トーキョーブックガール

世界文学・翻訳文学(海外文学)や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

宝塚・雪組公演が決定した『ほんものの魔法使』(ポール・ギャリコ・著、矢川澄子・訳)

*創元推理文庫で、5月に原作が復刊されるとのこと。Amazonの価格も高騰していたのでよかったです。 

ほんものの魔法使 (創元推理文庫)

ほんものの魔法使 (創元推理文庫)

 

 

 2020年12月18日、朝美絢さん主演の東上公演が発表に! 

 おめでたいですね。そして楽しみですね。

 今年は世界文学が原作の舞台はほとんどないだろうなと思っていただけに、世界文学好きとしても嬉しいニュース。なんせ、原作はポール・ギャリコのファンタジー小説。

 

 

 ギャリコって読んだことないかも? と思って自分の読書ノートを漁ってみると、結構読んでいることに驚く。大大大好きな『猫語の教科書』に、『雪のひとひら』と『ジェニィ』、『トンデモネズミ大活躍』もギャリコだったとは! 

 ヒロインが発表される前に読もう〜とうきうきしていた。

kageki.hankyu.co.jp

 

原作探しが難航した話

 ところが! 入手するまでにすごく時間がかかったのである。『ほんものの魔法使』は1966年に発売された小説で、日本語訳で一番新しく出版されたのは2006年のちくま文庫。でも、これは売り切れているのか絶版になっているのか、すでにどこにもない。しかも、宝塚での上演発表を受けて、Amazonではハードカバー版に36万円という法外な値段がついているのですよ!

ほんものの魔法使 (ちくま文庫)

ほんものの魔法使 (ちくま文庫)

 

 そこでわたしは考えました。原書(The Man Who Was Magic)を読めばいいか、ギャリコだしKindle版あるよねと。同じことを考えた宝塚ファンの方、結構いるに違いない。ところが(二度目)! 電子書籍(英語)もない。日本のAmazonはおろか、Amazon.comにもない(ボロボロのペーパーバックは第三者が販売しているようだが、日本への出荷はなし)。

 しょうがない、じゃあスペイン語で読むか(El homber que fue Magic)とAmazon.esを探したけれど、こっちもない……。

 あわてて近隣の図書館のサイトで予約したのが、発表から2日後くらい。ところが(三度目)! 全人口に対するヅカオタ人口は、関西に比べ低いと思われる東京23区だというのに、同志によるものであろう先約が4件も入っていた。すごくないですか? ちょっと笑ってしまった。

 ようやく手元にやってくる頃には、ヒロイン=野々花ひまりちゃんということも(おめでとう〜!)、キャストの振り分けも発表されていたのでした。せっかくなので装丁の写真を。ハードカバーでやってきた。もちろん、わたしの後にもヅカオタ同志(多分)の予約が入っているため、貸出延長は不可である。さあ、ではがっつりとシノプシスを書きます。

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主な登場人物

アダム       ストレーン山脈の彼方からやってきた正体不明の若者。

ジェイン      十一歳半の女の子。

 

モプシー      アダムの連れ。人間の言葉を話す犬。

偉大なるロベール  マジェイアの市長 ・魔術師名匠組合の統領。ジェーンの父。

ロベール夫人    ジェーンの母。

ピーター      ジェーンの兄。

法外屋フスメール  市会書記。アダムの受験を許す。

無二無双ニニアン  できそこないの魔術師のたまご。

全能マルヴォリオ  腹黒い魔術師。ロベールの後釜を狙っている。


あらすじ

*仮名遣いは矢川澄子訳に準拠。引用も矢川澄子訳より。

 ある日、赤茶の髪と淡緑の眼をした若者が、黒い犬と一緒に、魔法の都マジェイアにやってきた。名前をたずねる門番に、若者はアダムだと答える。マジェイアの魔術師名匠組合(ギルド)に加入したいと思い、試験を受けにやってきたという。

 マジェイアは魔術師の住む街として有名だった。しかし魔術師とはほんものの魔法の使い手のことではなく、手品師(マジシャン)のことである。彼らは自分たちの技術が盗まれないよう、街への部外者の出入りを禁じていた。その日は新たに「魔術師」と認定されマジェイアに住みたいと願う者が集まる試験の日だった。

 マジェイアで試験の助手を務めてくれる人を探していたアダムは、ジェインと出会う。ジェインは手品がうまくできない上、女の子だからと魔術師になるための勉強もさせてもらえないことが悲しくて泣いていた。アダムは杖から白いバラを出現させ、ジェインに差し出すと、自分の助手にならないかと声をかける。ジェインは承諾し、二人と一匹は試験会場へ向かう。 

 試験会場では、ニニアンという魔術師と知り合いになった。ニニアンは何年も連続で試験に失敗しており、今日もすっかり上がってしまっていた。同情したアダムは、鳥籠を隠すというニニアンの手品をこっそり手伝い、見事な水槽まで出現させる。これには魔術師たちも拍手喝采で、ニニアンは最終試験に進むこととなる。

 アダム自身は、割った卵を元に戻すという鮮やかな魔法を披露した。魔術師たちは皆この魔術に魅せられ、からくりを知りたがる。ところがアダムは「ただの魔法です」と繰り返すばかりだった。

 

*この辺りまででちょうど半分です。結末を知りたくない方は、ここでお引き返しを。

 その夜、市長であるロベールは、自分の家でのパーティーにアダムを招待した。技術の力を用いた、全自動式の家を見せて仕掛けを説明する代わりに、アダムの魔術のからくりを教えてもらおうと目論んだのだ。しかし、らちがあかないため、ロベールは魔術について聞き出せと娘のジェインに指示する。

 ジェインは翌朝、アダム、モプシー、ニニアンを連れ、ピクニックに出かける。そしてモプシーとニニアンが昼寝をしてしまうと、魔術のからくりを教えるようアダムに迫る。アダムはここでも、自分が使ったのはただの魔法だと繰り返す。ほんものの魔法使など存在しないと訝しがるジェインに向かって、アダムは「自然は魔法であふれている」と説く。にわとりは卵を生むし、豚はベーコンに変わってお腹を満たしてくれる。ジェインだって、想像力さえ駆使すれば、頭の中で楽しかった思い出を再生したり、遠くへ旅をしたりすることができるのだ。アダムは頭を指差すと、頭は「魔法の箱」だと説明し、

きみの欲しいもの望むものは、何でもこの中からとりだせる。あらゆる魔法中の魔法が納まっているんだ。これが、きみを過去へも運んでくれれば、未来をも夢見させてくれる……きみは、いままで誰にも思いつかなかったことや成しとげられなかったことをやってのけられる。星へ行く道だって見つけられる。

と言う。

 一方マジェイアでは、マルヴォリオが手下と密談していた。もしアダムがほんものの魔法使であれば、マジェイアの魔術師の商売はあがったりだ。マルヴォリオはその夜ニニアンとモプシーを拉致し、アダムの秘密を喋らせようとする。モプシーは終始人間の言葉が話せないふりをするものの、ニニアンは、試験で見せた魔法が実はアダムによるものだとしゃべってしまう。マルヴォリオはどうにかしてアダムを排除しようと画策する。

 その後ニニアンとモプシーは別々に逃げ出し、どちらも最終試験の会場に向かう。ニニアンはアダムを見つけると「マルヴォリオがきみのことを、ほんものの魔法使だと思って捕まえようとしている」と告げる。アダムは驚き、「ぼくたちはみんな魔法使じゃないか」と言う。ニニアンは、魔法を使えるのはアダムだけで、あとは皆手品をしているだけなのだと説明するが、自分が友人を裏切り、その命を危険に晒してしまったことまでは打ち明けられなかった。

 最終試験で、アダムは手からさまざまな鳥や美しい蝶を出してみせる。だがショーが終わるが早いかマルヴォリオが立ち上がり、

こいつを告発する! おれたちの仲間なもんか。悪魔だ、殺しちまえ!

と叫ぶ。ほんものの魔法使がいると手品でお金儲けができなくなると恐れた人々はマルヴォリオと一緒になり、アダムにおそいかかる。

 アダムは、天井からいくつもの金貨を降らせてみせ、「みんなにたっぷりのお金が行きわたるようにしましょう」と告げる。人々は無我夢中になってそれを拾う。ふと気がつくと、舞台にいたはずのアダムとモプシーは消え失せ、助手のジェインだけがぽつんと立っていた。

 マジェイアの街には再び平穏が戻ってきた。人々は金貨のおかげで裕福にもなったが、なにかが昔とは変わってしまったように感じた。マジェイアに住む魔術師らは、ほんものの魔法使があらわれて、自分たちが笑い物にされることを恐れ、高い城壁をめぐらせて街の防衛につとめてきた。しかし、街にやってきたアダムという無垢な魔法使は、決して人々を傷つけるつもりなどなかったのだ。住民らは自分たちを惑わせた連中を非難するようになり、ある日マルヴォリオは死体で発見される。マルヴォリオの陰謀に加わったフスメールらも告発され、投獄された。 

 それから一年がたち、背も伸び美しく成長したジェインは十三歳を迎えようとしていた。ある日街を歩いていると、すっかり有名な魔術師となったニニアンに出くわす。ニニアンは、マジェイアを出てアダムを探しに行こうと思っていると話す。アダムを裏切ってしまったから、真実を告げて、許しを乞いたいというのだ。

 ジェインはピクニックのとき、アダムが樫の木のふもとに杖を置きっぱなしにしたことを思い出す。あの杖があれば、アダムの居場所がわかるかもしれない。二人は、ピクニックをした野原を訪れる。杖は年月がたってもアダムが突き刺したまま立っていた。握りのあたりからは白いバラの花がいくつも花開き、冬なのにそこだけ春のようだ。

 一緒にアダムを探しに行くとジェインは言い張るが、ニニアンはそれを制し、マジェイアにとどまりバラの守り手になるべきだと話す。ジェインが泣き出すと、「アダムはきみに魔法の箱を残していってくれたんじゃなかったか」と問いかける。あのピクニックの日、眠ったふりをして二人の会話を聞いていたのだ。ジェインはすっかり魔法の箱のことを忘れていた。

 ニニアンを見送り、一人きりになると、ジェインはあたりを見回してみる。季節の移り変わりは魔法そのものだった。ジェインは目を閉じ、アダムが言ったように、今までで一番楽しかったことを考えようとする。その脳裏に浮かんだのは、アダムとモプシーとともに過ごした日々だった。心の中でアダムが、「きみがまた呼び出してくれるまで、モプシーとぼくは旅をつづけることにしよう」と話しかける。

 目を開けるとジェインはまた一人ぼっちだったが、笑みを浮かべて帰路についたのだった。

 

所感

 英語での「magic(手品、魔法)」、「magician(手品師、魔法使い)」という言葉によって生まれる認識の齟齬を利用した物語である。 アダムはマジェイアのことを「魔法使いが住む都市」だと思い込んでいるが、実は「魔術師=手品師」しか存在しない。一方アダムが「ほんものの魔法使い」であることがわかると、マジェイアの人々は激しく動揺する。

 名前からも察せられる通り、アダムは神の子であるイエス・キリストを彷彿とさせる人物で、冷えた魚の切れ端を大ご馳走に変えてしまうというようなエピソードも登場する。子ども向けに書かれた物語ということもあり、自分の理解が及ばないものや未知の人を排除するのではなく、受け入れ共存しようという、キリスト教的なメッセージが込められている。

 また、アダムの街への出現から退去までが、イエスの人生そのものを体現しているようでもある。滞在期間は短いものの、その存在は多くの人々の生き方を変え、自分自身を見つめ直すきっかけとなる。

 となると、魔法とはつまり、「生きること」にほかならない。今生きているという奇跡を讃える、人生賛歌の物語なのだ。

 また、作中に登場する手品には、「本を読み上げてくれる機械」、「動く肖像画」、「声で命令して動かすオーブン」など、IoTなどの現代技術を想起させるものがある。手品で富を得、魔法の存在を否定するようになった人々の姿勢は、技術にかまけて人間同志のやりとりをおろそかにしがちな現代人への警鐘ともとれるだろう。

 ハードカバーでは、ロベールの表記が「ロバート」と混在しているのが気になった。

 

配役予想など

 わたしは雪組あまり詳しくないので&配役予想は外れる確率がめちゃくちゃ高いので、アレですが……公式ではタイトルの上に「ロマンス」とついているのが気になる。原作ではアダムとジェインは恋愛要素まったくないけど、ジェインの年齢を上げて二人の関係性にフォーカスを当てるのかな?

ヒロイン

 原作を読む前は夢白あやさんだとばかり思っていたので意外だったけれど、読んでみると野々花ひまりさんにぴったりだと感じた。感動屋さんで天真爛漫で100%「陽」のイメージ。ひまりちゃん、おめでとうございます♡  

モプシー

 純真なアダムと終始行動を共にし、読んでいる(見ている)方が「それはおかしいでしょ?」と思ったことを口にしてくれる、いわば「裏アダム」的な存在の犬。モプシーなしでも成り立つっちゃ成り立つと思ったけれど、公式でもしっかり名前が出てますね。黒いもしゃもしゃしたボディスーツ的なものを着て演じるの??? 

 マジェイアの魔術師の面々がアダムより年上という設定なので、モプシーは下級生配役かも。あと、あーさより背が高いとおかしいような気もする。蒼波黎也さんあたりかな? あとは彩みちるさんに合いそうなお役がないのも気になっていて、少年を演じる要領でモプシーを演じるというのもありかもと思った。『fff』もモーツァルトだったもんね。

ニニアン

 できそこないの魔術師。出番も多く、原作通りであれば最後のシーンにも登場するのでやっぱりこれは縣千さんであろう。

魔術師ロベールとロベール夫人

 ジェインに辛くあたりがちなロベール夫妻だが、決して悪役ではない。透真かずきさん&千風カラン副組長?

マルヴォリオ

 こちらは正真正銘悪役ということで、久城あすさんでしょうか。

気になる

 106期首席卒業&阪急初詣ポスターに抜擢され注目を集めている華世京さんのお名前も。すでにオーラすごい……どんなお役を演じられるのか今から楽しみ。歌がすごくうまいと聞いているので、ぜひ歌ってほしいけど、それはもう少し先かもしれませんね。

 

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