トーキョーブックガール

海外文学・世界文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いているブログです。

『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』ジョイス・キャロル・オーツ

[The Corn Maiden and Other Nightmares]

Hazards of Time Travelを読んでこちらも読みたくなり、去年出版された河出文庫版を購入。 

オーツの短編の日本語訳は、アンソロジーにちょろっと入っている程度だという認識だったので、こうしてまとまって本になって、しかも文庫化してもらえるのはとても嬉しい!

とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 (河出文庫)

とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 (河出文庫)

  • 作者: ジョイス・キャロルオーツ,Joyce Carol Oates,栩木玲子
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2018/01/05
  • メディア: 文庫
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表題作の「とうもろこしの乙女 ある愛の物語」が比較的長めでインパクトがあるのだが、どの短編も負けず劣らずオーツらしい「悪意」を放っている。

そして7つ続けて読むと、彼女の作品がアメリカという国でしか生まれ得ないものだなあと実感させられる。

例えば「とうもろこしの乙女」が誘拐され閉じ込められるニューヨーク郊外の大豪邸には祖母とジュードという女の子の二人しか住んでおらず、二人が使用するわずかな部屋以外は誰も訪れることはないという設定や、「ヘルピング・ハンズ」に見られる富裕層と退役軍人の関係性など。

 

が、「とうもろこしの乙女」はラテンアメリカ文学らしいところも多分にある。フエンテスの『アウラ・純な魂』や『20世紀ラテンアメリカ短篇選』の第1部、征服者と征服される者(インディオ)の葛藤や両者が混じり合う様子を描いた短篇にとてもよく似ている。

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 とうもろこしの乙女を生贄にするというオニガラ・インディアンの儀式に従い、同じ学校の知恵遅れと言われている美しい女の子を誘拐するジュードとその取り巻きたち。

母親もいっしょだった。見たんだ、二人でいるところを。母親がかがんでキスしてた。あんな子に! あのときハートに矢が突き刺さった。それで思った。あたしの存在に気づかせてやる。絶対に許さないって。

残酷な行為に及ぶ「恐ろしく地味な目鼻立ち」の少女の、世界に復讐してやるという怒りや恨みが痛いほど伝わってくる。

 

「ベールシェバ」では一人で生きる中年の男がとある女から電話を受け、うきうきと待ち合わせ場所に赴くとそこで待っていたのは……という話で、これもまた幼児虐待や性犯罪というアメリカの社会問題を扱っている。

ここでのベールシェバとは、イスラエルのそれではなくアメリカの田舎町にある教会の名なのだが、ベールシェバ出身の友人から「ベールシェバは砂漠の中にぽつんとある町」と聞いていたのを思い出してしまった。

 

「私の名を知る者はいない」の主人公は幼い女の子。母親が第二子を妊娠し、帝王切開で産んだのだが、自分がないがしろにされているようで不満を抱えている。

「赤ちゃんができてよかったね」と言われると微笑んで頷くものの、全然嬉しくないという気持ちを猫というモチーフを用いて描写する。なかなかにぞっとさせられる猫。

 

「化石の兄弟」「タマゴテングタケ」はどちらも双子(男)を主人公に据えていて、そのアプローチの違いを読み比べるのも面白い。

 

さて、春になって、色々と時間が足りなくなってきたので、しばらくブログを離れる予定。

とはいえ、更新は過去に読んだ本のレビューがしばし自動で続きますが、いいねやメッセージ、Twitterでご連絡頂いても反応できないかと思います。申し訳ありません〜!涙

みなさま、happy reading!