[Bestiario]
大阪で大きい地震がありました。本ブログは基本的に自動更新なので反応が遅く恐縮ですが、関西の皆様ご無事でしたでしょうか。雨が続き心も晴れないですね……安全第一、気をつけてお過ごし下さい。
今日は、大好きなコルタサルの新刊が光文社文庫から出たので予約購入した上に積ん読本をほったらかしにして真っ先に読んだ話を。
1951年に出版されたコルタサルの初めての短編集"Bestiario(動物寓話集)"の翻訳で、「これを持ってコルタサルの短編は全て日本語に翻訳されたことになる」とのこと(訳者あとがきより)。
収録されているのは8作品で「奪われた家」、「パリへ発った夫人宛ての手紙」、「遥かな女ーアリーナ・レエスの日記」、「バス」、「偏頭痛」、「キルケ」、「天国の扉」、「動物寓話集」。
「遥かな女(遠い女)」など、各社から出ているラテンアメリカ短編集に収録されているものが多いので、新しい町で見覚えのある顔をちらほらと見つけたような気分に。それでも、こうして通して読むと全ての短編で出てくる動物(うさぎ、マンクスピア、犬、猫、トラ)の意味が浮き上がってくるというか、不思議なまとまりがある。
「奪われた家」 Casa Tomada
一族に受け継がれてきた古いお屋敷に住んでいる「僕」とイレーネという兄妹。だだっぴろく静かな館というだけでゴシック小説にうってつけだが、そんな館に突然侵入者が現れ少しずつ部屋を占領していく。「僕」とイレーネはだんだん狭い空間での生活を余儀なくされ……。
じわじわと支持層を広げていったペロニズムに対する揶揄という見解が一般的な短編だが、白人がインディオから乗っ取ったアルゼンチンという国自体の歴史や、エスタンシア(大土地所有制)のことなども思い起こされる。
「遥かな女ーアリーナ・レエスの日記」 Lejana
コルタサル円熟期の作品「もうひとつの空」(『すべての火は火』に収録)と似ているところがあり、南半球のアルゼンチンと北半球のブダペストが最初は夢の中で、その後現実で繋がってゆく。が、そこからの展開はホラーでまるでエドガー・アラン・ポーの世界。
「偏頭痛」 Ómnibus
マンクスピアの世話をして一日過ごす男と女。ちょっとした体調不良全てにホメオパシーの名前がついていて、症状の全てを既存の病気に当てはめたがる現代病を揶揄しているよう。
こういう正体不明の動物が登場する短編は最近読んだなあと記憶をたどっていると、サマンタ・シュウェブリンの「草原地帯」だった。よく考えると表題作「口のなかの小鳥たち」もそうだ。コルタサルの魂が脈々とアルゼンチン人作家に受け継がれているような気持ちになる。
「キルケ」 Circe
『オデュッセイア』に登場し、オデュッセウスを魅惑し彼の帰還を1年間もの間阻んだギリシア神話の女神キルケ。キルケが人間の男たちに差し出す食べ物には魔法がかけられていて、男たちを豚に変えてしまう。この物語に登場する女性デリアも女神のように魅力的で美しいのだが、過去に彼女と婚約した男二人が二人も亡くなっていて……。
あまりに面白かったので、今年出版されてベストセラーになっているマデリン・ミラーのCirce(キルケ)も読もうと決意する(関係ないけど)。
CIRCE (#1 New York Times bestseller) (English Edition)
- 作者: Madeline Miller
- 出版社/メーカー: Little, Brown and Company
- 発売日: 2018/04/10
- メディア: Kindle版
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『石蹴り遊び』はまだ読んでいないので、今年こそは読みたい。
現在は水声社から出版されているものの、水声社は書店にしか卸していないのでAmazonでは謎の水増し価格で販売されている。大きい書店に行けば必ずあるので、これは書店で購入しましょう。