トーキョーブックガール

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『グルブ消息不明』エデゥアルド・メンドサ: すごく奇妙で、夏のバルセロナを感じる一冊

[Sin noticias de Gurb]

この本を読むのにおすすめなのは

・うだるように暑い夏

・とにかく何も考えたくない日

・一人でゆるりと過ごしながら、時折えへえへと笑いたい時 

 です。

グルブ消息不明 (はじめて出逢う世界のおはなし―スペイン編)

グルブ消息不明 (はじめて出逢う世界のおはなし―スペイン編)

 

メンドサはスペインでは2016年にセルバンテス賞も受賞している大作家だが、日本語訳はあまり出ていない。

本作と、『奇蹟の都市』のみである。しかも『奇蹟の都市』は絶版になっている。

この東宣出版の「はじめて出逢う世界のおはなし」は、シリーズ名からしてYA向けなのかな?と思うのだが、セレクションが秀逸でどれも素敵な作品ばかり。

『グルブ』はメンドサが新聞紙に連載するため書いた短めの小説で、「まさか本になって出版されるとは思いもしなかった」と本人もわざわざ前書きをつけているくらい、肩の力を抜き、ある程度ふざけて書いたものなのだということがうかがい知れる。その肩の力の抜け具合がなんとも心地いいのだが、おそらくそう感じた人がたくさんいたのだろう、今ではメンドサの著書の中でもかなり売れている部類だということだ(日本語にまで訳されているのだから)。

舞台はバルセロナ。

主人公は宇宙人で、名前は明らかにならない「私」なる存在だ。二人一組で特別な任務を遂行するため遠路はるばるバルセロナまでやってきた「私」とグルブだが、ある日グルブが行方不明になってしまう。

その理由が笑えるのだが、国民的ポップスターのマルタ・サンチェスの姿に化けていたため、男にナンパされて車でどこかへ連れ去られてしまったらしいのだ。小説の該当ページにはわざわざマルタ・サンチェス(本物)の写真が載せてあり、余計に笑いを誘う。

グルブと一緒でないと宇宙へ戻れない「私」は、これまたゲイリー・クーパーやら大司教やらに変身して、バルセロナを歩き回りグルブを探し求める。でも疲れるとすぐにふにゃふにゃになってしまうし、重力があるので足かお尻を地面や椅子につけていないといけないということを忘れ浮き上がってしまうし、もう怪しさ満点なのである。

それでもどうにかバルの店主や隣の部屋に住むシングルマザーと交流し、バルセロナ生活を乗り切っていく。時は1992年のオリンピック直前、街は工事が盛んに行われ、誰もかれもが混乱している。治安のよくないエリアが驚くほど美しく生まれ変わり、新しい店が次々と現れる。

「私」は海が凪いでいる様子や爽やかな風を感じながら、夏の訪れを待っているような街をさまよい歩く。感情は抜きで淡々と語られるバルセロナの「今日の様子」がなんとも心地よく、まるで読者まで街を歩いているような気分にさせてくれる。

この奇妙奇天烈さがなんとも癖になる小説だった。

 

ちょうど「私」がバルセロナを彷徨っていた時代に、私自身もバルセロナで過ごしていた。幼子だったので街の様子なんてほとんど覚えていないものの、学生になってからバルセロナに戻った時、「子供の頃にきた・見たことがある!」と思い出せた場所がバルセロネータだったり、「ラ・ガンバ」(エビのモニュメント)だったりと、オリンピックゆかりのものだったことが印象に残っている。街がてんやわんやの大騒ぎになり、大きく変わった時代だったのだ。

大好きなタラゴナ(バルセロナから電車で行ける小さな町、遺跡が美しい。ガウディの建築のインスピレーション源になったとの話もある)が出てきたのも嬉しかったし、様々な地名が登場するからか裏表紙にはバルセロナの地図まで載っていて、旅行心をくすぐる一冊だった。 

 

「はじめて出逢う世界のおはなし」シリーズはこれで2冊目。

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次はキューバ人作家ジョシュによる『バイクとユニコーン』や、ブッツァーティの『古森の秘密』、チェコ人作家パヴェル・ブリッチの『夜な夜な天使は舞い降りる』を読んでみたい。

バイクとユニコーン (はじめて出逢う世界のおはなし)

バイクとユニコーン (はじめて出逢う世界のおはなし)

 
古森の秘密 (はじめて出逢う世界のおはなし)

古森の秘密 (はじめて出逢う世界のおはなし)

 
夜な夜な天使は舞い降りる (はじめて出逢う世界のおはなし チェコ編)

夜な夜な天使は舞い降りる (はじめて出逢う世界のおはなし チェコ編)