トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

『わたしの物語』 セサル・アイラ: タイトルや表紙に騙されることなかれ

[Como Me Hice Monja] セサル・アイラの『わたしの物語』は、読者が裏切られ続ける物語。 とにかくやられた感がすごいのだ。 わたしの物語 (創造するラテンアメリカ) 作者: セサル・アイラ,柳原孝敦 出版社/メーカー: 松籟社 発売日: 2012/07/27 メディア: …

雨の日に読む海外文学 14冊

先日、しとしとと一日中雨が降る日に『情事の終り』を再読した。 ロンドンを舞台にしたこの物語、最初の場面は主人公モーリスがかつての不倫相手の夫と偶然出会うところから始まる。 その夜は激しい雨が降っている。心の芯まで冷え込んでしまうような雨だ。…

「シルヴィ」 ジェラール・ド・ネルヴァル(火の娘たち)

[Sylvie] 「シルヴィ」を読んだ。プルーストが『失われた時を求めて』を書くきっかけになった小説とどこかで読んで以来、読みたかったのだ。 [Updated: 2020-04-19] 岩波文庫からも発売に。 火の娘たち (岩波文庫) 作者:ネルヴァル 発売日: 2020/03/17 メデ…

『通話』 ロベルト・ボラーニョ

[Llamadas Telefónicas] ボラーニョの短編集『通話』を読んだ。昔売っていたものと若干表紙が変わったなと思ったら、改訳バージョンらしい。収録されているのは全部で14作品。 駆け出しの青年作家たちが主人公の「センシニ」、「アンリ・シモン・ルプランス…

『島とクジラと女をめぐる断片』 アントニオ・タブッキ

[Donna di Porto Pim] 真夏日が続いている。 こんなに暑くなると、なんだかタブッキが読みたくなりますねえ。 イタリアの作家と言えばタブッキとカルヴィーノが頭に浮かぶのだけれど、タブッキは夏、カルヴィーノは冬を連想させる作家(個人的に)なのが面白…

『燃える平原』 フアン・ルルフォ

[El Llano en Llamas] とても久しぶりに『燃える平原』を再読した。日本語で読むのは初めて。 絶版になっている水声社の単行本を買おうかなどうしようかな、と考えていた時に岩波文庫として出版されるというニュースを聞いたので5月まで楽しみに待っていたの…

2018年のブッカー国際賞はオルガ・トカルチュクの『逃亡派』

イギリスの5月22日、日本時間の昨夜発表になったブッカー国際賞。 受賞したのはオルガ・トカルチュクの『逃亡派』。翻訳者はジェニファー・クロフト(Jennifer Croft)。ポーランド人作家として初めての受賞となる。 ノミネート作品の中では唯一邦訳が出版済…

Penguin Booksの新しいシリーズPenguin Modernが可愛い

先日久しぶりに神保町パトロールをして、仕上げの三省堂で見つけたPenguin Booksの新シリーズ(2018年発売)。 文庫サイズの可愛いPenguin Modernです。薄い青緑のカバーも美しくて思わずジャケ買い。シールもしくはブックマークのおまけつき。 三省堂には10…

『語るボルヘス』 ホルヘ・ルイス・ボルヘス

[Borges, Oral] 『ボルヘス、オラル』が昨年岩波で文庫化されていた。 1978年の5月から6月にかけて、ブエノスアイレスのベルグラーノ大学(Universidad de Belgrano)にて行われた5回にわたる講演記録である。 語るボルヘス――書物・不死性・時間ほか (岩波文…

『継母礼讃』 マリオ・バルガス=リョサ

[Elogio de la Madrastra] マリオ・バルガス=リョサの作品は大きく2つに分けられる。私は心の中でこっそり「社会派リョサ」、「エロリョサ」と呼び分けている。 社会派リョサは『都会と犬ども』、『緑の家』、『密林の語り部』などノーベル文学賞が「権力構…

ボリス・パステルナークの『ドクトル・ジバゴ / Doctor Zhivago』が宝塚にぴったりな理由

[Доктор Живаго] I also think that Russia is destined to become the first realm of socialism since the existence of the world. When that happens, it will stun us for a long time, and, coming to our senses, we will no longer get back the mem…

『蜘蛛女のキス』 マヌエル・プイグ

[El Beso de la Mujer Arana] 人が見た映画や、読んだ小説の話を聞くのが大好きである。 人の記憶の中の映画や小説はとんでもなく面白く感じられる。その後話題に上がった映画を見たり小説を読んだりしても、話を聞いている時ほど面白く感じない。その人の主…

Anything is Possible / エリザベス・ストラウト

[何があってもおかしくない] 発売日: 2017年5月4日 ペーパーバック版の発売を待って読み始めたエリザベス・ストラウトの最新作。 むさぼるように読んでしまった。 舞台は前作『私の名前はルーシー・バートン』の主人公ルーシー・バートンの故郷、イリノイ…

『ペドロ・パラモ』 フアン・ルルフォ

[Pedro Páramo] ラテンアメリカ文学の「はじまり」 「もう一度読み返したくなる」、「必ず二回読みたくなる」と銘打たれて書店に並んでいる本のほとんどは(わりとバレバレな)叙述トリックを用いたミステリー小説である。 そういう説明文をつけていい小説は…