanese Lover)。

日本人の恋びと

日本人の恋びと

 

 最後にアジェンデの日本語訳が出たのは、『ゾロ 伝説の始まり』だろうか。これは2008年出版なので、10年ぶりということになる。

*アジェンデの『ゾロ 伝説の始まり』についてはこちら。

www.tokyobookgirl.com

 ただし、『精霊たちの家』は去年(2017年7月)文庫化されたこともあって、新しくアジェンデを読む方も増えるのではないだろうか。

*河出文庫は、『精霊たちの家』、『黄色い雨』など、素敵な海外文学の文庫化が相次いでいて嬉しい!

精霊たちの家 上 (河出文庫)

精霊たちの家 上 (河出文庫)

 
精霊たちの家 下 (河出文庫)

精霊たちの家 下 (河出文庫)

 

 アジェンデは米国人と再婚したこともあり、現在米・カリフォルニア州在住である。私は英語で読んだのだが、この最新作『日本人の恋びと』も、米・サンフランシスコを舞台とした物語。なんというか、本当に普通の米国の物語。スペイン語を話す登場人物はいない。アジェンデをラテンアメリカ文学の作家としてくくることはもう不要かな、という印象を受ける。

 一言で言うと、情熱的なロマンス。日本語版の帯には、「現代版嵐が丘」と書かれているのを本屋さんで確認した。ただ、『精霊たちの家』を読んでアジェンデを好きになった方は拍子抜けするかもしれない。『パウラ』以降のアジェンデの著書は娯楽小説の色を帯びてきているからだ。

 

 あらすじはこんな感じである。

 2010年、モルドバ出身の女の子Irinaはサンフランシスコで働き始め、老人ホームに暮らすAlma Belascoという老齢の女性と出会う。彼女はポーランド系の移民である。そして、AlmaにはどうやらIchimeiという日系人の愛人がいるようだ。毎週のようにガーデニア(クチナシ)の花束が届き、二人がやりとりした手紙もある。Almaは何も語らないのだが。

 興味を持ったIrinaは、ひょんなことから知り合ったAlmaの孫であるSethと2人で調べることにするが、実はIrina自身にも誰にも言えない秘密があって……。かなり色々と伏線があって、一筋縄ではいかない物語。現代の様子を淡々と追っているかと思えば急に過去に立ち返り、登場人物も多種多様。AlmaとIchimeiの恋を描いているかと思えば、IrinaとSethの話にもなり……と、まるで家族の話を聞いているかのような気分にさせる。

 Ichimeiに関しては、1940年代をアメリカで過ごした日系人ということで辛い歴史も語られる。私たちの知らない日本人の生き方を垣間見せてくれる小説でもある。

 

 ちなみに、アジェンデは2002年に日本語訳が出版された『パウラ、水泡なすもろき命』にて、『日本人の恋びと』の構想を練っている。

パウラ、水泡(みなわ)なすもろき命

パウラ、水泡(みなわ)なすもろき命

 

 『パウラ』は実話に基づいた物語で、まだ年の若いアジェンデの娘についての(おそらくほとんど)フィクションである。珍しい病気にかかり、急に意識を失う娘。植物状態として1年を過ごすが、意識が戻るかもしれないという望みをアジェンデは捨てない。もし彼女が起き上がることがあり、その際記憶をなくしていたら話そうとアジェンデが娘への思いや家族の歴史を綴ったものが『パウラ』である。

 アジェンデの家族や恋人への愛、人生の悩みや苦しみ、悟り、全てが、情熱とエネルギーの尻尾を持って立ち上がってくるようなお話だった。『精霊たちの家』に勝るとも劣らずの名作である。『精霊たちの家』を発表した当初は、「ガルシア=マルケスの贋作だ」などと批評されることも多々あったアジェンデだが、彼女は彼女の視点で(そしてそれはおそらくラテンアメリカに脈々と受け継がれるもので、ガルシア=マルケスの専売特許ではない)愛や歴史を表現していたのだということが、『パウラ』を読めば分かると思う。

 この中で、眠ったままの娘の助けになればと、様々な医師や祈祷師が登場する。その中の一人が日系人の鍼灸師なのだ。彼の施術に感銘を受けたアジェンデは、「いつかきっと日本人を主人公にした物語を書こう」と決意している。

 

 『パウラ』の出版から10数年。ついに書いたんだな、と感慨深い気持ちになった。娘を失った痛みはきっと癒えることはないだろう。でもいつも前を向いて、人生を楽しんでいるように見受けられるアジェンデ。彼女にはとても憧れるし、その人生に幸あり、とそっと祈りたくなる。

 日本人(日系人)が出てくる話、ということで日本語訳が出るかもしれないと期待していたのですが、出版されてよかったです! ピカソの絵を使用した表紙もとても素敵。スペイン語&英語の表紙も素敵だったんですよ。メインの色合いはティール&ホワイトと、似ているかも。 

El amante japonés: Una novela

El amante japonés: Una novela

 

 アメリカでもベストセラーに入っているのを見かけたが、スペインでも非常に売れたと知人に聞いた。スペイン語の小説、もっと日本語訳が増えるといいな。

 

 ちなみにアジェンデは2017年11月にも新作を発表している。それがこちら、In the Midst of Winter である。私は未読なのだが、こちらも『日本人の恋びと』同様移民についての物語だそうだ。 アメリカでは、移民文学とでも言おうか、移民(二世、三世も含む)が自身の体験や、それに似た物語を綴る作家が増えてきている。ジュンパ・ラヒリ、テジュ・コール、チママンダ・アディーチェ(は国籍はナイジェリアか)、ケン・リュウ。

In the Midst of Winter

In the Midst of Winter

 

 75歳の彼女の執筆のスピード、精力には本当に驚かされるしインスパイアされる。こちらでインタビュー動画も視聴可能です。

www.democracynow.org

 それではみなさま、今週もhappy reading! 

 

 

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