トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

『シェリ』 コレット

[Cheri]

最近、胸焼けするまで恋愛小説を読みたいなあという気分。

『ガーディアンの1000冊』リストのうち、"Love"からいくつか選んで読む予定を立てている。

www.theguardian.com

ということで、まずは長らく積ん読にしていたコレットの『シェリ』を。

シェリ (岩波文庫)

シェリ (岩波文庫)

うーん、こんなに長く積んでいたことを後悔してしまう。

人生の秋を描いた素晴らしい物語だった。

題名にもなっているシェリは美しい青年。

本名はフレッドなのだが、元ココット*1の母の友人、レアには親しみを込めて「シェリ(可愛い人、英語でいうところの"hon"や"dear")」と呼ばれている。

そう、恋愛関係にある二人の歳の差は親子ほどなのだ。

49歳のレアと、25歳のシェリ。

しかもシェリは、レアの親友の息子。生まれたときから知っている男の子と恋に落ちることができるなんて、ある意味天賦の才能である。

 

似たようなストーリーを最近どこかで聞いたような…と思った方も少なくないかもしれない。

そう、フランスのマクロン大統領とブリジット夫人である。

彼らも、レア&シェリと同じ24歳差カップル。

(↓ヴィトンのスーツやスティレットがいつも素敵なブリジット夫人、別名「シック大使」。脚が綺麗ですよね。なんというか、アンチエイジングというと顔を若々しく保つことが重要視される日本と、姿勢や体を引き締めることに重点を置くヨーロッパとの違いをひしひしと感じる図だ。)

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教師だったブリジットが、マクロンと出会ったのは大統領が高校生だったとき。

マクロンがプロポーズをした時は彼が17歳、ブリジットは41歳だった。二人で文学の話をするのがとても楽しくて、何よりお互いの知性に惹かれたというエピソードが印象的である。長い別離の期間を経ても愛情が変わらなかったというのは、魂のレベルで惹かれあっているのだろうなと感じるし、そこが『シェリ』とは異なるのかもしれない。

フランスでもよくあることとは言えないだろうが、この関係が成立する(&家族に支持される)のがさすがフランスというほかない。

 

小説に話を戻そう。

幼い頃からレアに憧れていたシェリ。

Femme fataleならぬhomme fatalとでもいうべきか、素晴らしく美しい青年に成長したシェリはレアを求め、彼女との恋愛関係はなんだかんだと続く。

シェリは「好き」だという感情に突き動かされ、彼女と時間を過ごす。

若いがゆえに、将来を案じる事はない。おそらく明日のことだって考えてはいない。

しかしレアは違う。

毎日輝くような恋人の隣で目覚める彼女は、自分の老いを恐れている。

このごろ彼女は夜になるとこのネックレスをはずすことにしていた。シェリは美しい真珠に目がなかったから、明け方にしばしばそれを愛撫する。そうすればレアの首もとにおのずと目がいって、肉がつきすぎ、白い輝きが失われた皮膚のしたで筋肉がたるんでいることに、しょっちゅう気づかれてしまうだろう。

まだまだ美しいと方々で賛辞を受け、「長持ちするいいからだ」を持っていることを誇りとするレア自身も、どこかで自身の女盛りが終わったように感じている。

「美しい、か」サロンにあがりながらレアは心のなかでつぶやいた。「いいえ、もうそうは言えないわ。今じゃ顔の近くには白い布をもってこなくちゃならないし、下着や部屋着は淡い薔薇色でないとだめ。美しい、か…まあ、そんなものたいして必要じゃないのよ、もう…」

今は成立する恋人関係も、明日になったらどうなるか分からない。

若い恋人は、レアが経験豊富だからこそ彼女を愛している。彼女の言葉やふるまいの底に見え隠れする歴史を尊く感じて、憧れている。

それでも自分一人だけが老いてゆくやりきれなさ、もの悲しさは消すことができない。彼にふさわしいのは自分ではないという気持ちを否定できない。

レアには、その美しさが存在価値でもあったココット時代があった。だからこそなおさら「年を取り、美しくなくなっても大丈夫」と表面では強がりながらも、「美しくない自分なんて意味がない」という気持ちを否定しきれないのではないだろうか。

 

そして6年続いた恋愛関係は、シェリの結婚により終わりを告げる。

サガンやデュラスといったいわゆるフランス的恋愛小説の根底はこれだったのかと思わせる物語だった。

  

コレットは『青い麦』しか読んだことがなかったので、あまりの違いに驚く。『青い麦』も、年上の女性との一夏の体験の物語ではあったものの、焦点が当てられていたのは若者の感情だったからだ。

青い麦 (集英社文庫)

青い麦 (集英社文庫)

 

今回の読書で、コレットという特異な作家自身にも興味が湧いてきた。

シェリは続編もあるらしいので是非読んでみたい。 

シェリの最後 (岩波文庫)

シェリの最後 (岩波文庫)

 

いわゆる年上の女性との恋愛関係を描いた作品は、やはりフランスに多い気がする。

 

『肉体の悪魔』は、17歳の男子学生と、年上(19歳)の人妻の不貞の物語。

ともに1日を過ごした後、家に帰ってから夫に嘘をつかなければいけない女。「その嘘こそが僕への最高の贈り物」だと考える男子学生の早熟さは恐ろしいほど。

映画でもジェラール・フィリップの美しさが際立つ。37歳でこの世を去ったことが惜しまれるほど。美貌の作家ラディゲ自身もこの作品を書いた時は10代、たったの20歳でこの世を去った人物だ。

肉体の悪魔 (新潮文庫)

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『危険な関係』もそう。

(あなたがいるから〜苦しくて〜♪*2

危険な関係 (角川文庫)

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  • 作者: ピエール・ショデルロ・ドラクロ,Pierre‐Ambroise‐Francois Choderlos de Laclos,竹村猛
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 立身出世ストーリーでもある『赤と黒』も。全てのきっかけは、年上の人妻・レナール夫人との恋愛である。

赤と黒 (上) (新潮文庫)

赤と黒 (上) (新潮文庫)

 
赤と黒 (下巻) (新潮文庫)

赤と黒 (下巻) (新潮文庫)

 

サガンも。 

39歳の女性と、25歳の恋人との物語。これを20代で書ききってしまう彼女はすごい。

ブラームスはお好き (新潮文庫)

ブラームスはお好き (新潮文庫)

 

こちらは年上の女性に憧れ、恋に落ちる年下女性の物語。

キャロル (河出文庫)

キャロル (河出文庫)

 

こちらはアメリカから。住む場所も仕事も社会的サークルも全く違う、27歳の青年マックスと41歳の女性ノーラのラブストーリー。

ぼくの美しい人だから (新潮文庫)

ぼくの美しい人だから (新潮文庫)

  

 

『シェリ』は映画にもなっている。これは見てみたい。

わたしの可愛い人-シェリ [DVD]

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『恋愛適齢期』も少し、似た感じですよね。この映画は大好き。

 結末は…納得できるようなできないような、ですが。

恋愛適齢期(字幕版)

恋愛適齢期(字幕版)

 

 

文学は、まるで恋愛の教科書(ロールモデルにできるような人物はほとんどいませんが)。みなさま、今日もhappy reading!

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*1:高級娼婦。

*2:『仮面のロマネスク』!