トーキョーブックガール

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『十月はたそがれの国』 レイ・ブラッドベリ

[The October Country]

いつも10月に再読。

10月はたそがれの国 (創元SF文庫)

10月はたそがれの国 (創元SF文庫)

 

 ブラッドベリの処女作『黒いカーニバル』にさらに4つ短編を付け加えた、初期の短編集。

収録されているのは「こびと」、「つぎの番」、「マチスのポーカー・チップの目」、「骨」、「壜」、「みずうみ」、「使者」、「熱気のうちで」、「小さな殺人者」、「群集」、「びっくり箱」、「大鎌」、「アンクル・エナー」、「風」、「二階の下宿人」、「ある老母の話」、「下水道」、「集会」、「ダッドリー・ストーンのふしぎな死」。

各作品のタイトルからして不穏な空気が漂い、訳者・宇野利泰さんの漢字・かな遣いに思わず唸る。

『10月は〜』という通り、夏休みが終わり、街からはサーカスやカーニバルが去り、海や岸辺からは人が去り、風が涼しくなる「秋」を背景に据えた作品ばかりで、この時期に読むには最適。なので、個人的に文字が小さくて読みづらい(2016年刷のものなのに〜)と思っているにもかかわらず、10月になるとつい手に取ってしまう。

作家人生後期に書かれたSF作品とは毛色が違い、「死」にまつわる幻想・怪奇譚ばかりである。詩人ブラッドベリならではの文章を堪能できるのもいい。

ブラッドベリが「同じ世界観だ」と心底惚れこみ、その後も様々な作品でイラストを描くことになったジョセフ・ムニャイニのイラストもまた味がある。うかつに触れてはいけないような妖気すら漂っている気がする。

 

「つぎの番」

 メキシコにやってきた夫婦。二人の生活はマンネリ気味で、妻は

いまはふたりのあいだに、美しい夏の気候の訪れることはない。彼女の胸を焦がし、そのからだにたまった古い水分を蒸発させる熱はもどってこないのだ。

と考えている。

二人はホテルの窓から葬式を目撃する。幼い子供の葬式らしい。あまりに暑い町で防腐剤もないので、死んで数時間もすると墓場へ運ぶ習わしなのだ。妻は気味悪がり、町を出ようと主張するが、夫はこの町で有名なミイラの埋葬所を見に行こうと提案する……。

ミイラ取りがミイラになる(?)ような話なのだが、妻の視点から夫の視点へと切り替わるところが恐ろしい。メキシコの《死者の日》とからめたストーリー展開も読ませる。

 

「マチスのポーカー・チップの目」

平凡な夫婦が、ひょんなことから前衛芸術運動(アヴァンギャルド)の中核となり、もてはやされるようになる。冗談のつもりが本気になり、担がれていたはずが担いでいる。この転換が見事。

タイトルの「マチス」とは画家アンリ・マティスのことで、主人公が最後に「マチスがポーカーチップ上に描いた絵をもらう」ことから。

マティスのクールで、心が入ってないような数々の名作の「目」を思い出すと少しぞっとする。

 

「骨」

カフカがお好きな方におすすめの、不条理な世界。

 

「みずうみ」

 それは九月。夏のおわり。理由もなく、悲しみが湧きあがってくる時季だった。ながいなぎさがつづいているが、六人ほどの人かげしかないさびしさだった。 

 渚のホット・ドッグ屋台も全て店じまい。観光客のいなくなったレイク・ブラフ(イリノイ州、シカゴ近くの町。ミシガン湖に面している)を主人公の男の子も去る。

しかし10年後、大人になった彼が婚約者とその町を再び訪れると……。なんともいえない結末。

 

「使者」

 ぜったいにまちがいはない。十月というふしぎな生きものがやってきたのだ!

部屋へ走りこんできた犬の匂いで、秋の訪れを知る病気の少年。毎日外を走り回っては、季節の移り変わりを少年におしえてくれる賢い犬。ところがある日、そんな犬が連れてきたのは……。

予期せぬ展開に唖然としてしまう。

 

「びっくり箱」

「ママ……?」声がはっきり、言葉にならなかった。「死ぬって……どんなことなの? かあさんはよく話すけど、どんな感じのことなの?」

「ほかの人をまねて生きていく者には、いやな感じだろうね」

噛み合わない会話を含め、どことなく稲垣足穂を思い起こさせる幻想譚。

ママとふたりで踊り、砂糖ごろものついたクッキーを食べ、レモンの氷菓をかじり、ピンク色のブドー酒をのむ男の子。

いくつものドアを開けて大きくなるのだが、その過程はどこか危険なところがあって……。 

 

とにかく奇妙な物語ばかりで、比較的ボリュームがあるので長い期間楽しめる。文庫は496ページだが、文字がかなり小さいですからね。そして意外と飽きない。同じパターンの話が二つとないから。

一晩に一話ずつ読んでいたら、読み終える頃には自分も不思議の国へ迷い込んでしまうそう。

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