(冬)
アリ・スミスのSeasonal Quartet、二作目。イギリスを含んだ多くの国では一年の始まりが秋からだから、このシリーズも秋から始まったのだろう。
Winter: from the Man Booker Prize-shortlisted author (Seasonal Quartet)
- 作者: Ali Smith
- 出版社/メーカー: Hamish Hamilton
- 発売日: 2017/11/02
- メディア: ハードカバー
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二作目はタイトルの通り、冬(クリスマス前後)のイギリスを舞台とした物語。今気づいたのだけれど、表紙の絵は全て同じ風景を描いているのですね(秋と春の絵は、下記の表紙を参照)。アートに造詣が深いアリ・スミスらしい、素敵なカバー。描いているのはデイヴィッド・ホックニー(David Hockney)で、他の作品もウェブで閲覧可能。
ちなみに裏表紙には、作中に登場する画家による作品もプリントされている。Autumnではポーリン・ボティの'The Only Blonde in the World'、Winterではバーバラ・ヘップワース(Barbara Hepworth)の'Winter Solstice'。
Autumnとは登場人物も、舞台も異なる。
Winterに登場するのは主に四人。ロンドンに暮らす三十代の男性アート(Arthur / Art)、アートの母親ソフィア(Sophia)、ソフィアの姉アイリス(Iris)、そして異国出身の若い女性ラックス(Lux)。
季節は全てが死に絶える冬である。芸術は死に、マゾヒズムも死に、ノートパソコンも死に、自然も死ぬ。
アートはクリスマス休暇に同棲中の恋人シャーロット(Charlotte)を連れて、コーンウォールにある母・ソフィアの家を訪ねる約束をしていたのだが、直前にシャーロットと大喧嘩をしてしまう。引くに引けなくなったアートはあろうことか、ラックスに金を払い「シャーロットのふりをしてくれ」と懇願し、彼女を連れて帰る。ところが家を訪ねてみるとソフィアの様子がおかしい。精神的に混乱しているようだ。そこでアートとラックスは、ソフィアすら何年も会っていない彼女の姉アイリスを呼びつけ、四人はソフィアの家でクリスマスを過ごすこととなる。
まるで共通点のない四人。内三人には血の繋がりはあるものの、お互いに会うのはかなり久しぶりだし、意見はまるで合わないし、ある意味他人より遠い存在だ。
さて、Autumnではダニエルが繰り返しエリザベスに尋ねた台詞、"what you reading?"(今、何を読んでる?)。
Winterにおけるキーワードはアイリスからアートへの問いかけ、"what are you doing with your life and time right now?"だろう。
アーサー王伝説の土地・コーンウォールで過ごす2016年のクリスマス。これがこの小説の「いま、ここ」だ。Brexitが決定づけられた国民投票後、社会情勢や人々の政治に対するperspectiveは少しずつ変わっていく。
2016年のクリスマスを主軸として、著者は多面的に様々な年のクリスマスを描き出す。アイリスとソフィアがまだ少女だった1961年のクリスマスや、ソフィアがアートの父親となる男性と初めて出会った1970年代のクリスマスまで遡ったかと思いきや、子供ができたアートが過ごす近未来のクリスマスまで見せてくれる。時代とともに一人一人が考え方や生き方を変えていく。
この時間の行き来の仕方はとてもアリ・スミスらしいと同時に、イギリス社会の変容をも表現していて、印象に残った。
作中に登場する本
皮肉にもイギリス人よりよほどイギリス文学に詳しいラックスがイギリスに来るきっかけとなったのが、シェイクスピアの『シンベリン』。ラックスによる解説が小気味良い。まるで、昼ドラのあらすじを説明するような感じで。
アリ・スミスとSeasonal Quartetのこと
さて、この春にはSeasonal Quartetの三作目Springが出版される。これも今から楽しみ! 次はどんなイギリスを見せてくれるのだろうか。
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