トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

『ゼルダ すべての始まり』を観ました

 さて、前の記事で言及したアマゾン・オリジナルシリーズの『ゼルダ すべての始まり』についてです。

 クリスティーナ・リッチ主演。ゼルダ・フィッツジェラルドの生涯を彼女の視点から描いている。

www.tokyobookgirl.com

 

 

ドラマの感想

 1シリーズ全10話を鑑賞することが可能。

 ゼルダの少女時代から、フィッツジェラルドとの結婚・出産を経てフランスへ移住するまでの物語。

 

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 これが面白くて! あっという間に全話観てしまった。

 ゼルダという女性がどうやって出来上がったか、よく理解できる。

 ちょっと暗いけれど……モンゴメリでの少女時代やらニューヨークの狂騒やらは、もう少し明るくやんちゃなトーンで描いていただいてもよかったんじゃないかなとは思うのだが。続けて観ると余計にその暗さが際立ってしまって。

 全編を通して流れる気だるいジャズも素敵だし、F・スコット・フィッツジェラルド役の俳優さんなんて本人に生き写し! ちょっとぼん(おぼっちゃま)風で、繊細かつ傲慢な雰囲気がめちゃくちゃ良かった。お酒におぼれる様子もなんだか様になっている。

 クリスティーナ・リッチもはっきりとした南部訛りを物憂い感じで話していて、ゼルダの雰囲気がとてもよく出ている。

 全体的に素晴らしい再現力で、ゼルダの自伝的小説『ワルツは私と』に出てくる細かいエピソードまでちゃんと拾って描かれている。

 少女の頃は裸で池に飛び込み物議をかもした、とか。

 南部の男の人はみんな顔なじみ、フットボールしか頭にないから絶対に結婚したくない、と両親に言い張るところとか。

 

「南部の花」からニューヨークの「フラッパー」へ

 ゼルダのお洋服の変遷なんかも、「これは映像でないと描けないわ〜」と感動した。

 南部は北部に比べて、女性らしいことが良しとされる地域(1910年代当時ですよ)。スカートの丈は長く、カラフルな衣装がたくさん。

 ところが結婚してニューヨークへ移ると、そこに待っていたのは別世界。

 今はニューヨークで女優をしている幼馴染のタルーラと再会するも、「何あの服」と陰口を叩かれてしまう。

 それもそのはず、ニューヨークでは「新しい女性」旋風が吹き荒れており、みんなシックな服を着ているのだ。

 日本で言うところのモガである。髪を短くして、黒い膝丈のシャネルのスカートを身につけて。

 今まで当たり前だった価値観はニューヨークでは通用しない。

 しかも「南部らしいフェミニンな格好の君が好きだ」と言っていた夫・フィッツジェラルドが、こっそりニューヨークの女性に「ゼルダの服はまるでダメだ。代わりに選んでやってくれないか」なんてお願いしていたことも発覚!

 環境の変化に慣れようと頑張っている中で、これは大きな打撃である。

 南部では「一番の美人」ともてはやされるパーティーの花だったのに、「ダサい」みたいなことを方々から言われて……ショックも大きかったと思われる。

 その後ゼルダはこんな風に変身して、フィッツジェラルドの本がベストセラーになったこともあり、ファッションアイコン/時代の象徴となるわけだが。

 

ゼルダの感じていた閉塞感

 ゼルダは南部出身。街は美しく周りもおせっかいで優しい人ばかりなのだけれど、とにかく狭い世界。上流家庭出身者(いわゆる社交界デビューするような階級の人たち)はみんな知り合いで、デートしようにも地元の男の子はみんな幼馴染状態。そして、誰とデートしても噂がすぐに広まる。

 ゼルダはその環境に閉塞感を覚え、広い世界に出たいと願い続ける。

 その気持ちは現代人だって痛いほど分かる。

 

クリスティーナ・リッチの思い

 クリスティーナは主演のみならず、この作品のプロデュースも手がけている。

 ゼルダについて調べるうちに"I realized that so much of what I thought about Zelda was incorrect and actually defamatory(今までゼルダに抱いていたイメージが誤りで、実際のところ彼女は汚名を着せられている)"と気付いたと語っており、どうしても本当のゼルダを世に知らしめたくなったのだとか。

www.theguardian.com

 良くリサーチされている素晴らしい作品だと思います!

 原作はこちら。 

Z: A Novel of Zelda Fitzgerald

Z: A Novel of Zelda Fitzgerald

 

 

 

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