トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

『口のなかの小鳥たち』 サマンタ・シュウェブリン

[Pájaros en la boca]

最近ラテアメ文学の再読ばかりしていて気がついた。邦訳されているイスパノアメリカ文学は圧倒的に男性作家ばかりだなと。

もちろんラテンアメリカには男性作家しかいないのかというとそんなわけはなく、大学の頃授業で学んだ作品は男性作家のものと女性作家のもの半々だったと記憶している。日本語に翻訳されている作品が圧倒的に男性作家のものが多いのだ。 

これは本当に本当に心の底から残念!!!!

素晴らしい女性作家は山ほどいる。ガブリエル・ミストラル、シルビーナ・オカンポ*1、マルセラ・セラーノ、マリア・ルイサ・ボンバル、エレナ・ポニアトウスカ、ラウラ・エスキヴェル(思いつく作家にチリ人が多いのは、私の教授がチリ人だったからでしょうか)。

邦訳で複数の作品が読める女性作家って、純文学からは少し遠ざかってしまったイサベル・アジェンデくらいではないだろうか。

『口のなかの小鳥たち』はそんな中でも珍しい現代のアルゼンチン人女性作家による作品。それほどのハードルを乗り越えて翻訳されているのだから素晴らしいに違いないと思って読んだのだが、面白かった。

口のなかの小鳥たち (はじめて出逢う世界のおはなし―アルゼンチン編)

口のなかの小鳥たち (はじめて出逢う世界のおはなし―アルゼンチン編)

 

収録されている短編は15作品。

「イルマン」

「蝶」

「保存期間」

「穴掘り男」

「サンタがうちで寝ている」

「口のなかの小鳥たち」

「最後の一周」

「人魚男」

「疫病のごとく」

「ものごとの尺度」

「弟のバルテル」

「地の底」

「アスファルトに頭を叩きつけろ」

「スピードを失って」

「草原地帯」

文体は結構硬質だが読みやすい(主人公は男性女性半々くらい)。シュールかつ棘のある幻想文学といった趣。

特に心に残っているのは以下のとおり。

 

 

「蝶」

たった3ページで心を鷲掴みにされるような、冷水を浴びせかけられるような短編。これって私もよく夢に見るんだよなあと思いながら最後まで読み進む。

そう、子供や犬や猫など、庇護する存在がいる方はよくこういう夢を見るのではないでしょうか。どういう意味があるのかは分からないけれど、自分が愛し保護する存在に何かあったらどうしようという不安から来ているのだろうか。ボルヘスをはじめとして、夢の話を書く作家がラテンアメリカには多い印象があるが、これはボルヘスの後継者といった雰囲気を醸し出している。

 

「口のなかの小鳥たち」

現代的な作品群の中でも特に現代的かもしれない表題作。

この父親は元妻にも娘にも全く愛情がないのがよく見てとれる。元妻が訪ねてくると居留守を使おうとするし、成長した娘を見て「雑誌で見かける児童ポルノのモデルのよう」だと感じるのだ。

家から一歩も出ず、生きた小鳥を食べる娘を異常だと思うものの

栄養学的な観点からしても麻薬をやるよりずっと健康だ、社会的見地からしても13歳で妊娠されるよりは楽に隠し通せそうだ

などとことなかれ主義を貫き、インターネットで

《小鳥》《生のまま》《治療》《養子縁組》

と調べてみても、娘と面と向かって何が問題なのか話し合おうとすることはない。

血まみれになって小鳥を食べる(これは経血を表しているのかな)「かごの中の小鳥」状態の娘がこれからどうなるのか、恐ろしい予感しかしない結末があなたを待ち受けている。

 

「人魚男」

突然現れた人魚は、まるで理想の男。頭がおかしくなっているのは母親なのか、兄なのか、「私」なのか? 

 

「保存期間」、「草原地帯」など女性性に関して疑問を抱かせるような作品も多く、全体的にブラックなのだが軽やかでもあり、もっとこの著者の小説を読みたくなった。

この「はじめて出逢う世界のおはなし」というシリーズは、「大人も子供も楽しめる」というコンセプトのもと出版されているそうで、本当にその言葉通りの作品。

つまり、子供が何の気負いもなくエンターテイメントとして読書しても面白いし、大人になって読み返してみるとダークな部分が見えてきて二重に面白いという感じ。

 

ちなみに、最近Literary Hubに「作家18人が選ぶお気に入りの短編集」という記事が掲載されていて、サマンタ・シュウェブリンもコメントを寄せている。

彼女のお気に入りはトバイアス・ウルフのOur Story Beginsで、「素晴らしい登場人物、忘れがたい状況、パワフルなダイアログのお手本となるだけでなく、偉大な物語というのは必ず小さなディテールから生まれるのだということを示してくれる」とのこと。

lithub.com

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*1:絶版になった『ラテンアメリカ五人集』にはオカンポの短編が含まれていた。

ラテンアメリカ五人集 (集英社文庫)

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  • 作者: M バルガス=リョサ,シルビーナオカンポ,M.A.アストゥリアス,J.E.パチェーコ,オクタビオパス,Mario Vargas Llosa,Silvina Ocampo,Miguel Angel Asturias,Jos´e Emilio Pacheco,Octavio Paz,安藤哲行
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『五人集』は2011年に復刊されたのだが、ふと「五人」を見てみるとオカンポが抜けてフエンテスが入っている!なんてこと。

ラテンアメリカ五人集 (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

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  • 作者: マリオ・バルガス=リョサ,ホセ・エミリオ・パチェーコ,オクタビオ・パス,M・A・アストゥリアス,カルロス・フェンテス,J・E・パチェーコ,マリオ・バルカスリョサ,カルロス・フエンテス,ミゲル・アンヘル・アストゥリアス,安藤哲行,KEIKO SUZUKI,鈴木恵子,野谷文昭,鼓直,牛島信明
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