宝塚が好きで、宝塚がモチーフとなった作品をついつい探して読んでしまいます。
小説
男たちの「宝塚」を描く: 『ヅカメン! お父ちゃんたちの宝塚』
宝塚歌劇団に所属しているのは女性だけ。でも、舞台で輝く男役・娘役を支える裏方には男性もたくさんいる。という視点で、男性が描く、男性の物語。
阪急電鉄で勤め上げ、いきなり何の興味もない宝塚歌劇団・月組の「お父ちゃん」役に任命される初老の男性。
幼い頃観た宝塚の舞台に絶対立つんだ! と、ストイックにレッスンを重ねる少女を見守る酒屋経営の父親。
自身も俳優志望ながら両親に言い出すことができず、宝塚音楽学校に合格した妹を複雑な気持ちで支える兄。
宝塚ファミリーランドの乗り物修理をしたくて就職したものの、なぜか歌劇団の大道具係に任命されたヤンキー。
異動で歌劇団の制作部に配属され、団員の肩たたき(リストラ)に関わることとなった阪急電鉄の元・人事担当社員。
どれも泣けます。特に肩たたきのエピソード。「毎年新しいタカラジェンヌが40人入ってくるのだから、40人が去らなければいけない」宝塚。
ちなみに作者は、90年代の月組で活躍した72期生・るんぱ(真山葉瑠)さんの旦那様だそう。だからこれほどまでに心温まる物語が書けるのかも!
作中には、サンバさんという「渋い男役」が登場するのですが、これはきっと奥様のるんぱさんをモデルにして書かれたのだろうな……という記述もちらほら。
男性にもオススメの一冊。下級生に追い越されることも、成績がよくてもトップになれないことも日常茶飯事の宝塚は、想像以上に実社会やオフィスポリティクスと瓜二つ。そのシステムを知れば、辛い思いをしてもそれをおくびにも出さず笑顔で舞台に立つタカラジェンヌたちを応援したくなると思う。
新人公演主役に抜擢された少女と大劇場に住むファントム: 『男役』
レズビアン小説の第一人者、中山可穂が描く宝塚の世界。中山可穂自身が、宝塚の元男役トップスターと8時間ほど対談する機会があり(どなたなのかは分かりません)、その際に退団後に性転換する難しさや、人によっては20年近くもかけて培った「男役」という個性を捨て去らないといけない悲しさを強く感じ、インスピレーションを受けたとのこと。
トップスター就任2日目に劇場の事故で亡くなった男役がいた。「ファントムさん」である。ファントムさんを見た男役は必ずトップになるという『オペラ座の怪人』風の伝説がまことしやかに伝わる宝塚。
研3のナッツは、ある日新人公演の主役に大抜擢される。実は彼女の祖母は、ファントムさんこと扇乙矢の相手役だった神無月れいで……。宝塚を観たことのない方も楽しく読めるファンタジー小説。
著者はモデルはいないとしているものの、「永遠の二番手」、「異端児」、「らんとむさん」、「組み替えジプシー」、「研2で男役から娘役に転向したチャメ」など、実際のOG/タカラジェンヌを彷彿とさせるキーワードがわんさか。ちなみに脇役の名前も「夢ぴりか」、「笹にしき」など楽しいものばかり。ありそうでない芸名を考えないといけないの、大変でしょうね。笑
中山可穂はインタビュー*1で
実はシリーズ化を目論んでいます(笑)。『男役』の対をなすように『娘役』とか、雪組篇、花組篇、星組篇、専科篇とか、色々アイデアはありまして、早く書きたくて書きたくてうずうずしています。多分、こういう風に宝塚を書いた小説ってなかったと思います。多少なりとも舞台の熱を体で知っていて、しかも宝塚への愛とリスペクトを持っている私のような作家だからこそ書けるという自負もありますし、宝塚にまったく興味のない人が読んでも、小説として面白いものを提供できる自信があります。ただ今回の『男役』が売れないとシリーズ化の企画は通らないので、続きを読みたい方は周囲のヅカファンにご宣伝ください(笑)。
とお話しされているのですが、翌年には無事シリーズ2作目を出版。
残り少ない宝塚人生を生きる娘役と彼女を見守るヤクザ: 『娘役』
それがこちら。
ヤクザの片桐は、大鰐組の伝説の親分・ワニケンを殺せという命令を受け、彼を1日尾行している。そんな中ワニケンがふらりと立ち寄ったのは、なんと宝塚大劇場。逃してはならないと慌てて当日チケットを買い求め、親分の後ろの席にこっそり座る片桐。休憩時間に殺すタイミングをうかがっていると、尾行に気付いたワニケンは片桐に向かってこんな一言。
冥途のみやげにミッチーが大羽根背負って大階段降りてくる姿を見せてくれ。苦節十八年、下級生に抜かれ抜かれてようやく掴んだトップの座なんや。
ご贔屓のミッチーの公演が終わるまでは殺すのは待て、というのだ。呆れた片桐だが、新人のラインダンスを見ているうちにその中の1人に心を奪われてしまい……。宝塚の新人娘役が辛い出来事や故障等々を乗り越えて成長する姿と、彼女を陰ながら応援し続けるヤクザの片桐の物語。ありそうでない設定が面白く、個人的には『男役』よりも楽しめました。それとなく宝塚用語の説明が盛り込まれたりと、趣向を凝らした一冊。
この作品にも特にモデルはないということですが、「大鰐組親分・ワニケンのご贔屓ミッチー」は、そこまで登場回数は多くないものの、
ミッチーさんはお料理上手だから、よく組子をご自宅に呼んでお鍋とか、パエリアとか、お好み焼きとか、ふるまってくれるよ。お弁当は、しずくさんがよく作ってきているみたい。愛妻弁当みたいで、かわいいの。
あれこれの描写に、これは! と誰もが思ったことでしょう。ミッチーが出てくる箇所だけ探して、最初に読んでしまったよね笑。
娘役とは宝塚以外の世界にはいない、一から十まで作り込まれた、男役のためだけに存在する幻の女なのだ。
という一言が本当に娘役の、ひいては宝塚の全てを表している気がします。著者の、宝塚への愛をひしひしと感じる小説でした。
シリーズ三作目は専科が題材: 『銀橋』
第3作目『銀橋』も2018年発売に。
中の人(タカラジェンヌ)と外の人とのつながりが多く描かれていた『男役』、『娘役』とは打って変わって、こちらは内部での出来事を追う物語。『男役』、『娘役』は宝塚観劇することのない方もヅカファンも同様に楽しめるけれど、こちらはヅカファンであった方が楽しいかもと思ってしまうほど、いわゆるオタク度の高い作品になっています。それにしても、このシリーズ、読む人によって思い浮かべるタカラジェンヌさんは違うみたいで(モデルはいないと作者が公言しているにせよ)それもまた面白いなあと思ったり。
ちなみにあとがきはタカラジェンヌきっての文筆家、早花まこさん!
2022年に発売となった『ダンシング玉入れ』は上記三部作のスピンオフ的な作品
わたし……新たなご贔屓ができちゃいました。その名も三日月傑(すぐる)さん! 何を隠そう『ダンシング玉入れ』に登場する、宝塚歌劇団月組のトップスター。
2022年に、中山可穂さん4年ぶりの小説として出版されたこちらも、前作に引き続き宝塚もの。ただし登場人物たちがリンクしていた3部作とはまた時代が違うようで、登場するジェンヌさんはまったく別の人。主人公は暗殺者で、ノワール小説である『ゼロ・アワー』に登場した(らしい。読んでない&読みたい。以下にリンク)沙翁商会が登場する。
雰囲気としては3部作では『娘役』に一番近いかな? そして個人的には中山可穂さんの小説の中で一番のお気に入りとなりました。ものすごいトンチキなのでは!?と見せかけて、涙腺を崩壊させるストーリーが見事。
いつものように、実在のジェンヌさんとは関係ないと注意書きもありますが、瀬戸かずやさん、華形ひかるさんがご贔屓の方には是非おすすめしたい。嬉しくなると思います。あと、珠城りょうさんがご贔屓の方も! そしてこちらの帯は天真みちるさん! OGさんが次々に登場していて嬉しい〜。
私たちって、ずうっと不幸にならないような気がしない?: 『野ばら』
さて、上記宝塚小説に「リアリティがない」と思った方にオススメしたいのがこちら。
私たちって、ずうっと不幸にならないような気がしない?
これは小説の中で娘役が、親友のライター(こちらも美女)に言う言葉。若く美しく、どこに行ってもちやほやされる二人。それでも娘役は歌舞伎役者にいいように扱われ、ライターは不倫の恋に身をやつし……。だんだんと将来に不安を抱くようになる様子にはリアリティがある。
それぞれの女性が抱える葛藤と癒し: 『スペードの3』
宝塚OGを思わせる女性のファンクラブの描写から始まる1冊。いわゆる私設ファンクラブの幹部として働いて得たお金も時間も大好きなミュージカル女優のために捧げる女性、そんな彼女の前に現れた昔の知人、そしてミュージカル女優本人と、3人が抱える葛藤や少しずつ前進していく様子が描かれている。
漫画
エッセイ漫画だとはるな檸檬さんの作品が大大大好きです!
ヅカオタ人生万歳!: 『ZUCCA x ZUCA(ヅッカヅカ)』
宝塚ファン(オタク)あるある満載で、微笑ましく、とにかく笑えます。
2010年に連載がスタートし、宝塚100周年である2014年に終了。脱力系の絵がなごむ。
満遍なくどの組のスターの名前も出てくる感じ。どのタカラジェンヌさんの絵も似ている!
そして、読んでいるとはるな檸檬さんはこういう系統のジェンヌさんが好きなんだな〜というのが分かる気がして、なんだか面白い。
2016年にはヅカオタ夫婦を描いた
夫婦共通の趣味があるって尊い: 『タクマとハナコ』
1&2巻が発売に。
こちらは蘭寿とむさん率いる花組〜現在のスターたちが出てきます。
夫婦で共通の趣味があるって、やっぱり素晴らしい!
夢を追いかける少女たちの苦悩: 『淡島百景』
エピソードごとに違う人物が取り上げられる群像劇。淡島音楽学校に通う少女たちの青春の物語、という感じ。絵と余白が美しいです。
シリアスな作風。
淡島百景というタイトルが、1940年代の娘役トップ淡島千景さんを彷彿とさせますよね。
少女たちが七転八倒: 『かげきしょうじょ!!』
未来の紅華歌劇団所属を目指す少女たちが通う、神戸の音楽学校を舞台とした漫画。
予科生の中でひときわ背が高く目立つ女の子・さらさを、アイドルグループに所属していた経験を持つ同期・愛の視点から描いたお話です。
さらさは天真爛漫で、いつかオスカルになりたいと夢見ています。その自由奔放な言動は時に騒動を巻き起こしたりもするのですが、実は歌舞伎界のプリンスとつながりがあるようで……。
紅華歌劇団そのものはまだそれほど登場しないのですが、音楽学校で四苦八苦する姿が青春そのもの。ついついさらさや周りの女の子を応援してしまいます。
「不完全であること」が求められるアイドルグループ、「名前を受け継ぎ、前任者と全く同じ芸事を再現すること」が求められる歌舞伎。
それらと紅華=宝塚の差が描かれるのが非常に興味深かったです。
花とゆめコミックスで1-10巻まで出ており、花とゆめで連載する前はジャンプ系で連載していたそう(雑誌が途中で休刊に)。
その内容はシーズン0上下巻としてKindle版で入手可能。読まなくても内容は分かるのですが、背景として読んでおくと二倍楽しめるので、こちらを先に読むのがオススメ。
スポ根系ヅカ漫画: 『ライジング!』
アメリカ育ちでダンスが大好きな少女祐紀は、神戸に住む叔父の家に滞在中、宮苑音楽学校を受験し受かってしまう。ダンスが学べる高校だと考えていた祐紀だが、宮苑は全員女性の宮苑歌劇団向けスター養成学校だった。
同級生のライバル薫と競い合いながら、男役トップスターを目指す祐紀。ところが、入学当初から祐紀を見守り続ける若き演出家・高師は、祐紀を娘役トップにしたいと考えていた……。
荒波にもまれながらも、舞台に立つことの楽しさを学び、一女優として大成していく女の子の物語。波乱万丈で、最後まで飽きさせません。
出版された時代が時代だけに『ガラスの仮面』を色濃く感じるシーンもたくさん。劇中劇だったり、「朴念仁(速水真澄か!)」と揶揄される高師と祐紀の恋だったり。
原作を書いた氷室冴子さんは、実際に宝塚に住み、とあるスターさん(一路真輝さんという噂も)のファンクラブの幹部にまでなったとか。その経験を踏まえて書かれたものだからか、一見華やかな「宮苑」ジェンヌさんたちの苦悩がすごく詳しく描写されているなという印象を受けました。
ヅカオタの男の子から見た夢の世界: 『すみれの花咲くガールズ』
男性向け雑誌ビッグコミックに連載されていたこともあり、話の進み方が少年・青年漫画という趣の作品。それがまた新鮮でいいです。
2巻完結で、主人公は背が高いことがコンプレックスの女子高校生。宝塚オタクの男の子と出会い、歌劇団の入学試験を中心に話が展開していく。
『かげきしょうじょ!!』では歌劇団と歌舞伎の共通点・違いがテーマになっているのだけれど、こちらはなんと歌劇団と相撲! お父様がスポーツ選手というジェンヌさんは多くいらっしゃるので、その辺りを想像して読むと面白いかも?
ねこが歌い踊る: 『ヅカねこ』
皆様のオススメ作品も教えてくださいませ♪
こちらは、宝塚歌劇団で舞台化された海外文学を読んだログ(↓)。2021年だと『日ガール狂騒曲』の『十二夜』など。
宝塚で舞台化してほしい海外文学をまとめました(↓)。
*1:作家の読書道:第58回 中山可穂さん。