休日や出張で旅行するときは、旅行先の街、あるいは国を舞台にした小説を読むことにしている。
多分同じことをしている読書好きさんは沢山いると思うし、その内容を知りたいなとよく思う。というわけで、リストを作ってみた。
まずはニューヨーク。まごうことなき大都会を舞台にした小説(海外文学)たち。
- 『ブライト・ライツ、ビッグ・シティ』ジェイ・マキナニー
- 『ティファニーで朝食を』トルーマン・カポーティ
- 『書記バートルビー』メルヴィル
- 『グレート・ギャツビー』F・スコット・フィッツジェラルド
- 『ムーン・パレス』ポール・オースター
- 『ライ麦畑でつかまえて』J・D ・サリンジャー
- 『クローディアの秘密』E・L・カニグズバーグ
- 『ベル・ジャー』シルヴィア・プラス
- 『Sex and the City』キャンディス・ブシュネル
- 『プラダを着た悪魔』ローレン・ワイズバーガー
- 『マザーレス・ブルックリン』ジョナサン・レセム
- 『オープン・シティ』テジュ・コール
- 『O・ヘンリー ニューヨーク小説集』O・ヘンリー
- 『エイジ・オブ・イノセンス』イーディス・ウォートン
- 番外編
- ガーディアンや、ペンギン/ランダムハウスによるニューヨークを舞台にした小説リスト
- "100 books across America"
『ブライト・ライツ、ビッグ・シティ』ジェイ・マキナニー
このタイトルが本当に素敵で……ある年、冬のニューヨークを訪れる前に、タイトル買いして読んだ一冊。
主人公はニューヨークの一流出版社で働く男。パーティーの花であり、どんなスポーツの話題にもついていける男。美しい妻を持つ男。
ドラッグでヘロヘロになって朝までクラブにいても、それを小説に書き、いつかフィッツジェラルドのように成功したいと考えている男。
80年代アメリカの活気に満ち溢れた空気がなんとも新鮮である。
ともすればスノッブになりがちな内容も、「きみは」と読者に語りかけるようなスタイルの文章のおかげで非常にフレッシュ。ニューヨークにいないと書けない文章だと思う。
絶版となっているのが残念。新訳が出るといいのだけれど。
『ティファニーで朝食を』トルーマン・カポーティ
- 作者: トルーマンカポーティ,Truman Capote,村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/11/27
- メディア: 文庫
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ニューヨークを舞台にした小説、というとやっぱり一番に思い浮かぶのはこの作品だろう。
第二次世界大戦中のニューヨークに生きる「僕」と同じアパートの住人、ホリー・ゴライトリー。二人ともニューヨーク出身ではなく田舎から出てきた者同士、大都会で感じる孤独や郷愁を共有する感じがいい。
不正直な心を持つくらいなら、癌を抱え込んだ方がまだましよ。だから信心深いとか、そういうことじゃないんだ。もっと実際的なもの。癌はあなたを殺すかもしれないけど、もう一方のやつはあなたを間違いなく殺すのよ。
というホリーの言葉が心に残る。
ティファニーの前でデニッシュ*1をかじるオードリー・ヘップバーン演じるホリーは夢のように素敵で、ニューヨークのアイコンとなった。しかし、原作のホリーは一味違った魅力があるのだ。マリリン・モンローのイメージで作り上げたキャラクターなので、カポーティが映画のキャスティングにご不満だったことも有名。
ニューヨークのティファニー本店(5番街)はいつ見ても素敵。
クリスマスシーズンには、素晴らしいウィンドウディスプレイや宝箱のようなイルミネーションを見ることができて、夢のよう。
『書記バートルビー』メルヴィル
太平洋を旅して海洋小説を多く発表し、『白鯨』でよく知られるメルヴィルもニューヨーク出身。
彼の著書でニューヨークを舞台にしたものがこちら、『書記バートルビー ウォール街の物語』だ。ウォール街に事務所を持つ男が、バートルビーという書記を雇う。しかし何を頼んでも彼は「しないほうがいいと思います」、「せずに済めばありがたいのですが」とやんわりと拒否し、一向に仕事をしようとしないのだ。なのにいつまでも離れようとしないバートルビーにしびれを切らした「私」は……。
不条理で奇妙な、くせになる物語。短編なので旅行中でもすいすいと読める。
トリニティ教会、ブロードウェイとカナルストリートなど、ウォール街近くの地名も登場する。
『グレート・ギャツビー』F・スコット・フィッツジェラルド
ニューヨークといえばもちろん、フィッツジェラルドは外せない。
- 作者: スコットフィッツジェラルド,Francis Scott Fitzgerald,村上春樹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/11/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ニューヨークで一財産なして、若かりし頃南部で出会った憧れの女性・デイジーを手に入れようとするギャツビー。紳士的で、全てを手にいれた時代の寵児のような彼には秘密があって……。
マンハッタンの狂騒と、クイーンズ・ブルックリンの人々のその日暮らしの対比が味わい深い。
"Old sport"を「オールド・スポート」と訳してセンセーションを巻き起こした(?)村上春樹訳が2006年に、その後小川高義訳が2013年に出版されています。
『ムーン・パレス』ポール・オースター
- 作者: ポール・オースター,Paul Auster,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1997/09/30
- メディア: 文庫
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コロンビア大学に入学した学生が自分のルーツを知り、大人になるまでの物語。
人々は集い、群れるが、ある時が来るとそれぞれが変わり、新しい場所へと歩いていく。 これは、「ムーン・パレス」というニューヨークの中華料理屋に集う人々のエピソードである。この話に出てくる人々は、いまや主人公の近くにはいない。でも思い出やぬくもり、愛は心の中にいつまでも残るのだ。
月やセレンディピティがたくさんモチーフとして使用されており、色鮮やか。
『ライ麦畑でつかまえて』J・D ・サリンジャー
若干内弁慶で、でも自尊心にあふれた、矛盾だらけのお坊ちゃんのお話。主人公と同じくらい様々な顔を持つニューヨークという都市が、舞台にぴったり。
ティーンエイジャーの頃は、大嫌いな小説だった。ホールデンの哀しみや孤独、「自分がすべて、世界は敵」という考え方が痛いほどに伝わってきて、それは10代の人間が持つ感情として信じられないほど正確かつ的確で、読んでいると大声で泣きたくなると思った。今はまた違う気持ちで読み返している。
この博物館のいちばんいいところは、なんといってもみんながそこにじっと留まっているということだ。ただひとつ違っているのは君だ。いや、君がそのぶん歳をとってしまったとか、そういうことじゃないよ。それとはちょっと違うんだ。ただ君は違っている、それだけのこと。
『クローディアの秘密』E・L・カニグズバーグ
- 作者: E.L.カニグズバーグ,E.L. Konigsburg,松永ふみ子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/06/16
- メディア: 単行本
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メトロポリタン美術館に行く際はぜひ携えていきたい児童書。幼少時代の愛読書でした。
家出して、メトロポリタンで一夜を過ごすことになるクローディアと弟の物語。
クローディアが隠れた部屋はここかな? 眠ったベッドはこれかな?など、想像しながらメトロポリタンを歩くと、より一層楽しい体験ができること間違いなし! 意外といつ行っても空いているから(というか日本の美術館が混みすぎというか)、隠れて一晩やり過ごすのも簡単だよねと思う。
『ベル・ジャー』シルヴィア・プラス
- 作者: シルヴィア・プラス,青柳祐美子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2004/06/10
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30歳の若さで自殺した詩人シルヴィア・プラスによる自伝的小説。主人公のエスターは19歳で、ファッション雑誌のコンテストに選ばれたためニューヨークの出版社でエディターとしてインターンの仕事を得る。同じようにインターンとなった11人の女の子たちは、田舎出身のエスターとは違い都会育ちのお嬢様ばかり。あまりの環境の違いに驚きながらも、彼女はニューヨークで新しいことを次々と体験する。
後半は精神を病み田舎へ戻ることになるのだが、前半のニューヨークの描写は19歳の少女の青春と重なってまばゆいばかり。
ここらでchick litをいくつか。
『Sex and the City』キャンディス・ブシュネル
- 作者: キャンディスブシュネル,Candace Bushnell,古屋美登里
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2000/12/01
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日本語版は『セックスとニューヨーク』というタイトルで発売(発売されたのがドラマ放映前だったのでしょうね)。
キャンディス・ブシュネルというまさにキャリー・ブラッドショーそのもののようなブロンド美女がニューヨークで遭遇した面白い人々について書き散らした(失礼)エッセイ集である。どこからでも読めるのがいいところ。
一昔前の話ではあるものの、都会における独身女性のありかた、だとか、モデルとしか付き合わない男とは、とか、今読んでも面白く考えさせられるトピックも多い。
英語版も読みやすく、ニューヨークの空気を肌で感じることができるのであまり英語で読書しない方にもおすすめ。
- 作者: Candace Bushnell
- 出版社/メーカー: Grand Central Publishing
- 発売日: 2006/08/01
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『プラダを着た悪魔』ローレン・ワイズバーガー
- 作者: ローレンワイズバーガー,Lauren Weisberger,佐竹史子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/10/01
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- 作者: ローレンワイズバーガー,Lauren Weisberger,佐竹史子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/10/01
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こちらも映画化された作品だが、小説の方がよりリアル。特に、悪魔上司・ミランダが。
エルメスのスカーフ、プラダのドレス、ジミー・チュウのスティレットと、次々と登場する美しい衣服にはため息。
ちなみにミランダのモデルとなったアナ・ウィンターはニューヨーカーではなくイギリス人だが、常に辛口な彼女のコメントはかなりニューヨーク的かも。ファッションも。
このVOGUE誌による"73 Questions with Anna Wintour"のビデオが好きです。
73 Questions with Anna Wintour
『マザーレス・ブルックリン』ジョナサン・レセム
- 作者: ジョナサンレセム,Jonathan Lethem,佐々田雅子
- 出版社/メーカー: The Mysterious Press
- 発売日: 2000/09
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「ガーディアン誌が選ぶ1000冊」にも入っている小説。この1000冊はかなり偏りがあり、イギリス人作家によるもの&古典が相当多いので、2000年代前半にアメリカ人によって執筆されたこの小説はそのハードルも乗り越えて、相当高評価を得たということなのだろう。
主人公ライオネルは孤児院育ち。そんな彼をかくまい、仕事を教え、大人になるまで見守ってくれた兄貴分フランクが殺される。ライオネルはフランクを殺したのが誰なのか、調べ始めるが……。
2000年代初頭でしか使えないトリックというかネタが使われていたりして(現在では一般的になりすぎているもの)、その頃の雰囲気が味わえる。
ブルックリンに行きたくなる。
現代のニューヨークを描く小説も。
『オープン・シティ』テジュ・コール
ナイジェリア系作家によるマンハッタンの物語。
主人公はナイジェリア出身のジュリアス、精神科の研修医である。彼は昼夜ニューヨークを見つめ、人々を観察するのだが……。意識の流れを感じる。これは歩き回りながらオーディオブックで聴くのも良さそう。
現在のニューヨークを語る一冊。
『O・ヘンリー ニューヨーク小説集』O・ヘンリー
昔のニューヨークを描いた小説ならこちら。
サキと並び、短編の名手とされるO・ヘンリー。「賢者の贈り物」、「最後の一葉」は含まれない短編集。
これが非常に「小粒でもピリリと辛い」山椒的で、どれも読ませる。19世紀当時のニューヨークの様子が手に取るように伝わる。
『エイジ・オブ・イノセンス』イーディス・ウォートン
- 作者: イーディスウォートン,Edith Wharton,大社淑子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1993/09
- メディア: 文庫
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1921年にピューリッツァー賞を受賞した作品。舞台は19世紀のニューヨークで、ニューランド・アーチャーという名家出身の青年がオペラ座でエレン・オレンスカという伯爵夫人を見かけるところから始まる。長年ヨーロッパで暮らしていたエレンは、夫との離婚を視野にふるさとのニューヨークに戻ってきていたのだ。メイという婚約者(しかもエレンのいとこ)がいながら、ニューランドはエレンに惹かれていく。
例えるならば、19世紀版『ゴシップガール』。というよりも、初期ヒーローの名前がネイト・アーチボルドという時点で、『エイジ・オブ・イノセンス』が意識されているのは明らか。謎に人妻と……みたいなシーンもいくつかありましたね。確か『エイジ・オブ・イノセンス』を高校で上演するという1幕もあった。
番外編
『ユー・ガット・メール』などで、ニューヨークを美しくとらえた「ラブコメの女王」監督、ノーラ・エフロンのエッセイ。個人的に、今まで読んだエッセイの中で一番面白かった作品。
アッパーイーストサイドに住み、ブローのためだけに美容院に週2回行くようなセレブ。そして人もうらやむキャリアを持った美人。
なのに首のシワを異常なまでに気にして、ハンドバッグのなかには常にtictac*2やAdvilが散乱している。そして、レシピ本を通してシェフと想像上の会話を繰り広げる。
なんてチャーミング。こんな60代になりたい♡
ガーディアンや、ペンギン/ランダムハウスによるニューヨークを舞台にした小説リスト
もあります。
そしてこちらは
"100 books across America"
ということで、各州を舞台にした小説およびノンフィクションを紹介しているlithubの記事。
見ているだけでわくわくする!
旅行に行く際は是非。
みなさま、今週末もhappy reading!