トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

南仏を舞台にした小説 5冊

 海はどこまでも碧く、太陽が眩しくて、淡い色の花が咲いていて……。

 空気まで甘く感じるような南仏を舞台にした小説をリストにしてみた。

 

 

『夜はやさし』スコット・フィッツジェラルド

夜はやさし

夜はやさし

 

 ニューヨークの喧騒に疲れ果て、フランスに移住したフィッツジェラルド夫妻。 

 1929年には大不況に見舞われ、ジャズ・エイジもなりをひそめた。あれほどちやほやされたフィッツジェラルド夫妻も半分忘れられ、妻のゼルダはパリで統合失調症になってしまう。

 ゼルダの入院費、娘のフランセスの養育費、生活費……フィッツジェラルドはお金を稼ぐために短編小説を書きまくるようになる。

 そして、発表された4作目の長編小説がリヴィエラ海岸を舞台とした『夜はやさし』。

 モデルとした人物もいるとされているものの、ほとんど自伝のような物語である。

 主人公のディック・ダイヴァーはアメリカ人で、アルコール中毒の精神科医。

 大富豪の娘であるニコルと恋に落ち、結婚すると二人はリヴィエラに引っ越す。朽ちかけた睡蓮のような別荘。

 物語は、ダイヴァー夫妻とその周りの人々を中心に描かれる。たくさんの取り巻きと、美しいフレンチ・リヴィエラの描写。何も起こらない生活に飽き飽きしているお金持ち。

 こう書くとつまらないように聞こえるかもしれないが、フィッツジェラルドの美しい文体で描かれるので全てがとにかくみずみずしい。

 ディックは若い女優ローズマリーと恋愛関係になる。ニコルも不倫を始め、結果的にはディックの元を去る。ディックは周りの人に奉仕し続けてきた人生をゆっくりと振り返る。もう落ちていくしかない。そんな絶望的な感情が、それでも甘く、どこまでもやさしく書き留められている。

 村上春樹評:器量のある小説。

 ヘミングウェイ評:あまりにもすばらしくて恐いくらいだ。 

 

『悲しみよこんにちは』フランソワーズ・サガン

悲しみよこんにちは (新潮文庫)

悲しみよこんにちは (新潮文庫)

 

 美貌の父、17歳の娘、父の愛人。

 3人は夏休みをコート・ダジュールの別荘で過ごすことにする。

 馬鹿騒ぎをして、毎日楽しんでいるところに亡き母の友人であるアンヌというクールでスタイリッシュな女性がやってきて……。

 南仏の美しい風景をバックに、17歳のセシルの初めて経験する(肉体関係も含めた)恋、父と愛人の関係の終わり、父とアンヌの恋などが展開される。

 眩しい日差しやお昼寝をして過ごすけだるい午後などが目に浮かぶよう。 

www.tokyobookgirl.com

 

『海を見たことがなかった少年』 ル・クレジオ

海を見たことがなかった少年―モンドほか子供たちの物語 (集英社文庫)

海を見たことがなかった少年―モンドほか子供たちの物語 (集英社文庫)

 

 2008年にノーベル文学賞を受賞したル・クレジオの短編集。

 子供を主人公、もしくは登場人物としたものばかりで、南仏の光で溢れているようなノスタルジックなお話ばかり。

 「モンド」という短編は特に印象深い。

モンドがどこから来たのか、誰にも言えなかったに違いない。ある日たまたま、誰も気がつかないうちにここ、私たちの町にやって来て、やがて人々は彼のいるのに慣れたのだった。

 突然町に現れた10歳の少年、モンド。彼は自然に町に溶け込み、海をみたり散歩したり、町の住人と心を通わせていく。漁師やジプシー、丘の上の大きなお屋敷に一人で住むヴェトナム人女性のティ・シン。

 野良猫が決していついてはくれないように、その日々にも終わりが来るのだが、彼の残した「いつまでも、たくさん」という言葉はきっと読者の胸にずっと残る。

 ル・クレジオの作品の中ではかなり読み易い方なので、最初の1冊にもおすすめ。

 

 「モンド」と「海をみたことがなかった少年」は1本の映画にもなっている。美しい南仏や港の風景が楽しめるので、こちらもおすすめ。 

モンド ~海をみたことがなかった少年~ [DVD]

モンド ~海をみたことがなかった少年~ [DVD]

 

  

『香水- ある人殺しの物語』パトリック・ジュースキント

香水―ある人殺しの物語 (文春文庫)

香水―ある人殺しの物語 (文春文庫)

 

 世界で最も多くの言葉に翻訳されている小説って、ご存知ですか? 

 『星の王子さま』などいくつかあるのだが、この小説も常にリスト入り*1しているのである。「ガーディアンの1000冊」にも選ばれている。

 物語の舞台はグラース地方。香水の名産地として有名な場所である。

 香りに魅せられた醜男グルヌイユ。鼻が異常に効くということで命拾いした彼は、香りに翻弄され、香りを征服しようと四苦八苦する人生を送ることになる。

 ジャスミンの抽出やその香りの描写など、読んでいるだけでいい香りを感じるような箇所も多い。

 

『モデラート・カンタービレ』マルグリット・デュラス

モデラート・カンタービレ (河出文庫)

モデラート・カンタービレ (河出文庫)

 

 フランスの南西部・ジロンド県の小さな町で起こる、痴話喧嘩の末の殺人。

 殺されるほど愛されたかった女。殺したいほど憎んで愛した男。

 息子をピアノに連れていく裕福な主婦は、バーで労働者階級の男と出会い、事件について話を重ねるようになる。そしてそのうちに、自分の中に眠る衝動や感情に気づいて……。

 全てを捨ててまで追い求めたいものは何か? うわっつらではない愛とは何か?

 モデラート・カンタービレとは「普通の速さで、歌うように」という意味だが、ピアノの音が聞こえてくるかのようなお話。

 

『南仏プロヴァンスの12か月』ピーター・メイル

南仏プロヴァンスの12か月 (河出文庫)

南仏プロヴァンスの12か月 (河出文庫)

 

 エッセイだと、こちら。 

 ロンドンの広告営業マン、ピーター・メイルは仕事を辞め憧れの地であった南フランスに移住する。

 豊かな自然、素朴で美味しい料理について綴ったエッセイ。

 
 みなさま、今日もhappy reading!

 

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